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ろろろのめ第12回  🎧️「つまらない時代」だったのか──2010年代後半のミュージックシーンを再評価する




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「つまらない時代」だったのか──2010年代後半を再評価する


インディーロックの終わりとポップの再定義、そして「静かな革命」へ


2010年代後半を語るとき、「記憶に残らない」「プレイリストにしづらい」といった否定的な意見がしばしば聞かれる。ストリーミングによるヒットの可視化困難、チャートの鈍化、均質化するサウンド…。音楽ジャーナリズムの一部では、この時期を“空白の時代”として捉える声も少なくない。


だが、本当に「つまらない時代」だったのだろうか。


むしろ2010年代後半こそが、現代の音楽潮流──とりわけポップの再定義とロックの相対化──を理解する上で、決定的な転換点であったことは明らかである。



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音楽の「聴かれ方」が変わった


ストリーミングの普及は、チャートに長期滞在する“日常化された音楽”を生んだ。もはやヒットとは一時的なブームではなく、生活の中に定着する存在であることが求められるようになった。


この変化は、音楽に“イベント性”ではなく“居心地の良さ”が求められるようになったことを意味する。再生数が意味するのは「話題性」ではなく「日常との親和性」へと変わったのだ。



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インディーロックが失った「時代との同期性」


この変化に対し、最も大きな影響を受けたのがインディーロックだった。2010年代前半までArcade FireやVampire Weekend、Tame Impalaなどの存在が主流を揺るがす力を持っていたが、後半に入ると次第にその求心力は薄れていった。


The 1975 のように意欲的なポップ文脈の導入を試みた例もあったが、多くのインディーロックは時代との「同期性」を失い、SNS以後の感性やジェンダー観、グローバルな価値観に対応しきれなかった。もはやロックバンドの存在は、“時代の象徴”ではなく、特定のコミュニティに属する“ジャンルの一種”へと変質していた。

メディアも「転換点の時代」に追いつけなかった

2010年代後半、音楽の主流がストリーミングを基盤としたポップ、ヒップホップ、内省的なベッドルーム・ポップへと移行していく中で、音楽メディア側の対応も後手に回った。

たとえば、rockin'on の2018年の表紙を飾ったのは、Eminem、U2、David Bowie、The Beatles、Bon Jovi など、いずれも20世紀型のロックスターたちだった。もちろん彼らの歴史的価値は否定されるべきではないが、「今」を切り取るべきメディアが過去の象徴に固執し続けたことは、結果として新たな世代のリアリティとの断絶を深める要因となった。

同様の傾向は、Rolling Stone誌が2020年に改訂した「史上最高のアルバム500」リストにも見て取れる。確かにKanye West『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』やKendrick Lamar『To Pimp a Butterfly』など近年の作品も上位に入ったが、それでも依然として上位20作品の多くは60〜70年代のクラシック・ロックで占められていた。そこに見えるのは、「過去の偉大さ」への信仰と「現在の混沌」への戸惑いである。

音楽ジャーナリズムが「変化を報じる側」ではなく、「かつてのスターを懐かしむ装置」になったとき、そこには現在進行形のポップカルチャーへの接続が失われていた。新たな価値観、新たな聴かれ方、新たなヒーローを見極める眼差しが鈍っていたのだ。メディア自身が「転換点の時代」を見誤ったと言えるだろう。


U2が表紙を飾るrockin'on2018年2月号

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ポップは再定義されていた。「静かな革命」を起こしたアーティストたち



一方、2010年代後半には、完璧さではなく脆さや内面を共有する“等身大のポップ”が主流になりつつあった。Shawn Mendes や Selena Gomez、Post Malone が象徴するように、傷や不安を抱えたままステージに立つことが新たなリアルとして受け入れられるようになった。

Dua Lipa による80年代リバイバルは、単なる懐古ではなく、女性主体のダンスカルチャー再構築として意義を持った。Lizzo のボディ・ポジティブな表現も、変わりゆく価値観の最前線に位置して


さらに重要なのは、The Weeknd の耽美的かつスケールの大きなポップ、Billie Eilish の内省的なサウンドとヴィジュアル戦略、Frank Ocean のR&Bと詩的感性の融合、Drake によるメロディック・ラップの主流化である。彼らはジャンルや国境、ジェンダー観を横断し、グローバル・ポップの定義そのものを塗り替えた存在だった。


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エモ・ラップが照らした内面と世代


またXXXTentacion や Juice WRLD のようなエモ・ラップ系アーティストたちも忘れてはならない。彼らの音楽は、メンタルヘルスや孤独といった内面的テーマを、露出度高く、ほとんど日記のように扱った。そのラフさと即興性は、かえって強い共感を生み、ティーン層を中心に熱烈な支持を集めた。早すぎる死を遂げた彼らの存在そのものが、2010年代後半という不安定な時代の象徴でもある。


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Kendrick Lamarと「言葉の重み」の復権


そして、詩的かつ政治的なラップを主流に押し上げた Kendrick Lamar の存在も決定的だ。『To Pimp a Butterfly』『DAMN.』といった作品群は、アメリカの人種問題や階級格差を真正面から捉え、ポップチャートにおける「言葉の重み」を再定義した。2010年代後半を語るうえで、Kendrick Lamar の果たした役割は極めて大きく、その影響力は2020年代に入っても衰えることはない。


「ロックスター」の再定義とその先へ


こうしたアーティストたち──Billie Eilish、The Weeknd、XXXTentacion、Juice WRLD、Kendrick Lamar、Post Malone──は、かつてロックが担っていた「時代精神の体現者」として機能していた。ギターを持たなくても、苦悩と衝動を音楽に変換する彼らの姿勢こそが、現代におけるロックスターの再定義であった。


それは同時に、ロックの終焉ではなく、ロックの精神性が他ジャンルに継承されていった過程でもある。


---新しい「ロック的」表現は別の場所で始まっていた


ロック的な態度や批評性は、もはやギターとドラムのバンドサウンドの中にだけ存在していたわけではない。2010年代後半、それはヒップホップやR&B、さらにはベッドルームポップやエモ・ラップの中に潜在化していた。


Kendrick Lamar の社会的メッセージ、Frank Ocean の内省性、Billie Eilish のDIY志向、The Weeknd の退廃美学、そして XXXTentacion や Juice WRLD が体現した孤独と痛み──これらは、かつてインディーロックが担っていた“オルタナティブの精神”の後継でもあった。


重要なのは、それらのアーティストたちがメジャーとオルタナティブの境界線を曖昧にしながら活動していた点だ。ポップミュージックの内部にインディー的な価値観が流れ込んだことで、シーンの意味そのものが変質していった。



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対応できなかった「オルタナティブの側」


インディーロックやロックのリスナーの一部は、こうした変化を“退行”や“軽薄化”と捉え、距離を置いた。ヒップホップのリズム構造、メロディレスなフロー、エモ・ラップの即物的な情動に拒否感を示した者も少なくなかった。


だが、それは新しい時代の感性や問題意識への感度を失うことでもあった。


「ロックバンドのように社会を変える音楽」が求められた時代は終わった。音楽はもはや、世界を変える旗印ではなく、世界とどう折り合いをつけるかを示すための鏡となった。インディーロックが支えてきた“表現者の倫理”は、ジャンルの外で新しい形に再編成されていたのである。



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「終わった」のではなく「姿を変えた」


インディーロックの失速は、決して衰退ではない。それは役割の終焉であり、バトンの引き渡しである。2020年代に入り、boygenius や Snail Mail、Mitski のように、ロックの文脈をアップデートする若い才能は再び現れつつある。


だが、それはもはやかつての“インディーロック全盛”とは違う風景の中にある。プレイリスト主導の時代、アルゴリズムに左右される発見性、SNSが生む“バズ”の一過性。それらを前提にしながら、ロックは形を変えて生き延びている。



インディーとポップの境界はなぜ溶けたのか


さらに注目すべきは、Bon Iver や The National といったインディーロックの代表的アーティストが、Taylor Swift の『folklore』『evermore』といった作品において積極的にコラボレーションした事実である。これはインディーロックとポップミュージックの間にあったかつての境界線が、完全に溶解しつつあることを象徴している。

Taylor Swift が自身の創作をより内省的に、より物語性の強いものへとシフトする中で、Bon Iver や The National が持つオルタナティブの要素は、もはや“周縁の趣味”ではなく、ポップの中心に組み込まれる価値観として機能するようになった。ポップはインディーを取り込み、インディーはポップの中で再解釈されていく──そうした構図が、2020年代のポピュラーミュージックの新たな地平を切り開いている。


2010年代後半の遺産を受け継ぐ新世代たち


2025年現在、2010年代後半に形成されたポップとヒップホップの地殻変動は、確実に次世代へと継承されている。その象徴となるのが、Gracie Abrams や JVKE、Sombr のようなアーティストたちである。


Gracie Abrams は、Billie Eilish や Frank Ocean が提示した内省的で静かな感情表現をさらに繊細に深化させ、日記のような歌詞とミニマルなトラックでリスナーと強く結びついている。一方で JVKE は、ソーシャルメディア時代のリズム感とメロディセンスを巧みに操り、Post Malone 以降のメロディック・ラップやエモ・ラップの系譜を軽やかに継承する存在として注目されている。


そして Sombr のようなDIY的な感覚を持ち、ジャンルを越境するアーティストが支持を得ている現状は、The Weeknd や Juice WRLD らが示した「ジャンルを問わず、感情と雰囲気が全て」という潮流の延長線上にある。

彼らは、2010年代後半において音楽が“居心地の良い風景”となったこと、そして自己開示と内省がポップの中心に来たことを当然の前提として活動している。つまり、現在のポップ・カルチャーを読み解くには、2010年代後半という「静かな革命」の地層を理解することが不可欠なのだ。





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終わりに──プレイリストでは切り取れない時代の空気


2010年代後半は、確かに「ヒット曲」という観点からは記号化しにくい時代だったかもしれない。しかし、それは音楽が個別の「曲」よりも、リスナーのライフスタイルや感情の文脈と密接に結びついていたからに他ならない。


「空白の時代」ではなく、「転換点の時代」。ポップが再定義され、インディーロックがその中心から外れていったこの時期は、むしろこれからの時代を理解するための“鍵”を内包した時代だったのではないだろうか。


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参照一覧


■日本語文献・記事

  1. 『ユリイカ 特集 ポップ・ミュージックの現在』(青土社, 2021年)
     → 2010年代後半のポップの変化や、Billie Eilish、Frank Oceanなどの特集が掲載。

  2. 「なぜ、ポップは強くなったのか? 音楽と“居心地の良さ”の関係」|Real Sound(2023年)
     
     → 音楽の“聴かれ方”の変化とポップの再定義を扱う。

  3. 「終わりなきポスト・インディー」|CINRA(2022年)
     
     → インディーロックの衰退とその後の音楽潮流の移行を分析。

  4. 「ヒップホップが“日記”になるまで──XXXTentacion、Juice WRLDと若者たちの痛み」|ele-king(2020年)
     
     → エモ・ラップの台頭と内面性の時代性について深掘り。

  5. 短期カウントダウン連載 2010年代にロックが大失速した2番目の理由 2つの「90年代的感覚」の名残がロックの足かせに

  6. 2010年代のロック音楽(15枚、及びそれを取り巻く状況とか)  

  7. プレイリスト作ってみて見えた、2010年代の洋楽ヒットの問題点

  8. SIGN OF THE DAY鼎談:仲真史×照沼健太×田中宗一郎20年続くブリットポップの後遺症から英国ロックは解放されるのか? 前編

  9. 音楽評論家・田中宗一郎が語る、「記憶喪失の年=2018年」にアール・スウェットシャツのアルバムが断トツだった理由

  10. インディーロックはなぜ失速したのか。てけしゅん

  11. 2010s 宇野維正/著 、田中宗一郎/著 新潮社装幀室/装幀





■ 英語文献・記事

  1. "How Pop Music Became Sad" – The New York Times (2018)
     
     → ポップの内省化と“Sadness”の主流化についての考察。

  2. "The Quietus Essays: The Decline of Indie Rock" – The Quietus (2019)
     
     → インディーロックが時代に取り残された背景を歴史的に分析。

  3. "Streaming Killed the Superstars" – Pitchfork (2021)
     
     → ストリーミングが音楽の聴かれ方とスター像に与えた影響。

  4. "Kendrick Lamar and the Politics of Hip-Hop" – The Atlantic (2017)
     
     → Kendrick Lamarの政治性と詩的表現の意義を深掘り。

  5. "From Indie to Folklore: How Taylor Swift Redefined Authenticity" – Rolling Stone (2020)
     
     → インディーとポップの境界がいかにして消えたか。

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