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失踪のすすめ。【②遠野〜三陸鉄道】

前回の。


《 Line.1JR釜石線:花巻→釜石 》
朝の花巻駅で、九時ちょうど発の釜石方面行きの電車を待っている。
昨夜からの雨も上がって、太陽は高く昇り、地面から雨の痕跡を少しずつ剥がしていた。ただ、それも今だけの話で、昼にはまた天候が変わるらしい。

改札前には、ジャージ姿の高校生がたくさんいた。ちょうど登校する時間帯か。あるいは、もう夏休みだっけ。それならたぶん部活だろうか。なんだか生命力が高い。採れたての夏野菜みたいだ。
平日朝の駅は日常のために運用されている。その座席のひとつを借りて、旅に利用させてもらいます。お邪魔します。

ロングシートに座り車窓に映る棚田を眺める。北海道では段々になった田畑はあまり見かけない風景だ。
「山間の斜面にそのまま田んぼを作ったら水がぜんぶ流れてっちゃうもんなぁ。」とか、暇な脳が次第に自由に喋り出すのを好きにさせていると、そのうち景色に少しずつ家屋が増えてきて、次の街を匂わせてくる。

遠野駅には定刻どおり十時七分に到着した。
次の釜石行きまでおよそ二時間半。
時間を潰す、という言い方はあまり好きじゃない。時間は勝手に流れてゆくし、自分も勝手にぶらぶらするよ。
自由行動。十二時半頃にまた改札前で集合ということで。

レンタルサイクルを借りるとき、受付のお姉さんに「今日はどちらまで?」と訊かれて困ってしまった。そういえば、自転車ってどこか目的地へ向かう手段だったっけ。苦し紛れに記憶に残っていた卯子酉神社へ行く旨を告げる。入国審査を受けているみたいだ。
と思ったら違った。
「あまり山奥に行くと出会っちゃうから。」
熊の心配だった。それに、昼ごろには一雨来るから充分気を付けて、と。

嘘をついて自転車を借りた人になる訳にはいかず、卯子酉神社へとペダルを漕いだ。縁起も謂れもよくわかっちゃいない無礼者だけど、縁結びで有名な神社のようだ。これもなにかのご縁ということで、ひとつよろしくお願いいたします。
河童淵も行きたかったけど、まぁ、また今度。縁は結んであるから。

折角借りた自転車で、遠野の町をゆるく流しながら駅方面へ戻る。十分かそこらで来た道を、帰りは脇道にそれながらたっぷりと。目にとまった喫茶店にてアイスコーヒーとナポリタンをしばいて人権を回復。

そろそろ時間だ。自転車を返却して駅へ戻る。
結局、雨にはあたらなかった。空は青く高いまま待ってくれていたようだ。

ここから、おそらく今回の失踪におけるサビの部分。

十二時五十二分に遠野を出て、二度乗り換えて、久慈へ着く頃には十八時。今日は「移動」が目的地だ。


《 Line.2 三陸鉄道リアス線:釜石→宮古 》
遠野から引き続き電車に乗り、釜石駅に着く頃、ひとつ気がついたことがあった。
この調子で十八時まで電車乗りっぱなしって過酷過ぎん??誰がこんな旅程にしたんだ。責任者を出せ。
そんなことを考えながら気もそぞろに降車し、釜石駅の改札をくぐったときに、違和感が足を止めた。

列車に帽子を置き忘れた。

「乗換時間も僅かだから仕方がないか。」
「別に高い物でもないし。」
「途中で新しいの買えばいいか。」
うん。諦めようか。

だけど、どうだろう。これから先の旅路を「帽子を無くした」という事実を抱えながら歩くのは結構な荷物になる。
それはちょっと嫌だ。
そんな荷物はここに置いていこう。
駅員さんに事情を告げ、改札を戻る。今通ったばかりの跨線橋を駆けていると、向こうから帽子を手にした駅員さんが歩いてきた。

間に合った。
(あのときは本当にありがとうございました。)

釜石は、煙草一本分ほどの滞在時間だった。街には大きな製鉄所があり、煙突からは煙がもくもくと吐き出されていた。時間があればもっとお近づきになりたかった。煙仲間として。

釜石駅でJR線とは一旦お別れ。昨日から先程までの山間を抜けていく行程から、ここからは三陸鉄道に乗り換え右手に太平洋を捕まえながら、海岸沿いを北上していく。

十四時十分に釜石駅を出発し、宮古駅までの乗車時間は一時間二十六分。
先程までと変わらず、列車は山の間を縫って行く。すると、不意に海が現れる。体感だと実に百年ぶりの海だ。
海を眺めたり、山へ潜ったりを繰り返しながら列車は北へ進む。

車窓からは、所々で新しい防潮堤や整備された町並み、広くてまっすぐな道路、高い場所へ移転したような住宅地が見えたりすることがある。あまりにも土地が広く空いている。津波の被害があった場所なんだろうな。
自分なんてのは、この地に縁もゆかりもないから、感傷だけただ乗りするのは烏滸がましい話だけど。

陸中山田駅で高校生が数人降りていったのが何故だか印象に残っている。

時刻は十五時三十分、電車はもうすぐ宮古駅に到着する。
そこで本日最後の乗換だ。

《 Line.3 三陸鉄道リアス線:宮古→久慈 》
十六時十五分、宮古駅を出発する列車には思ったより乗客がいた。
学生が多い。放課後の時間帯で、接続本数の少なさを考えると、この列車で帰宅するのがちょうど良いんだろうな。

思えば、今朝花巻駅で学生の集団を眺めつつ始まった一日だったけど、今はこうして帰宅する学生たちと一緒になって列車に揺られている。学校という世界での、始まりから終わりの間を、自分は移動し続けていたことになる。
今日一日で、いくつの学区を跨いだんだろう。

いよいよ雨が降り出したみたいだ。
ここまで降らずに持ってくれたなら上出来だろう。
窓には雨粒が走っている。
トンネルを抜ける度、ガラスは白く曇り、景色は薄い靄を一枚挟んだようになった。けどそれは、湿気じゃなくて、景色を見飽きてしまった自分のせいだったのかもしれない。

もう何度目かもわからない伸びをした。
けど、それもこれで最後だろうか。次は久慈駅。三陸鉄道の終点だ。終点まで、お付き合いどうも。

到着した久慈駅のホームからは、立ち寄ろうと思っていた地元のスーパーがすぐ近くに見えて、少し得した気持ちになった。

明日は、ここから八戸線でさらに北上し、岩手を離れ青森へ入る。

↓失踪の記録(写真)

遠野着。
対戦よろしくお願いします。
交番が河童だ。
卯子酉神社、異界みがすごい。
でもちゃんと人間の生活圏の中にある異界だった。
(熊の恐怖は除く)
不思議と神社ではうさぎと出会いがち。
河童淵を諦めた人用の河童
四十二単くらい重ね着したオシラサマ
喫茶店のナポリタン
街灯がシャケ
わんこラッピング車両に乗る
三鉄の車窓から
本州最東端の駅
図らずとも実績解除
最東端のわりに駅自体はすごく山の中。 
海が見える景色の良い場所で列車は減速、数分間停車してくれる。
見よ、この一面の錆色を。
晴れた日の景色はまたいつか。

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