はじめてのnoteの人向け! ノートリアス・オンラインの歩き方——オーディナル・スケール
「ようこそ、ノートリアス・オンラインへ」
あなたが目を覚ますと、白い空間に銀髪の少女が立っていました。
見た目は十二歳前後。長い銀髪。尊大そうな銀と赤のオッドアイ。
そして、初対面の人間に向けるものではない、明らかに面倒そうな表情。
「私はニャル。初心者案内用チュートリアルAIです」
少女が指を鳴らすと、目の前に半透明の画面が浮かび上がりました。
プレイヤー名:未設定
称号:選ばれし天才
レベル:0
PP:100/100
「そうか、僕はやはり天才だったか」
「あなたの中ではそうですね」
「PPって何?」
「プライド・ポイントです。自尊心、自己効力感、自分は特別かもしれないという期待。それらを総合的に数値化したものです」
「減るとどうなるの?」
「0になると現実に帰ります」
「死んだりはしない?」
「基本的には」
なんだか嫌な感じがします。
「帰りたい」
「ノートリアスで成功すれば脱サラも夢ではありませんよ」
「ほんと!? やるやる!」
目の前の少女の口元が歪んだ気がしましたが、お金に目がくらんでいるので気付く事ができませんでした。
チュートリアル1 初投稿してみよう
ノートリアス・オンラインでは、誰でも無料で記事を投稿できます。
小説。エッセイ。創作論。AI論。副業論。人生論。
何を書いても構いません。
プロフィールには自由に肩書きを設定できます。
作家。思想家。クリエイター。コンサルタント。構造転移者。
現実では名乗る勇気がなくても大丈夫です。
ここはオンライン世界ですから。
あなたは三時間かけて最初の記事を書きました。
何度も推敲し、タイトルを考え、見出し画像も用意しました。
「投稿しますか?」
「はい」
公開ボタンを押します。
一時間後。
PV:3
スキ:1
コメント:0
PP −8
「PPが減ったんだけど?」
「正常な挙動です」
「スキを押されたよ?」
「では喜んでください」
「でも、もっと読まれると思ってた」
「だから減ったのです」
チュートリアル2 交流してみよう
記事を読まれるためには、他のプレイヤーとの交流も重要です。
スキを押す。コメントを書く。フォローする。企画へ参加する。
ノートリアス・オンラインでは、多くの場合、待っているだけでは誰にも発見されません。
あなたは他人の記事を読み、丁寧なコメントを書きました。
すると相手も記事を読みに来てくれました。
フォロワー+1
PP+2
「お、回復した」
「良かったですね(棒)」
翌日、その人は別の記事には来ませんでした。
PP −3
「なんで?昨日は来てくれたのに」
「昨日コメントをもらったからです」
「今日は?」
「コメントをしていないからです」
「読者じゃないの?」
「交流相手です」
この世界では、読者、友人、営業相手、相互フォロワーの区別が曖昧です。
曖昧だから一度始めた営業——もとい交流は簡単にやめられません。
チュートリアル3 レベルを上げよう
ノートリアス・オンラインにおけるレベルはつまりフォロワー数です。
フォロワー100人ならレベル100。
フォロワー1000人ならレベル1000。
わかりやすいですね。
ただし、レベルと戦闘力は完全には一致しません。
同じレベル1000でも、毎回100スキつく人と、毎回3スキの人がいます。
有料記事が売れる人。コメント欄が動く人。小説だけ読まれる人。企画を開くと人が集まる人。
同じレベルでも、能力値はそれぞれ違います。
初期ステータスや初期クラスは現実のあなたのものが反映されます。
ステータスの見方は以下のとおりです。
攻撃力:一記事の拡散力
防御力:低反応への耐性
知力:分析能力
魅力:人格への支持
会心率:タイトル能力
スタミナ:投稿頻度
召喚獣:AI
特殊装備:他SNSから連れてきた読者
「フォロワーが増えれば強くなるんじゃないの?」
「増えるのはレベル表示です」
「何が違うの?」
「レベル300で攻撃力80のプレイヤーもいれば、レベル5000で攻撃力6のプレイヤーもいます」
「どうしてそんなことになるの?」
「このゲームにはフォロバ100というシステムがあります」
「便利そうだけど?」
「レベルを上げるのには有効です。ただしフォロバ100主体のレベル上げは努力値が入らないので同じレベルでもステータスに開きが出ます」
「じゃあしないほうがいいの?」
「しないとレベルが上がりません」
どうしろというんですか?
チュートリアル4 敵を知り、己を知れば削られる
ノートリアス・オンラインには、他人の実績が大量に表示されます。
半年でフォロワー5000人。
一記事で1000スキ。
有料記事が初月で10万円。
メンバーシップ100人。
商業デビュー。
あなたが一記事を書く間に、別のプレイヤーは三記事投稿します。
あなたが三カ月かけて小説を書いている間に、AIを使うプレイヤーは長編を二作完成させます。
あなたより後に始めた人が、先に書籍化されます。
PP −30
「何もしてないのに減ったんだけど」
「他人が成功しました」
「他人の成功で、なんで僕のPPが減るんだよ」
「人間だからです」
回避方法はありません。
他人を見なければ比較せずに済みますが、他人を見なければ市場も読者も理解できません。
たくさん比較して分析力を上げると、さらに詳しく他人との差が見えるようになります。
知力+3
PP −7
「分析力が上がったのにPPが減ったぞ?」
「現実認識が上がったのです」
「よいことでは?」
「いいえ。あなたの自分への幻想が減りました」
チュートリアル5 自信作を投稿しよう
あなたは1週間かけて、自信作を書き上げました。
これまでの記事より深い。
構成も考えた。
タイトルもいい。
自分にしか書けない渾身の記事です。
投稿します。
PV:64
スキ:11
コメント:1
悪くありません。
しかし、その前日に気軽に書いた「最近食べたラーメン」の記事は、スキ38でした。
PP −15
「自信作よりラーメンが伸びた」
「読者はラーメンが好きだったようです」
「僕の記事を読みに来てるんじゃないの?」
「読者は、あなたが読ませたいものを読む存在ではありません」
「じゃあ何を読むの?」
「向こうが読みたいものです」
当たり前のことを言われました。
なぜか腹が立ちます。
チュートリアル6 有料記事を販売しよう
ある程度フォロワーが増えると、あなたは考えます。
ここまで無料で書いてきた。
そろそろ自分の知識や経験に値段をつけてもいいのではないか。
500円の有料記事を投稿しました。
三日後。
販売数:0
PP −20
「誰も買わない」
「無料記事は読まれていましたね」
「500円だよ?」
「無料と500円の間には、500円以上の距離があります」
「どうすれば売れる?」
「実績、信用、需要、導線、販売経験が必要です」
「記事を書く能力は?」
「ないよりはマシ、くらいです」
「でも最初は実績なんかないじゃん。どうしろと?」
「さあ?」
このゲーム本当に稼げるの?
あなたはだんだん不安になってきました。
チュートリアル7 成功者の攻略法を読もう
ノートリアス・オンラインには、大量の攻略記事があります。
毎日投稿しよう。
プロフィールを整えよう。
コメントをしよう。
タイトルを工夫しよう。
一次情報を書こう。
読者の悩みを解決しよう。
自分らしさを大切にしよう。
トレンドを追おう。
トレンドに流されるな。
すべて正しそうです。
そして、すべてを同時に実行することはできません。
成功者は自分が成功した方法を教えてくれます。
ただし、その成功が本当にその方法によるものだったかは、本人にもわかりません。
伸び悩んだあなたは攻略本を購入しました
所持金 −980円
PP+5
三日後。
成果なし
PP −10
「攻略法どおりにやったのに」
「成功条件が同じとは限りません」
「じゃあ、なぜ売ってるの?」
「書いた人はその方法で伸びたと思っているからです」
「嘘ついてるってこと?」
「いえ。その人が伸びたこと、その理由だと考えていることが本当の理由とズレているだけです」
PPがゼロになるとどうなるのか
「PPが減るイベントのリストを出します」
初投稿が1スキ:PP −8
同期が100スキ:PP −15
フォローバックされない:PP −3
フォロバしたらフォローが消えていた:PP −5
自信作より日記が伸びる:PP −12
AI丸投げ記事が自作より伸びる:PP −20
毎日投稿してるのに「継続が大事」と言われる:PP −5
フォロワー1000人なのにスキ2:PP −30
有料記事が売れない:PP −25
「あなたらしい文章ですね」とだけ言われる:PP −7
創作大賞中間落ち:PP −100
「何しても減るじゃん」
「ノートリアスは群雄割拠の乱世ですので」
「アバターはゆるかわばっかりなのに……」
投稿して減る。
投稿しなくても減る。
交流して減る。
交流しなくても減る。
伸びなければ減る。
伸びても、もっと伸びている人を見て減る。
そして、ついにPPがゼロになりました。
PP:0/100
「あっ! 急に全部なくなった」
「創作大賞に落ちたみたいですね」
「即死じゃん」
「公募ですので」
「もうこんなゲーム辞める」
「ここからが本番です」
画面が切り替わります。
旧称号:選ばれし天才
新称号:普通の挑戦者
新ステータスが解放されました。
AP:アクション・ポイント
改善のために行動する力
「普通の挑戦者……」
「はい」
「才能がなかったってこと?」
「現時点で、世界があなたを特別扱いする理由がないというだけです」
「厳しくない?」
「市場はそういうものです」
PPがある間は、失敗するたびに自分を守る必要がありました。
タイミングが悪かった。
アルゴリズムが悪かった。
読者の見る目がなかった。
自分はまだ発見されていないだけだ。
しかしPPがゼロになると、不思議なことに、少しだけ冷静になれます。
タイトルが弱かった。
導入が長かった。
読者が求める題材ではなかった。
そもそも作品を完成させていなかった。
自分は特別なのに評価されないのではなく、普通の挑戦者として、まだ勝てていないだけだった。
これは敗北でしょうか。
あるいは、ようやくゲームを始められる状態になったのでしょうか。
ニャルが次のクエストを表示します。
初心者クエスト
「誰にも読まれなくても、次の記事を書いてください」
報酬:なし
獲得経験値:不明
消費PP:残っていません
「このクエスト受けますか?」
「これ受けたとして、いつか終わるの?」
ニャルは、いつものように少しだけ意地の悪い笑みを浮かべました。
「オンラインゲームですから、エンディングはありません。APを使い切っても、休めばまた少し回復します」
「じゃあ、どうしたら終わるの?」
「休んでも二度と回復しなくなったときが、あなたのサービス終了です☆」
さて、ニャルはノートリアス・オンラインは、とんでもないクソゲーだと推論します。
あなたはそれでもプレイしますか?
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