【3つのお題に空想のひらめきを第24回】たそがれ列車.ひび割れた月.ガラスの舟|ショートショート
タイトル:ガラスの舟、真ん中行き
たそがれどき、駅にホームの影がゆっくり延びる。
その端に、今日も「ガラスの舟」が停まっていた。
列車なのに舟の名を持つそれは、表面がまるで氷菓子みたいに透けていて、触れれば割れてしまいそうなのに、不思議と人を乗せる強さだけはあった。
ルルが一歩踏み込むと、車内がふっと色づく。
「キキか、ブーバか——どっちの世界に行く?」
車掌の声は、鼓膜より心臓に響く感じのやつ。
ブーバ/キキ効果。
丸いものは“ブーバ”、尖ったものは“キキ”と感じる、人間の感覚の癖。
たそがれ列車は、それを“世界の形”として扱っているのだという。
ルルは窓の外を見る。
ひび割れた月が空に浮かび、そこから銀色の粉が地上にこぼれ落ちていた。
ブーバの世界かと思いきや、月の割れ目は鋭く光っていて、キキの匂いもする。
「どっちでもある世界」か。
ルルの胸が少しだけ高鳴った。
「今日は、真ん中に行きたい」
そう告げると、車掌は嬉しそうに頷く。
列車は静かに走り出す。
通り過ぎる景色は、丸い丘と尖った塔が入り混じり、形を決めきれずに揺らぎ続けている。
見慣れない鳥が空を横切った。翼はふわふわ丸いのに、鳴き声は鋭利に響く。
世界は本来、どちらでもいいのだ——
丸くても、尖っていても、その途中でも。
ふいに、車掌が言った。
「ルルさん、人も同じでしょう? “どんな形でいてもいい”。
その日の気分で変わって大丈夫。壊れないから。」
ガラスの舟が、きらりと光る。
それは割れる光ではなく、受け止める光だった。
ルルは窓に手を置き、揺れる世界をじっと眺める。
丸くても尖ってもいい自分を、今日は少しだけ許せる気がした。
列車は、たそがれの向こうへ消えていく。
月のひび割れが優しくきらめく、その先へ。
おしまい。

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