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がんばるあなたは、美しい。【#創作大賞感想】

小説って、むずかしい。

作り話である以上、世界も、時代も、人物も、思うがまま。その自由度の高さゆえに、なにをどう設定し描写するのかは作者次第である。

ことお仕事小説となると、想像と現実とのバランスが大事なのは言うまでもない。想像力だけで書くと読み手が置いてけぼりにされかねないし、かといって現実的すぎると面白みに欠ける。

両者のバランスが整っていれば、自ずと続きに手が伸びる。そんな小説を一つ見つけた。

亜麻布みゆさんの『人事部付 真田雪乃の議事録』(通称「さなゆき」)だ。

不動産会社の新卒社員である真田雪乃が、上司や同僚、お客様などさまざまな立場の人と関わりながら、社内に新たな風を吹き込んでいく物語。

この小説のよさを3つにしぼって挙げるなら、

  1. 続きが気になる“引きの上手さ”

  2. キャラクターの“作り込みの深さ”

  3. 押しつけがましくない“気づきの豊富さ”

だと思う。それぞれ順に述べていきたい。

※ネタバレはなしです。

1.続きが気になる“引きの上手さ”

小説にしろテレビドラマにしろ、続きが気になるというのは大切な要素だと思う。さなゆきは計24話にもなる長さだが、各回の終わり方にその工夫を感じた。「この後どうなっちゃうんだろう?」と気になってつい続きを読みたくなるような、引きの上手さがさなゆきにはある。

個人的には、第一章第七話がその真骨頂だと思う。雪乃に置かれた状況を想像すると、この引きはかなりハラハラする。テレビドラマだったら絶対この後にCM入る。

途中で離脱せず次々と読みたくさせる技術は、だれにもあるわけではない。亜麻布さんのこの筆力に脱帽した。


2.キャラクターの“作り込みの深さ”

一人ひとりのキャラクターが生き生きとしているのも、さなゆきの魅力だ。
それは個性と簡単に片づけられるようなものではなく、どういう性格で、どういう気質で、どういう生き方をしてきたか、それらがしっかりと刻まれているように思う。

優秀なのに自己評価が低すぎるブラック営業事務、顧客視点と売上との間で揺れるMVP営業マン、容姿端麗ゆえの悩みを抱えた女子社員など、それぞれが持つ特有の悩みや事情をていねいに掘り下げている。
そのどれもがやけにリアルなので、登場人物が本当に実在しているかのように見える。

また、当然ながらすべての登場人物は年齢も性格も立場も違うわけだが、主要人物には強く共感を覚えた。だれかが登場するたびに感情移入しながら読んでしまうし、心のどこかで応援してしまう。そんなキャラクターの作り込みの深さが、さなゆきにはある。

そんなわけで、この作品の登場人物に言いたいのが、「がんばるあなたは、美しい。」なのである。

ちなみに、アルロンのお気に入りは、第一章第四話で初登場する黒木仁。


3.押しつけがましくない“気づきの豊富さ”

お仕事小説だけあって、会社の在り方や業務内容はていねいに作り込まれている印象がある。それだけでなく、新卒社員である雪乃を通すことで、仕事の情報が説明的すぎないようになっている。登場人物を通して気づきや学びを得ることは読書の醍醐味だと思うので、それを上手く、しかもふんだんに取り入れているのは見事である。

特に第二章第五話は、サブタイトルからして名言だし、ある人物の「〇〇大好き」という台詞には膝を打った。

ここで重要なのが、キャラクターの信念や思想は結果的に名言という形で表現されているだけであって、台詞ありきでキャラクターが動いていない点だ。だから押しつけがましさがなく、すんなり受け入れられるのだと思う。


終わりに

考え抜かれた構成と設定、登場人物たちから滲み出す人生観。それらによって生まれたドラマが、雪乃と『議事録』を通して読者に届く。
仕事も、友情も、恋愛も、わかる人にはわかる小ネタも、バラエティー豊かな要素がたっぷり詰め込まれたお仕事小説「さなゆき」。

一度読んだあなたも、まだ読んでないあなたも、ぜひお楽しみいただきたい。

(おしまい)


#創作大賞感想

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