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ろろろのめ第23回  日本を覆う「お金がない」の正体:民主主義の現状と、矛盾する経済指標の波紋

日本を覆う「お金がない」の正体:民主主義の現状と、矛盾する経済指標の波紋

はじめに:なぜ「お金がない」という感覚が広がるのか?

近年、周囲から「お金がない」という声が、かつてなく強く聞かれる。物価は上がり続け、日々の生活費はかさむばかりだ。給料は上がったと聞くが、手取りはむしろ減っているように感じる。将来への不安は募る一方である。

一方で、報道では「企業の内部留保は過去最高」「家計の金融資産は増加」といった真逆のニュースも飛び交う。この矛盾は一体何なのだろうか?個人の「お金がない」という実感と、マクロ経済のデータが示す「豊かさ」の乖離。この違和感の根源を、いくつかの視点から紐解いていく。






1. 個人の「お金がない」という切実な声

コンビニで気軽に買えたおにぎりやパンが値上がりし、スーパーの食料品売り場では、少しでも安いものをと真剣に品定めする姿が目立つ。株式会社新生銀行の2024年発表調査によると、20代会社員のお小遣いは月平均2万5455円と過去最低水準にまで減少した。

食料品の中でも、主食である米の価格は生活に直結する。農林水産省が公表した民間のデータによると、2025年6月22日までの1週間に販売された米の平均価格は5kg当たり税込みで3835円と、4週連続で値下がりしている。しかし、先月25日までの平均価格4400円からは12%あまり下がったものの、依然として高水準であり、地域によっては5kg4000円台のまま推移している。また、流通経済研究所の試算では、この秋の新米の店頭価格も5kg4000円前後になる可能性があるとされている。



この「お金がない」という感覚は、単なる節約志向にとどまらない。厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、実質賃金は2022年4月から2024年4月まで25ヶ月連続でマイナスを記録した。賃金は名目上、上がっているとされても、物価上昇率がそれを上回る「実質賃金のマイナス」が続く現状では、購買力は低下し続けている。年金や社会保険料の負担は増え、将来への漠然とした不安は、日々の消費行動にも影響を与えている。



2. 矛盾する経済指標:増える総貯蓄と減る実質賃金

では、なぜ「お金がない」という個人の感覚と、「総貯蓄額の増加」というマクロ経済のデータが矛盾するのだろうか。

日本銀行の資金循環統計によると、2024年末時点の家計金融資産は2230兆円で、統計開始以来の過去最高を記録した。その内訳を見ると、現金・預金は1134兆円で過去最大となった一方、現金は105兆円で3.4%減少している。株式は298兆円で9.5%増加し、投資信託は136兆円で27.4%と大幅に増加した。この増加要因としては、株価上昇(日経平均株価が年末に4万円近くをつけ過去最高値を更新したことによる株式や投資信託の残高増加)や、新しいNISA制度の導入による投資信託の増加が挙げられる。また、現金・預金が過去最大となったのは、賞与が増加したことによるものとみられている。


ただし、日本の家計金融資産が2四半期ぶりに過去最高を更新した一方で、米国も4四半期連続で過去最高を更新しており、拡大ペースには差が見られる。

日本の株価に目を向けると、2025年に入ってからの日経平均株価は変動が激しい。1月7日には40083.30円を記録したが、その後、2月28日には37155.50円、3月28日には35617.56円、4月22日には34220.60円と下落基調が続いた。しかし、5月29日には38432.98円、そして6月27日には40150.79円と回復し、年初来の高値圏に戻している。このような株価の変動は、資産を持つ層の金融資産額に直接影響を与える要因となる。
しかし、足元の情勢は変動している。日銀が2025年6月27日に発表した1~3月期の資金循環統計(速報)によると、3月末時点の個人(家計部門)が保有する金融資産の残高は2195兆円となり、昨年末(2236兆円)からは減少した。これは、国内株価の下落や円高が背景にある。内訳を見ると、株式等は268兆円で昨年末比3.7%減少、投資信託は131兆円で4.1%減少、現金・預金は1120兆円で1.3%減少した。NISAの普及により投資信託は前年同月末比では8.8%増えたものの、市況悪化の影響を受けている。

一方で、財務省の法人企業統計調査によれば、2024年の大企業の内部留保は過去最高を更新し、539.3兆円に達した。この内部留保とは、企業が稼いだ利益のうち、配当として株主に分配したり、法人税として国に納めたりせずに、企業内部に蓄積したお金のことを指す。具体的には、利益剰余金や引当金などがこれに含まれる。企業が将来の投資や不測の事態に備えるために蓄えるものだが、この膨大な金額が、個人の「お金がない」という生活実感と表面上の経済指標との間に大きな溝を生み出す一因となっている。

この背景には、「富の偏在」が深く関わっていると考えられる。一部の富裕層や資産を持つ層が資産を増やし、それが総貯蓄額を押し上げている可能性がある。一方で、多くの国民、特に若い世代や非正規雇用の人々は、生活防衛のために預貯金を取り崩したり、そもそも貯蓄に回す余裕がなかったりする状況にある。

企業も同様だ。過去最高の内部留保を積み上げる企業がある一方で、中小企業や零細企業は原材料費やエネルギーコストの高騰に苦しみ、賃上げの余力がないケースも少なくない。この「富の偏在」が、個人の「お金がない」という生活実感と、表面上の経済指標との間に大きな溝を生み出している。

金融政策の動向も注視される。2025年6月26日の外国為替市場では、主要通貨に対するドルの強さを示すドル指数が一時97台前半まで下落し、2022年3月以来約3年3カ月ぶりの低水準を付けた。これは、トランプ米大統領が米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長の後任について早期の指名を検討していると報じられ、FRBの独立性への懸念が広がったためである。このような為替や金融政策を巡る国際的な動きは、日本経済にも間接的に影響を及ぼす。

日銀の金融政策決定会合では、国債の買い入れを徐々に減らす措置は今後も続けるべきだという意見で一致しているが、「今後のペースが速すぎると、市場の安定に不測の影響を及ぼす可能性もある」といった警戒感も示されている。これを受け、日銀は来年4月以降、減額のペースを緩める方針を決定した。また、会合では政策金利を0.5%程度に据え置くことが決められたが、委員からはトランプ政権の関税措置に加え、中東情勢の影響も慎重に見極めるべきだとの意見が出ており、国内外の経済動向への懸念が示されている。



3. 「自己責任論」の背景と課題

経済的な苦境が続く中で、社会に広がるのが「自己責任論」である。生活保護受給者への誤解に基づいた批判や、「働かざる者食うべからず」といった風潮は、経済的な困難を抱える人々を孤立させかねない。

かつて内閣府の提言で「自由」が新たな価値観として重視され、個人の「挑戦」と「自己責任」が謳われた。しかし、その裏で「安全ネット」の整備が十分に進まず、結果的に個人の失敗が厳しく問われる社会へと傾いてしまった側面があると考えられる。



2025年6月27日、最高裁判所は、国が2013年から段階的に生活保護費を引き下げたことについて、「厚生労働大臣の判断に誤りがあり、違法だった」として処分を取り消す統一判断を示した。これは、国が定めた生活保護の基準額について最高裁が違法と判断した初めての事例である。この判断は、「自己責任論」が行き過ぎ、憲法で保障された「健康で文化的な最低限度の生活」すら脅かされていた現実を示す。不満の矛先が「弱い者」へと向けられる危険な構造が生じることは避けなければならない。



4. 民主主義の現状:政策決定と国民の声

「お金がない」という国民の不満は、しばしば政治において利用される構造にある。短期的な人気取りのためのポピュリズム的な政策が掲げられたり、特定の「」を設定して国民の不満をそらしたりする動きが見られることもある。

例えば、選択的夫婦別姓を巡る議論では、国民の多様な生き方や家族のあり方が顕在化しているにもかかわらず、「家族が崩壊する」「日本が滅亡する」といった感情的な主張が先行し、政治的な合意形成が困難になっている。朝日新聞の報道によれば、2025年通常国会においても、賛否が割れる自民党の意見集約すら見送られている。




また、政治資金規正法改正を巡る議論に見られるように、政治の「ブラックボックス」である機密費問題など、国民には「自己責任」を求める一方で、政治の側が透明性や説明責任を果たさないという状況は、政治に対する国民の不信感を決定的にする。これは、国民の声を十分に反映し、実効性のある政策を決定・実行する上で、課題があることを示すものと言える。


https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/667652



5. 「家族」の変容と社会の基盤の変化

社会の最小単位である「家族」の変容も、「お金がない」という問題と深く絡み合っている。公益財団法人 生命保険文化センターのエッセイ「『単独世帯』が約40%:高齢者の単独世帯の増加」(2023年9月26日公開)によると、2020年の「国勢調査」では、「単独世帯」が38.1%で最も多くなり、「親と子供」世帯の34.1%を初めて上回った。これは、1990年代から続く単独世帯の著しい増加を示す。

単独世帯が増加する大きな要因は二つある。一つは未婚率の上昇により独身者が増加したことである。同調査によると、2020年の45歳~49歳の未婚割合は男性29.9%、女性19.2%に達しており、これらの未婚率は1990年代から右肩上がりに増え続けている。

もう一つの要因は、「高齢者の単独世帯」の増加である。「国民生活基礎調査」(2022年)によれば、65歳以上の者がいる世帯の構造を見ると、「夫婦のみの世帯」と「単独世帯」の割合が増加傾向にあり、この二つを合わせると約6割を占める。一方で「三世代同居」の割合はわずか7.1%に減少している。特に、1990年代後半以降は「65歳以上の単独世帯」が増加し、2019年には65歳未満の単独世帯とほぼ同じ数になり、その後も増加が続いている。高齢者の増加と未婚率の高さを踏まえると、今後も65歳以上の単独世帯の割合は一層増加すると予想される。

かつての「標準家族」の姿はもはや少数派となり、単身世帯や高齢の親と未婚の子の同居など、多様な「家族のかたち」が生まれている。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2040年には50歳時点での未婚率は男性で29.5%、女性で18.7%に達すると予測されている。未婚率の上昇は、経済的な不安定さが結婚や子育てを困難にしている側面を示唆する。「家族のかたちは変わらない」という旧来の認識に固執する社会や制度は、この多様な現実に対応できず、結果として個人の生活をより困難にしている。単独世帯は、病気やケガ、事故など、様々なリスクに一人で対処することが難しいケースも少なくなく、個人の生活設計において、誰と生活しているかを意識し、必要なサポートを検討することが一層重要になっている。


おわりに:未来へ向けて

「お金がない」という個人の生活実感、矛盾する経済指標、自己責任論の広がり、民主主義の現状、そして家族の変容。これらの一連の流れは、相互に絡み合い、複雑な「混沌」を形成している。

この「混沌」を乗り越えるためには、まず、経済指標の裏にある「富の偏在」という現実を直視し、公平な富の再分配や、賃金が物価上昇を上回る持続的な経済成長の実現が不可欠である。

そして、政治には、短期的なポピュリズムに流されることなく、国民の多様な声に耳を傾け、透明性と説明責任を徹底した上で、長期的な視点に立った政策決定を行うことが求められる。同時に、社会全体で「自己責任論」を乗り越え、困っている人を支え合う「安全ネット」の重要性を再認識し、強化していく必要がある。

「家族」のあり方もまた、旧来の固定観念に囚われることなく、多様な「かたち」を柔軟に受け入れ、それを支える社会制度へとアップデートしていくことが求められる。

今、日本は大きな歴史的転換点に立っている。この「混沌」の中から、個人の感覚を尊重しつつも、歴史的文脈や客観的な知性をもって、より良い社会の姿を模索していくことが、社会を構成する一人ひとりに問われている。


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