怒りと哀しみのBBQ

一年で最も嫌いな行事。
それは、恋人たちがキャッキャウフフするクリスマスではなく、男子が無駄にソワソワするバレンタインデーでもない。
そりゃあね、配偶者や恋人、せめて気になる相手の一人でもいれば違うんだけどね。こちとら20年以上も特定のパートナーがいないもんで、一人でポケモン捕まえてるのが常ってもんよ。
いいんだよ、僕の彼女いないエピソードは。


僕が最も嫌いな行事は、バーベキュー(BBQ)だ。
断っておくと、BBQ自体はむしろ好きだと思う。肉を頬張り、酒を流し込み、しょーもない話からガチトークまでやんややんやとしゃべり尽くす。なんとも楽しい限りではないか。

僕が嫌うのは、BBQそのものではなく、“実家で開催される”BBQだ。
なにが嫌って、準備と後片付けをしない輩が多いのである。
好きなだけ飲み食いして満足したらさっさと帰る、そんな人間と一緒に行うBBQなど楽しくもなんともない。
たまにしか会えない親戚とかなら話は別。その人たちはゲストなので、存分に楽しんでいってほしい。そうではなく、日常的によく遊びに来るやつらが手伝いもなにもせず帰っていくのは、腸が煮えくり返るほど腹が立つ。


「それなら参加しなきゃいいじゃん」という声が聞こえてきそう。
そう、そうなんだ。きっとここから愛なんだ。はじめることが愛なんだ。
じゃなくて、本当は参加したくないけど、参加しなければならない事情があるんだ。

それは、父の存在である。決して、父が無類のBBQ好きで家族にそれを強いているわけではない。BBQを楽しむだけでろくに手伝いもしない【あっち側】の人間とは違う。
父は、十数年前に気管支炎を、数年前に肺炎を患い、生死をさまよった。
幸い日常生活は問題なく過ごせているが、重い物を運ぶといった肉体作業がほとんどできない。なので、庭の畑仕事やタイヤ交換、冬季の除雪などは、専ら僕が行っている。

そんな父に、焼き台やら椅子やらを一人で出し入れさせるのは、とてもできない。
ほかの連中はというと、「どこになにがあるかわかんない」とか「やり方がわかんない」とか「Darling,darling,what 感 eye」とかほざき出して、結局なにもしない。だから、僕がやるしかないのだ。

僕だって、段取りや道具の場所などをすべて把握しているわけではない。実家にいない期間が長かったため、ここ10年ほぼ毎年開催しているこのBBQに参加するのは、実質3回目くらいだ。僕の不在時は父が一人でふうふうと息を切らしながら動いていたのだろうと思うと、やるせない気持ちになる。

そんなことだから、「あーあ、当日我が家の上空だけ雨が降らないかなぁ」なんて思っていたが、空気の読めない台風さんは見事に遠ざかっていったとさ。



今年のBBQは、大人14人、子ども7人の総勢21人が大集結した。
僕は友人・バツ丸と会う約束があったが、このBBQのためわざわざ翌日にずらしてもらった。

※バツ丸とのエピソードはこちら↓

午後2時、父と二人で準備を開始する。
車庫の奥から、焼き台、椅子、テーブル、ブルーシートなどを引っ張り出していく。父の(小うるさい)指示を仰ぎながら、家の裏にある庭にせっせと運び込む。

午後3時、近所に住む伯母(母の姉)を迎えに行く。
家に戻る途中でスーパーに寄り、伯母がソフトドリンクやら花火やらをたくさん買ってくれた。「こんなに買ったら余るだろうなぁ」と思ったが、伯母の好意に水を差すのはやめた。

午後4時、参加者たちがぞろぞろと集まってくる。
僕はというと、炭の火起こしをしていた。炭も文化焚き付けも昨年の余りなので、だいぶ湿気っている。火をつけても全然燃えないのだ。悪戦苦闘の末、未開封の文化焚き付けを解禁。いやぁ、新品はしっかり燃えるなぁ。
あとは、バドミントンで磨いた手首のスナップを生かして、団扇でひたすら扇ぐべし。ひじを左わきの下からはなさぬ心がまえでやや内角をねらいえぐりこむようにして扇ぐべし。まぁ、僕右利きなんだけど。

午後5時、姉家族がなかなか来ないので、母が姉に電話する。
母が「まだ来ないの?」と聞くと、姉は「えぇ~6時からだと思ってた~」とのこと。時間前に来て準備を手伝うという考えは毛頭ない。うん、知ってた。
僕は、火起こしの延長で肉焼き係となっていた。別にいいんだ。酒も飲まないし、ただじっと座っているだけっていうのは性に合わないから。

午後6時、姉家族が到着する。
これくらいのタイミングで、僕も小休止。従兄弟の兄ちゃんのところへ行き、兄ちゃんの奥さんとお子さんに挨拶してから、少し談笑した。奥さんはKinKi Kids世代らしく、「デビュー当時、雑誌を読んで『同世代にこんなきれいな男の子がいるなんて』って友達と騒いでいた」と若かりし頃の思い出を語ってくれた。うんうん、そうでしょうそうでしょう。雑誌はあれかな、Myojoかな。
とにかく、15分くらいのこの時間が、今日一の楽しい時間だったってわけ。

午後7時、姉が僕に話しかけてくる。
なんでも、姉の長男・タロウのニンテンドーSwitchでエラーが発生しているということで、どうすればいいのかわからないらしい。かわいい甥っ子のため、僕は炭火臭い体でひとり自室にこもり、Switchとにらめっこを決め込んだ。

※タロウとのエピソードはこちら↓

小一時間ほどSwitchのエラー解消に挑んだ僕だったが、結果は残念なものとなった。
本体の再起動をしてもダメ、カートリッジの端子部分をエアダスターやメガネクリーナーで掃除してもダメ、30分かけてソフトを再インストールしてもダメ。僕が出した結論は、「任天堂サポートへ修理に出さないとダメっぽい」だった。ごめんよ、タロウ。
また、よくよく調べてみると、どうやらパッケージ版のエラーが多いソフトらしく、アップデートを待つよりもダウンロード版を買い直した方がいいとの情報もあった。
みんながBBQしてる間になにしてんだろう、僕。

午後8時、Switchとの戦いに敗れた僕は、1階のリビングへ。
BBQに疲れたであろう父が、ソファに寝そべりながら野球中継を観ていた。おっ、ファイターズが勝ってる。僕もだいぶ疲労がたまっていたので横になりたかったが、このまま横になると眠ってしまう可能性が大きい。片付けが終わるまでは起きていないといけないので、座ったまま少し休んだ。自分の家だけどもう帰りたい。
しばらくして外に出ると、数人が花火をしていた。義姉(兄の妻)が「たくさん余ってるから、数本同時に火をつけよう」と僕にも消費を促す。線香花火を2本同時に点火しちゃうぜぇ。ワイルドだろぉ?風情もへったくれもないな。
花火の火が消えると、兄の三男(3歳)が「バケツ屋さんでーす!終わったらこのバケツに入れてくださいねー!」と案内してくれた。いいなぁ、バケツ屋さん。僕も就職しようかなぁ。

午後9時、伯母や従兄弟らが帰っていくも、まだ15人くらいが騒いでいる。
もう遅いからそんなに大声で話さないでくれ。近所迷惑だろうが。そんな僕の思いも虚しく、酔っぱらいと少年たちの声が夜空に響き渡る。『夜空に響き渡る』をこんなかたちで使いたくなかった。
僕は全体の様子を見ながら、もう必要なさそうな道具をちょこちょこと片付ける。しばらくして、さすがに時間が時間だと思い、「続きは家の中で」と強制終了を告げた。そして、酔いどれの老いぼれたちが去った会場を、本格的に片付け始めた。
親戚のおばさんやその娘さん(20代)が率先して片付けを手伝ってくれたのは、とてもありがたい。その一方で、客人に手伝わせるのは気が引けた。「後は僕がやるんで、中に入ってください」と言っても、作業をやめてくれない。嬉しい半分、申し訳ない半分の複雑な気持ちだった。

午後10時、来客が全員帰ったので、家の中の片付けを始める。
同じ銘柄のビールが3缶、すべて開封されて中身が残っている。1缶ずつ飲めぇ!
1.5リットルのペットボトルに入ったソフトドリンクが7本、すべて開封されて中身が残っている。こんなん冷蔵庫に入りきらん!持って帰れぇ!
ポテトチップスの袋がパーティー開きで中身がほとんど残っている。しかもビッグパック。食い切れぇ!
心の中の千鳥・ノブがぼやく中、湿気った大量のポテチをコーラやファンタグレープで流し込む。ニキビと糖尿病まっしぐらだわ。あと、33歳の胃腸にビッグポテチはつらい。

午後11時、汗と炭火臭をシャワーで洗い流す。
いやぁ、疲れた。まっ白に・・・・燃えつきた・・・・。
堂本剛ではないが、正直しんどかった。従兄弟の兄ちゃん夫婦と話した時間以外、全然楽しくなかった。割と本気で『準備と後片付けをしない者にBBQを楽しむ権利はない』という主旨の法律を制定していただきたい。
ただ、片付けを手伝ってくれた人たちから「準備から後片付けまでやってくれてありがとね」と労いの言葉があったのが、せめてもの救いだった。そういう人たちが貧乏くじを引かないよう、僕は今後もこの役を背負うのだろう。



BBQに限らず、だれかが楽しいと思うことは、ほかのだれかの苦労の上にあるものだ。『喜怒哀楽』という言葉があるように、『喜』や『楽』だけではなく、『怒』や『哀』も必ずある。
たとえば、居酒屋で飲み食いしたとしても、お店の人が準備や後片付けをしてくれる。ならばこちらは客として、注文したものは残さないとか、過度に騒がないとか、お店側になるべく迷惑のかからない振る舞いを心がけたい。「お金を払っているんだから客の方が偉い」とかいう謎理論は、ひじを左わきの下からはなさぬ心がまえでやや内角をねらいえぐりこむようにして破るべし。まぁ、僕右利きなんだけど。


ただ楽しむだけの【あっち側】の人間にはなりたくないものだ。


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