小学5年生が泣きながら単身イギリス留学した話|第8話〜学校中を巻き込んだ大喧嘩と本場の皮肉英語〜
※これは1995年、今から約30年前の話です。まだインターネットも携帯電話も普及していなかった時代、英語を話せない10歳の私が、イギリスで奮闘した日々を綴ります。
前回の話はこちら⬇︎
「ふざけるな!!!!」

私はコウメ太夫のような顔で怒り狂っていた。
もう限界だった。
大切なうさぎのぬいぐるみはボロボロにされた。
一生懸命覚えた英語は笑われた。
授業中も嫌がらせをされた。
繰り返し何度もされた。
英語が話せない私にできる、唯一の抵抗だった。
私はBに向かって中指を立てた。
その瞬間だった。
Bの顔色が変わった。
顔中の血管が浮き出る。
今にも噛みつきそうな猛犬ピットブルのような顔で、すごい勢いで怒鳴ってきた。
当時の私は、中指を立てることがそこまで重大な意味を持つとは知らなかった。
もちろん、相手を侮辱するジェスチャーだということは知っていた。
でも感覚としては、「バーカ!」
とか、
「お前の母ちゃんでべそ!」
とか、
その程度だった。
なぜなら、日本の小学校では男子たちが日常的にやっていたからだ。
「バーカ!!」
と言いながら中指を立てたり、
親指を下に向けるサムズダウンをしたり。
そんな光景をよく見かけた。
少なくとも私が通っていた小学校では、それで先生に怒られることはなかった。
でもイギリスは違った。
お菓子を学校に持ってきても、授業中に食べなければ特に問題にならない。
校内にはチョコレートの自動販売機まであった。
しかし、暴言や差別的な発言にはとても厳しかった。
ましてや中指を立てるなんて、とんでもないことだったのだ。
私は、そのことを知らなかった。
そして盛大にやらかした。
気がつくと、人だかりができていた。
Bが泣きながら訴えて回っていたのだ。
Bの姉がやってきて、Bを抱きしめながら私に向かって何か叫んでいる。
私の妹になんてことしてくれたんだ!
妹をいじめたら許さないぞ!
そんなことを叫んでいる感じだった。
むしろ今まで散々いじめられてきたのはわたしの方なんだけど…
そう思った。
でも言えなかった。
英語が話せなかった。
Bと姉、そしてBの仲間たちは私を責め続ける。
騒ぎを聞きつけた他の部屋の子どもたちや先生まで集まってきた。
声を失った人魚姫って、こんな気持ちなんだろうか。
私は絶望していた。
何を言われているのか分からない。
反論もできない。
説明もできない。
ただ立ち尽くしているしかなかった。
私は校長室へ連れて行かれそうになった。
その時だった。
待って!!
誰かが叫んだ。
彼女は悪くない!!
また別の子も言った。
悪いのはBだよ!
私をかばってくれる子どもたちが現れた。
うさぎのぬいぐるみを毎晩投げ回していたこと。
耳を破いたこと。
嫌がっているのにやめなかったこと。
授業中も嫌がらせをしていたこと。
私が泣いていたこと。
全部、先生や寮母さんに説明してくれた。
さっきまで妹をかばっていたBの姉も、だんだん気まずそうな顔になっていった。
しかし、Bも負けていなかった。
今度は自分が被害者だと主張し始めた。
私がいじめてきた。
差別された。
ひどいことを言われた。
そんなことを必死に訴えていた。
Bを擁護する子どもたち。
私を擁護する子どもたち。
学校はしばらく騒然となった。

最終的には、
「二度と中指を立ててはいけません」
と静かに注意されて終わった。
今思えば、先生たちはずいぶん大目に見てくれたのだと思う。
言葉で気持ちを伝えられないことは、こんなにも悔しい。
正しいとか間違っているとか以前に、自分の思いを説明できない。
それがどれほど苦しいことなのかを、私は初めて知った。
もっとも、Bからの嫌がらせはその後も続いた。
ただ、そのおかげで私は本場の英国式悪口や皮肉を次々と覚えていくことになる。
渡英3か月で覚えた「教科書には載らない英国フレーズ集」
She's been spoilt.
(わがままに育ったのねぇ)
She's so immature.
(子どもねぇ)
What a pity! How tragic!
(あら大変。なんてかわいそうなんでしょう)
She's being sarcastic.
(皮肉を言ってるだけよ)
Thank you for your compliment.
(まあ、お褒めいただいておおきに)
これからも日本の小学校の教科書に載ることはないと思うが、
英語系Youtuberのだいじろーが喜びそうなフレーズばかりだ。
次回、イギリスの給食事情
洗面所の水が命綱!魔法学校のような食堂で途方に暮れる
つづきはこちら⬇︎
第一話はこちら⬇︎
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