『自分らしさに向かって(仮)』#9
◀︎『自分らしさに向かって(仮)』#8
モーリスさんの仕事探しが一時中断となったため、ビリーは、これまで集めていた猫たちの移動記録を改めて詳しく調べることにした。
そして、2つのことが分かった。
1つ目は、男爵家に集まった猫たちが、ずっとそのまま留まっているわけではないことだった。
何匹かの猫は、朝の9時頃になると男爵家の北門付近から外へ出て、再び街中へ戻ってきていた。
捜索対象である可能性の高い猫については、居場所をその都度ルナに伝え、学院へ届けてもらっていた。
2つ目は、猫たちが街中から男爵家へ移動するときの動きだった。
猫たちは、それぞれ別々に男爵家へ向かうこともあったが、ときおり街中の1か所へ集まり、夕方になるとまとまって移動することがあった。
この動きは、ビリーが猫探しの依頼が出ていない猫についても調べ始めたことで、初めて分かったものだった。
ビリーは、男爵家の北門へいきなり近づくのは危険だと判断した。
まずは、街中の猫たちが集まる場所を調べることにした。
その場所は、最近、行列ができるようになった《ミエル・ミネット》の真向かいだった。
ビリーは、男爵家から街へ戻ってきた猫の居場所をルナに伝えると、ひとりで《ミエル・ミネット》の近くまでやって来た。
向かいの建物を確認しながら、辺りを見回していると、通りの向こうからルナが走ってきた。
そして、ビリーの姿を見つけるなり、大きな声を上げた。
「ビリー! 自分だけ、ココプリ食べようとしてないよね?」
「あっ、ルナ」
ビリーは、突然の疑いに言葉を詰まらせた。
「いや、調査だよ」
「何の? ココプリの?」
「違うってば」
「何の調査?」
「……」
ビリーは向かいの建物へ視線を向けた。
「僕の勘が、『この辺りが関係してそうだ』って告げてるんだ……」
「正直に言ったら? 『ココプリ食べに来た』って!」
「違うってば! どうしたら信じてくれるの?」
「ココプリをご馳走してくれたら、信じようかなぁ」
「そんなにココプリ食べたいの?」
「最近、人気なんだよ!」
「そもそも、ココプリって何?」
「えっ? ビリー、ココプリ知らないの?」
「知らないよ!」
ルナは少しだけ考え込んだ。
「じゃあ、ココプリ食べに来たわけじゃないか……」
「だから、そう言ってるじゃないか……」
「まあ、せっかくだから、ココプリ食べていきましょ! ビリーの奢りで」
「だから、ココプリって何???」
「ココナッツミルクプリンだよ! ほんと、知らないんだね」
「わかったよ……」
ルナとビリーは、《ミエル・ミネット》のカフェに入り、ココプリと紅茶のセットを2つ注文した。
やがて、2人の前にココプリと紅茶が運ばれてきた。
「ココプリだけじゃないの?」
「これも、調査なんでしょ?」
「調査と紅茶、関係ないでしょ?」
「まぁまぁ、ココプリの話を教えてあげるから」
「猫に関係ないでしょ?」
「ココプリ――ココナッツミルクプリンは、最初、それほど人気じゃなかったらしいの」
「それが、あるときから、毎日のように、ココナッツミルクプリンを6個買いに来る女の子が現れて、その子が、『ココプリ6個ください』と言い出したらしいの」
「店員さんが、『ココナッツミルクプリン6個でよろしいですか?』と訊くと、『そう。ココのココプリ6個』って、答えたらしいの」
「その子、5歳ぐらいなの?」
「私たちと同い年ぐらいみたい」
「えっ?『ココのココプリ』とか、言う?」
「私は言わないよ」
「店員さんが面白がって、札に《ココプリ》って書いたんだって」
「あっ、ルナ」
ビリーの視線が、ルナの肩越しで止まった。
向かいの建物の入口から、黒服の男が姿を現した。その腕には、1匹の猫が抱かれていた。
男は周囲を確かめると、そのまま階段を上っていった。
「向かいの建物の2階に、執事みたいな男が猫を連れていった」
ルナも振り返った。
「……ココプリ食べてる場合じゃなかった?」
「ルナが言うの?」

※ featuring シンフォニム「動いてみる」
「気がかり、行動、糸口」
※ このオリジナル創作小説の世界観から、Sunoで生成した楽曲です。
それぞれのことばが、
迷いながら創るあなたの、小さな創作のヒントでありますように。
#創作のヒント
#思考のヒント
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Photo: Unsplash
(c) s.f.出版
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