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インタウンデザイナーの矜持──地域の関係性を編みなおすデザインの力

今回の越前鯖江のツアーにおいて、福井の産業観光は、これからさらに大きく飛躍していくだろうという確信を持った。昨日の記事でも紹介したように、狭い地域にさまざまな工芸が集積しているという越前鯖江のポテンシャルがあることはもちろん、それを引き出しているTSUGIの役割を無視しては語れないだろう。


インタウンデザイナーによる無名のデザイン

TSUGIを立ち上げた新山直広さんは、「河和田アートキャンプ」に参加したことで鯖江との縁ができ、2009年に移住する。市の仕事に関わる中でデザインの重要性に気づき、「福井の仕事しかしない」という地域特化型のデザイン会社「TSUGI」を立ち上げる。新山さんは自身を「インタウンデザイナー」を自称する。このインタウンデザイナーは、グラフィックやプロダクトなどのいわゆる狭義のデザインだけでなく、地域のさまざまな課題を工夫して解決する、仕組みのデザインも含まれる。

新山さん自ら運転して地域を案内してくれた

「インタウンデザイナー」という言葉の語源は、企業内でデザインを担当する「インハウスデザイナー」にある。インタウンデザイナーを理解する上で、寄り道のようではあるが、インハウスデザイナーについて考えてみよう。事業会社のつくる製品や広告、パッケージや店頭のデザインには、表立って制作者の名前は出てこない。しかし、そこにさまざまなデザイナーが関与していることが明らかだろう。

彼らは、企業の個性を顧客に伝えるために、自身の個性を大きく主張するようなデザインを行うことはない。いわば無名のデザインである。もちろん、なかには有名なインハウスデザイナーも存在するが、多くの場合、企業から独立した後に遡及的に「○○のポスターは実は、□□の仕事だった」というように言及される。つまり、あくまで企業を引き立たせるための仕事をする陰の立役者なのだ。

その彼らに求められるのは、デザイン力だけでなく、製品理解に加えてその企業のブランドへの深い理解、そして社内の調整力、ときには政治力さえも必要となるだろう。これがまさに、「インタウンデザイナー」にも当てはまる。

インタウンデザイナーはあくまで黒子だ。地域の特性や文脈に合わせてデザインし、さまざまな関係者の調整役をしながら実現させていく。彼らが根ざしているのは、デザイナーのエゴではなく、地域のエコだ。地域の複雑なエコシステムの中で立ち上がるデザインには、実は特定の「作者」がいない。地域の人たちの誰もが、「あれは自分の関わった仕事だ」と誇ってもらえることが、デザインの成功なのだ。

KISSO代表の吉川さんの話に合いの手を入れる新山さん

地域が主人公となるRENEWのありかた

そのひとつの事例が、「RENEW」だ。越前鯖江の産業観光が脚光を浴びるきっかけとなった工房見学イベントである。2015年に始まったこのイベントは年々規模を拡大し、2019年にはグッドデザイン賞までも受賞して全国的に注目を集めている。この受賞者は、RENEW実行委員会であり、そこにクレジットされているのは地域の関係者だ。

プロデューサー:有限会社谷口眼鏡 谷口康彦+株式会社漆琳堂 内田徹+株式会社滝製紙所 瀧英晃+TSUGI 新山直広、森一貴
ディレクター:TSUGI 新山直広、森一貴
デザイナーTSUGI 寺田千夏

考えてもみてほしい。有名デザイナーがこれを手がけたとしたら、まず間違いなくデザイナーの名前が前面に出るだろう。それは有名デザイナーに名誉欲があるから、ということではなく、マスコミ的にわかりやすいからだ。しかしこの制作者クレジットはそうしたマスコミ的「わかりやすさ」を拒絶している。

しかし地域に関わる人からすればこれ以上、わかりやすい記述はない。地域企業は「クライアント」ではなく、プロデューサーとしてクレジットされるような、地域主体の事業なのである。インタウンデザイナーの矜持でもあろう。

新山さんが誇るデザイン

今回、新山さん直々に越前鯖江を案内してもらったのだが、そのときにはあくまで観光案内人的な感じであった。しかし調べてみると、あれもこれも、新山さんのTSUGIが関わったプロジェクトだったということが、あとからわかってきた。

福井では、デザイン会社の最大手であり、「関わっていないプロジェクトを探す方が難しい」という表現が大げさでもないような存在である。しかし新山さんはそれをひけらかすこともなく、ただただ、地域の魅力として語っていた。

しかし、ロゴを誰が作ったとか、誰がこの製品を手がけたのかということよりも、もっと重要なことがインタウンデザイナーにはある。TSUGIがデザインしていたのは、地域における関係性なのだ。地域社会の再編成や人の関係性の再構築にまで影響を及ぼしている。

それでも新山さんがツアー中、何度も自慢していたことがある。それが、「毎週、ここに人を案内しています」という話だ。工房、店舗、神社、学校、公園。新山さんの誇りは、そこにどれだけの人をつないできたのかということ。ロゴを誰が作ったとか、誰がこの製品を手がけたのかということよりも、もっと重要なことがインタウンデザイナーにはある。新山さんが、そしてTSUGIがデザインしていたのは、地域における関係性なのだ。彼らの仕事は、地域社会の再編成や人の関係性の再構築に大きな影響を及ぼしている。

たとえば、RENEWでとくに注目すべきは、このイベントが単に「見せる」ことに終わらせるのではなく、職人と消費者とを「関わらせる」ことに重きを置いている点だ。RENEWでは、訪問者はただ工場を見学するだけでなく、職人との対話を通じて、ものづくりの背景や価値観に触れる。これは、観光客を「消費者」ではなく「共創者」として迎え入れる試みである。このような関係性の設計には、ローカルな信頼関係の構築が不可欠だ。それこそ、新山さんのデザインしているものなのだ。

ハブとしてのTSUGI

TSUGIは、デザインの表現者として以上に、調停者・媒介者として地域と都市、つくり手とつかい手、世代と世代をつなぐハブとなっている。インタウンデザイナーとは、地域の中に入り込み、地域の論理で思考し、地域の時間で行動するデザイナーである。都市の論理やグローバルなトレンドに回収されない、小さくて複雑な文脈に根ざした仕事。その「小ささ」こそが、大きな意味をもつ時代において、インタウンデザイナーの存在は今後ますます重要になるだろう。

そうした文脈において、「ロゴデザインをデザインした」ということを誇ることは、むしろインタウンデザイナーの役割を矮小化することでしかない。インタウンデザイナーの本質とは、「何をデザインしたか」ではなく、「誰と、どのような関係性を築きながら、地域にどんな変化をもたらしたか」にある。ロゴや商品、空間といった目に見えるアウトプットは、その副産物にすぎない。見えない部分──対話の積み重ね、合意形成のプロセス、信頼の蓄積──こそが、彼らの仕事の中心にある。

小山龍介
BMIA総合研究所 所長
日本ビジネスモデル学会 BMAジャーナル編集長
名古屋商科大学大学院 教授
京都芸術大学 特任准教授

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