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【第4話】みんな紺色。私はクリーム色のスーツを選んだ。

人生は、何度でも花ひらく。

――【誰もが知っている大企業に入りたかった私】

〜松下電器(現・パナソニック)の就職試験で学んだこと〜

就職指導の先生から言われた。
「就職の際の希望条件を、できるだけ細かく書きなさい。どんなことでもいいから。」
私は迷わず書いた。
・誰もが知っている一流企業
・東京本社
・女性が活躍している会社
そして最後に、もう一つ。
「できればオフィスから海が見える会社。」
今思えば、なんて自由な条件なんだろう(笑)。
第一希望は、日立製作所だった。
誰もが知る一流企業で、本社も東京にある。
ところが、就職担当の先生は笑いながらこう言った。
「西田さんには日立は堅すぎる。松下電器にしなさい。」
え?
会社に「堅い」とか「柔らかい」とかあるの?
本気でそう思った。
でも、私は松下幸之助さんの本を読んでいて、その考え方をとても尊敬していた。
「物を作る前に、人を作る。」
その企業理念にも強く惹かれていた。
「それなら松下電器を受けてみよう。」
そう決めた。


就職試験当日。
会場へ行くと、みんな紺色のリクルートスーツだった。
でも、私は違った。
クリーム色のスーツ。
人と違うことをしたかったわけではない。
ただ、なぜか紺色を着る気になれなかった。
クリーム色の方が、自分らしい気がしたのだ。
その時、ふと小学校のランドセルを思い出した。
父は昔から「みんなと同じ」が好きではなかった。
だから私のランドセルは、みんなが赤だった時代に朱色だった。
当時は、それが嫌で仕方がなかった。
でも不思議なことに、大人になった私は、父と同じことをしていた。


午前中は筆記試験。
午後は面接だった。
面接官から聞かれた。
「西田さん、経理の仕事なんかはどうですか?」
私は正直に答えた。
「暗算ができないので、経理は厳しいと思います。」
すると面接官は笑いながら言った。
「西田さんねぇ、今の時代は暗算じゃなくて計算機を使うから大丈夫だよ。」
思わず私も笑ってしまった。
面接の最後に、もう一つ質問された。
「もし松下に受からなかったら、どんな会社へ行きたいですか?」
一瞬、焦った。
えっ、落ちた時の話?
でもすぐに、
「これは、松下に入りたい理由を聞いているんだ。」
そう思い直し、準備していた内容を話した。


面接が終わると、受験者約200人が集められた。
人事担当者が言った。
「何か質問がある人はいますか?」
……
誰も手を挙げない。
静まり返る会場。
その空気に、なぜか耐えられなくなった。
私は思い切って手を挙げた。
質問したのは、「誕生日制度」について。
正直、内容はそんなに重要ではなかった。
ただ、あの静けさを破りたかっただけだった。


試験が終わった。
結果は二日後。
家に帰っても落ち着かない気がして、その日は一人で銀座へ映画を観に行った。
その映画は今でも覚えている。
トム・クルーズ主演の
『デイズ・オブ・サンダー』
結果を待ちながら観た映画だからだ。


二日後。
私は松下電器産業(現・パナソニック)への内定をいただいた。
そして短大卒業を目前にした二月。
再び松下電器の人事の方から電話がかかってきた。
母は受話器を渡しながら言った。
「もしかして……内定取り消しじゃないでしょうね?」
私は思わず笑ってしまった。
電話の内容は、まったく逆だった。
「東京エリア女子新入社員代表として、入社式で『誓いの詞』をお願いします。」
「えっ? 私が?」
思わず聞き返した。
今でも理由は分からない。
でもきっと、あの日200人の前で手を挙げたことが、人事の方の印象に残っていたのだと思う。
文章を書くのが苦手だった私は、短大のゼミの先生と一緒に「誓いの詞」を考えた。
そして、蛇腹に折られた奉書紙に、筆ペンで何度も書き直した。
迎えた四月一日。
私は面接の日と同じ、クリーム色のスーツを着て初出社した。


経理は向いていないと正直に答えたこと。
200人の前で手を挙げたこと。
クリーム色のスーツを選んだこと。
どれも特別なことをしたつもりはない。
ただ、その時の自分に正直だっただけだ。
でも今なら分かる。
人生は、誰かになることで開けるんじゃない。
自分らしくいることで開ける。
この時の私は、まだ知らなかった。
この「自分らしさ」が、この先ニュージーランドでも、不動産でも、花市場でも、何度も私を助けてくれることを。
(つづく)


🌸 次回予告
第5話 「入社式で、奇跡が起きた。」
配られた座席表に、見覚えのある名前があった。
「ひとみ」
え……まさか。
あの受験勉強を一緒に頑張った、ひとみちゃんなの?

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