英語が話せる人は、もう珍しくありません。でも、二つの国の“当たり前”が分かる人は、まだ足りていません【海外大学への道③・最終回】
全3回のシリーズで、高校から海外の学校に通い、そのまま現地の大学へ進んで卒業するという道について書いています。
今回はその第3回、最終回です。
前回は、海外の大学の4年間が、慣れることに使われるか、学ぶことに使えるかで、まるで別物になるという話でした。
今回はその先。
7年をかけて海外の高校と大学を出た人が、いまどこで必要とされているのか、という話です。
「留学して、結局どんな仕事につくの?」と聞かれて、答えられなかった
お子さんの留学の話をすると、親戚や知人から必ずこう聞かれます。
「それで、将来はどんな仕事につくの?」
このとき浮かぶのは、たいてい通訳、翻訳、商社、外資系の会社、客室乗務員。
だいたいこのあたりではないでしょうか。
実は、ここがいちばんもったいないところなんです。
このイメージは、英語ができる人がまだ珍しかった時代に作られたものだからです。
その時代なら、英語が話せること自体が仕事になりました。
でも今は、状況がすっかり変わっています。
そして変わった先に生まれた仕事のほうが、はるかに面白いんですね。
今回はその話をしていきます。
英語が話せるだけでは、もう仕事になりません
翻訳アプリがあります。
生成AIもあります。
日常のやり取りや、書類を読む程度のことなら、もう十分に間に合ってしまいます。
社内に英語ができる人が一人もいない、という会社のほうが少なくなりました。
つまり、英語が話せることそのものの値打ちは、下がり続けているんです。
ここで多くの方は「じゃあ留学の意味は薄れたのでは」と思われるかもしれません。
僕は逆だと思っています。
なぜなら、言葉が通じるようになっても、まったく解決しない問題があるからです。
しかもその問題は、世界中の企業が、いま本気で困っている場所にあります。
会社が本当に困っているのは、言葉ではなく“当たり前”の違いです
国境をまたいだ会社どうしの買収や合併が、うまくいかないことがあります。
その失敗の7割以上は、お金や数字の問題ではなく、二つの会社の文化がぶつかったことが原因だと言われています。
たとえば日本側は、関係者に根回しをして、全員の合意を取ってから動きます。
海外側は、責任者が決めたらすぐ動きます。
どちらにもちゃんと理由があるのに、お互いからは「遅すぎる」「勝手すぎる」としか見えない。
そして優秀な人から辞めていきます。
ここは、通訳を入れても埋まりません。
言っている言葉ではなく、その言葉の裏にある考え方が違うからです。
両方の“当たり前”を体で分かっている人にしか、埋められないんですね。
そして、そういう人を企業は本気で探しています。
会社と会社のあいだに立つ仕事
具体的には、こんな仕事があります。
◆国境をまたいだ会社どうしの買収や提携を、相手探しから条件の交渉まで支える仕事「クロスボーダーM&Aアドバイザリー」
◆買収が決まったあと、二つの会社の制度や働き方、社内の空気を一つにまとめていく仕事
◆海外の有望な会社を早い段階で見つけて投資し、その会社の海外進出を手伝う仕事「ベンチャーキャピタリスト」
この最後の仕事は、想像しやすいかもしれません。
現地の起業家がどれだけ本気なのか、その事業が現地のどんな困りごとから生まれたのかは、資料を読むだけでは絶対に分かりません。
現地の人の輪に入って、雑談しながら感じ取る必要があります。
その一方で、投資を決める会議では、筋の通った言葉で説明しなければ一円も動きません。
この両方ができる人は、本当に少ないんです。

商品やサービスと、その国の人のあいだに立つ仕事
もうひとつ、こんな仕事もあります。
◆世界に売る商品やアプリを、その国の人の感覚に合わせて作り直していく責任者「グローバル・プロダクトマネージャー」
◆新しいサービスを海外で出すとき、その国の人がそれをどう受け取り、どう使うのかを調べる仕事
◆海外の会社と組んで、新しい事業を一から立ち上げる仕事
たとえば画面のデザインひとつをとっても、余白が多くてシンプルなほうが見やすいと感じる国と、一度に多くの情報が並んでいるほうが安心する国があります。
言葉を訳しただけでは、まったく売れません。
なぜ現地の人がその機能を嫌がるのかを肌で分かったうえで、母国の開発チームには技術の言葉に置き換えて説明し、動いてもらう。
この二役を一人でこなせることが、そのまま強みになるんですね。

国や社会と、会社のあいだに立つ仕事
さらに、こんな仕事もあります。
◆各国の政府や役所と話し合い、自社の事業に関わるルールづくりに関わる仕事「渉外担当」
◆世界中の工場で働く人たちの労働環境や人権が守られているかを確かめ、改善していく仕事
◆国籍も宗教も育ちも違う社員が、力を出せる組織を作っていく仕事
国のルールは、その国の歴史や価値観と深く結びついています。
だから交渉の場では、相手の主張を「こちらの邪魔をするもの」ではなく「その国なりの正しさ」として理解できないと、落とし所を作れません。
工場の話も同じです。
先進国の基準をそのまま押し付ければ、隠されて終わります。
現地の人が抱えている事情を分かったうえで、実際に守れるやり方を一緒に作る。
これができる人は、どこの会社でも取り合いになります。

この仕事は、大学の4年間だけでは間に合いません
ここまで挙げた仕事に共通していることが、ひとつあります。
二つの“当たり前”を、知識としてではなく、体で分かっていることです。
これは本を読んでも、短い滞在をしても身につきません。
その国で暮らし、その国の学校で学び、その国の人と何年もぶつかりながら過ごした人にだけ残るものです。
そして前回お話ししたとおり、大学の4年間だけで渡ると、その多くが慣れることに使われてしまいます。
高校の3年と、大学の4年。
合わせて7年、現地で過ごして卒業まで行った人だけが、この場所に立てるんですね。
最後にひとつだけ。
今の日本から見えている職業の中から、将来を選ぼうとしていないでしょうか?
自分が知っている仕事のリストは、自分が生きてきた場所のリストでもあります。
誰かの代わりがきく仕事ではなく、その子にしか立てない場所に立ってほしい。
名前のある大学に入ることよりも、そこで何を積み上げたかで見てもらえる大人になってほしい。
そう思う方にとって、高校からの正規留学は、重要な選択肢の1つだと言えますね。

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