DO THE RIGHT THING ①
2025年9月18日(木)09:15 S線T駅
駅ホームのエレベーター前に足を投げ出して座り込む人がいた。ピアスの感じから女性。眠り込んでいるように見えて、シャツの前ボタンはふたつくらい開いている。厄介だなと思った。迂闊に声を掛けて目が覚めたとき、女性に自分はどう見えるか考えずに行動できない。駅員の詰め所に知らせに行った。何番ホームのエレベーター前と場所を、そして女性の状態を伝える。
「酩酊?」
「どうでしょう? あの人が酩酊状態かどうかは分かりません」
「酩酊の人でしょ。声を掛けても返事しないんですよ」
「……(事情が呑み込めない)」
「見てるんで。カメラで。監視カメラで見てますから」
そう駅員に言われてやっと、既に対応済みだと言いたいのだと理解した。
自分が迷惑がられている感じは駅員の口調から伝わって来た。
自分が心配したのは、生命の危険と、痴漢や盗難に遭うのではないかということだった。でも監視下にあってそれ以上は関知しないという明確な意思が鉄道会社にある以上、自分にそれ以上の義務はない気がした。不躾な駅員の口調で込み上げた不快が、それ以上の思考を止めた。
窓口に立つ20代の男性。その後ろから割り込み押しかぶせてきた30代の男性。30代の男性職員が20代の男性職員がいる場で態度を改めないことは分かっていた。客に対する口調も改まることはない。それは明らかだった。
なんで通報者がこんな気分にさせられるのだろうか。こんな積み重ねで、誰もが無関心や無行動を許し合うようになっていく——電車に乗って、考えていたのはそのことだった。「彼女はどうしただろうか」「自分が救急車を呼んでもよかったのではないか」と、思考がそこに戻ったのは電車に乗った後のことだった。
もし、彼女が死んだら。
鉄道会社が①状況を理解し義務を感得していた点、②その上で呼びかけにも反応しない者を放置した点、③通報者に取り合わず追い返した点を、おれは警察に言わなければならないし、裁判になったら証言するしかないんだろうなとふと思った。
幸い、今のところ彼女が死んだというニュースは流れていない。
ホッとする。きっと罪悪感に苛まれただろうから。
彼らがしないなら、自分で救急車を呼べばよかったのだ。
