走る理由(#創作大賞感想)
毎日noteでなにかしら書いていると、ほかの作品を読むことが減る。普段から交流のない相手であればなおさら。
それでも、おすすめ欄に出てきたりSNSで紹介されていたりしているものの中には、気になる作品があるのもまた事実。
逃げ切る。
たった四音のタイトル。しかも動詞。気になる。
チラッと見えた書き出しは、「わたしは自他共に認める運動音痴だが足だけ速い。ずっと母から逃げてきたからだ。」だった。気になる。
読んでみた。
読んでみると、不思議な感覚に包まれた。文章を読んでいるというより、目の前でエピソードトークを広げている人に耳を傾けている感覚だった。文章も、綺麗に綴ったというより、気持ちのままに書き殴ったように見える。
エピソードの主軸は、母親から(物理的に)逃げた学生時代の話。そして不審な男から(物理的に)逃げた割と最近の話。
母親は、男は、そして作者は、なぜ走ったのか。その答えは、本作の中には明記されていない。
ただ、作者にとっては不本意かもしれないが、走ることがなんらかのコミュニケーションになっていたような気がしてならない。格闘漫画とかでありそうな「拳で語る」に近いニュアンスだろうか(もっとも本作における当事者同士の関係性は良いとは言えないが)。口論や殴り合いの代替として「走ること」が選ばれたのではないだろうか。あまりにも伝わりにくく、効率の悪い方法だけれど。
この妙なモヤモヤを、エッセイの余韻と呼ぶのかもしれない。
また本作は、脳内実況がかなり事細かい。リアルタイムで考えていたことを、冷静に、客観的に文章としてしたためている。ときにユーモラスに。ときに哲学的に。脱線しているようで、本筋はズレていないように感じた。すごい。
「瞬足」に笑ったり、走る場面に固唾を呑んだり、運動音痴にシンパシーを感じたり(僕は各種運動音痴に加え足も遅いので本当に救いようがなかった)、ジルサンダーに声援とスタンディング・オベーションを贈ったりと、読んでいるこちらもなにかと忙しない。
そんな急流のような文章の中にありながら、意外と心地は悪くなく、むしろどこか満ち足りた気分さえある。なぜなのかはわからない。これもまたモヤモヤしている。
けれど、このエッセイを読んでよかった、という確信めいたものがある。
さまざまな感情を引き出し、揺り動かし、適度に余韻を与えてくれるのがいいエッセイなら、本作も間違いなくそのひとつだ。それこそ走った後のような清々しさが、モヤモヤの中から垣間見える。
(おしまい)
いいなと思ったら応援しよう!
なんと アルロンが おきあがり
サポートを してほしそうに こちらをみている!
サポートを してあげますか?