【アマノ文筆クラブ】ラーメン食べたい|ショートショート
タイトル:ラーメン食べたい
勇者ユウは富士山の頂上で途方に暮れていた。
目の前には伝説の魔王。
世界を滅ぼそうとしている存在だ。
空は黒雲に覆われ、
雷が走り、
大地は震えている。
まさに最終決戦。
普通なら感動的な場面だった。
しかしユウの頭の中は別のことでいっぱいだった。
ラーメン食べたい。
昨夜から何も食べていない。
魔王城へ向かう途中で食料が尽きたのだ。
魔王が剣を構える。
「勇者よ。最後の言葉はあるか」
ユウは真顔で答えた。
「ラーメン食べたい」
沈黙。
風が吹く。
魔王も少し困っていた。
「いや、もっとこう…ないのか」
「醤油でも味噌でもいい」
「そうじゃない」
その時だった。
富士山の火口から光が溢れ出す。
伝説のおたまが現れたのだ。
黄金に輝く巨大なおたま。
古代神話によれば、
人々が積み重ねた徳が一定量を超えると出現するという。
世界中の善意。
親切。
思いやり。
その全てが結晶化した神器だった。
おたまは空中を回転し、
巨大な鍋を召喚する。
さらに雲から麺が降り、
山の湧き水がスープになり、
森の精霊がネギを刻み始めた。
魔王は呆然と見上げる。
勇者も見上げる。
数分後。
富士山の頂上に、
世界最大のラーメンが完成した。
香りが広がる。
誰もが幸せになりそうな香りだった。
魔王のお腹が鳴る。
ぐううう。
勇者のお腹も鳴る。
ぐうううう。
二人は顔を見合わせた。
そして無言で頷く。
三十分後。
ラーメンは完食された。
魔王は満足そうにため息をつく。
「世界征服、やめるか」
「そうしようぜ」
こうして世界は救われた。
後世、この出来事は
『富士山ラーメン停戦協定』
として歴史に残る。
なお、黄金のおたまは現在もどこかで眠っている。
世界中の人々の徳が集まり、
再び誰かが心の底から
「ラーメン食べたい」
と思った時に現れるらしい。
了

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