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10kmの中にある宇宙──越前鯖江・工芸の旅

丹波篠山の市役所を辞めて独立された小山達朗さんのお誘いで、鯖江ツアーに参加することになった。ホストはなんと、新山直広さん。お名前はグッドデザイン賞審査員として参加されていることで聞いてはいたものの、ここでこんなふうにお会いできるのは、本当に幸運だった。

ツアーは、地域の伝統工芸の現場を巡るもの。めがねの素材を扱うKISSOから始まり、若手クリエイター集団のSEN、越前打刃物のタケフナイフビレッジ、越前和紙の長田製紙所、新山さんが準備しているホテル「SUKU」の建築現場、越前漆器の漆琳堂、そして明日オープン予定というSOEの観光インフォメーションセンター「Craft Invitation」、新山さんのデザイン会社TSUGIが運営するSAVA! STOREという、これを半日で回る分刻みの視察であった。新山さん、ありがとうございました。

新山さんが笑顔でお出迎え
新山さんがデザインを手がけたKISSO
KISSO代表の吉川さんにお話を伺う
眼鏡素材で作ったリング
秘密のアジトのようなSENのワークスペース
越前和紙とのコラボレーションが進んでいる
SEN is the spark in the neighborhood
川崎和男さんが深く関わったタケフナイフビレッジ
多くの工芸家を輩出する工房
美しいペーパーナイフ

長田製紙所は、大判の特注品を中心に受注している
見たこともないような和紙を拝見する
風にふわりとたなびくのれんもオリジナル製品
工事中のホテル「SUKU」
漆琳堂の内田社長にお話を伺う
多様な漆器のデザインになつかしさを感じる
使い分けられていた漆器
オープン間近のCraft Invitation
半径10km圏内に密集する産地
器をモチーフにした照明器具

個々の印象についてはまた機会を改めて書きたいと思うが、まず全体として、多様な工芸の密集具合に驚いた。この地域には、半径10km圏内に7つの工芸産地が共存している。それぞれが独自の歴史的背景を持っているものの、基本的にこの地域の風土から生まれたものである。眼鏡作りなどがその例であるが、冬場の副業として家内制手工業として始まった産業が、分業を通じて地域全体が潤い、そして継承されてきた。

生きるための術として生まれたなりわいとしての工芸が、今もなおこの地域の独自の文化として息づいているというのは、本当に奇跡的なことだと思う。どの地域にもかつては、さまざまな工芸が地産地消のかたちで存在していた。しかし、交易が進むなかで得意な地域が得意なものを作る地域分業が進む。しかしこの越前鯖江では、それが当時のままに、いや、それぞれが他の地域へ出荷するだけの強みを身につけながら、継続されてきた。

その理由としては、いくつかの要因が複合的に絡み合っているように思う。第一に、交通の便である。鯖江は、北陸本線や国道8号線、さらには北陸自動車道といった幹線インフラがある。これにより、金沢などの近隣都市に対して、絶妙な「開かれ方」をしている。閉鎖されているのでもなく、かといって完全に開かれているわけでもない。その結果、都市化されていないが、孤立もしない独特の工芸空間が用意されたのだろう。

町を車で走っていて、全国チェーンの店舗が少ないことが話題になった。スターバックス、マクドナルドといったおなじみの看板がほとんど見当たらない。あるのは、地元資本のカフェや食堂、雑貨店、あるいは家業として営まれてきた眼鏡工場の軒先である。地元店舗を大切にする地元志向の文化があり、たとえば福井駅の改札前のスターバックスは、その立地にもかかわらずすいている。チェーン展開を前提としない「唯一無二」の空間が、地域の風土と結びつきながら育っている。

第二に、人材の循環がある。たとえば新山さんのように、都市部で経験を積んだ人材が、地元にIターン、Uターンして新たな挑戦を始めているという例が、いくつもある。もともと教育水準が高いことで知られている福井は、すでに優れた人材を輩出する地盤が存在している。そうした人たちが、一度外部に出たとしてもまた、地元に戻ってくる。地元の産業に誇りを持ちながらも、それを外部の視点でリデザインしていく姿勢が、伝統と革新の両立を可能にしているのだろう。東京や大阪といった大都市圏との距離感が遠すぎず、近すぎない絶妙な位置にあるため、「帰ってきやすい」場所でもあるのかもしれない。

第三に、地域間のゆるやかな連携=エコシステムの構築だ。訪れた各工房や店舗では、それぞれが独立したブランドや哲学を持ちながらも、競争というよりは補完関係にあるように感じた。眼鏡と刃物、和紙と漆器といった異なる工芸が、互いに干渉しすぎず、でも孤立もせずに共存している。

またそれぞれの産業を支える企業への配慮がさまざまに感じられた。眼鏡製造では、鼻パッドクリングス、テンプルといった各部品や工程を専門の職人が担当するシステムが確立している。いわゆる帳場制と呼ばれる仕組みで、もともとは問屋や元締めが中心となって、各職人に資材を支給し、製造を依頼し、完成品を取りまとめて販売までを担う、地域内分業ネットワークの一形態である。職人はそれぞれ独立しながらも、緩やかに結びついた関係性の中で役割を果たしており、「顔の見える分業」によって、技術と信頼が世代を超えて受け継がれてきた。

しかし昨今は、この分業制が危機に瀕している。高齢化や後継者不足などの問題により、このエコシステムの一部でも失われてしまうと、全体が滞ってしまう。これまで地域全体の繁栄を支えてきたこの仕組みも、時代の流れの中で再考を余儀なくされている。M&Aも盛んに行われており、一社で製造ができるような体制をつくって販売まで行う、いわゆるSPA型の企業も登場している。

こうした越前鯖江に新たなストーリーテリングやパッケージングを持ち込んでいるのが、TSUGIのようなハブ的存在である。新山さんの活動については次の記事で紹介したい。

小山龍介
BMIA総合研究所 所長
日本ビジネスモデル学会 BMAジャーナル編集長
名古屋商科大学大学院 教授
京都芸術大学 特任准教授

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