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humorou1
【3つのお題に空想のひらめきを第32回】狼の守り人 .満月の記憶.運命を書き換えるペン|ショートショート
タイトル: 狼の守り人
満月の夜、世界はいつもより少しだけ嘘をつかなくなる。
森の奥、彗星が空を裂いたその瞬間、
狼の守り人は思い出してしまった。
――忘れたはずの、満月の記憶を。
かつて彼は、運命を書き換えるペンを持っていた。
紙に触れれば未来が揺れ、
一文字消せば誰かの人生が分岐する。
便利で、残酷で、そして重すぎる代物。
守り人は悩み続けた。
救うべきか、見送るべきか。
それはまるで、
干し草の前で立ち尽くすビュリダンのロバみたいに。
選べないという選択が、
時間だけを静かに殺していった。
その夜、満月が彼に問いかける。
言葉はなく、ただ白く、冷たく。
狼たちは吠えなかった。
守り人の迷いを、もう知っていたから。
彗星が再び尾を引く。
一度きりの、二度と戻らない軌道。
守り人は、ペンを折った。
運命は書き換えなかった。
――いや、書き換えないと決めたのだ。
その瞬間、世界は少しだけ前に進んだ。
正解かどうかなんて、誰にも分からない。
ただ、狼たちは静かに座り、
彼の背中を夜明けまで守っていた。
満月の記憶は、もう問いを投げない。
選んだ者だけが、
次の朝を迎えられると知っているから。
おしまい

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