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【せりふ三題噺】ショート……いや、グランデサイズで|草原.返却.ペンネ|ショートショート
タイトル:草原カフェの返却期限
世界の果てには、返却専門の図書館がある。
借りる場所ではない。
返す場所だ。
読み終えた本。
使い終えた夢。
もう必要なくなった後悔。
そんなものを返却するための、不思議な図書館。
私はある日、返し忘れていたものを持って旅に出た。
若い頃の失敗をひとつ。
長いこと胸の奥に入れたままだった。
図書館へ向かう途中、
広大な草原に迷い込む。
風が吹く。
空は青い。
その真ん中に、小さなカフェがあった。
看板にはこう書かれている。
「記憶と軽食の店」
中へ入る。
店主は白い耳の生えた老人だった。
「ご注文は?」
メニューを見る。
ショートサイズ。
トールサイズ。
グランデサイズ。
全部、飲み物ではない。
思い出の整理量らしい。
私は少し悩んで言った。
「ショート……いや、グランデサイズで」
店主は満足そうにうなずく。
運ばれてきたのは、
湯気の立つペンネだった。
なぜペンネなのかは分からない。
でも一口食べるたび、
古い記憶がほぐれていく。
恥ずかしかった失敗。
言えなかった言葉。
思い出すだけで縮こまっていた出来事。
それらが少しずつ形を変える。
傷ではなく、物語へ。
ペンネを食べ終えた頃には、
胸が少し軽くなっていた。
店主が言う。
「返却するのは忘れることじゃない」
窓の外で草原が揺れる。
「持ち方を変えることだよ」
私は図書館へ向かう。
返却口に、古い失敗をそっと入れる。
すると受付係が笑った。
「返却期限は、とっくに過ぎてましたね」
私は苦笑する。
本当だ。
ずいぶん長く持ちすぎた。
帰り道。
草原の風は来た時より少し優しかった。
そしてなぜか、
ペンネの味だけは最後まで忘れなかった。
了

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