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huge_ixora3675
【3つのお題に空想のひらめきを第38回】夜を売る屋台.三日月の鍵.名前を忘れたドラゴン|ショートショート
タイトル:三日月の鍵をくわえた夜
夜を売る屋台が、街のはずれに出る。
看板も値札もない。
ただ、甘い匂いだけが漂う。
綿あめみたいな、
焼きたてのパンみたいな、
でも少し焦げた星の匂い。
屋台の主は、名前を忘れたドラゴンだ。
巨大なはずなのに、
今は人間くらいの姿で、
前掛けをして、夜を小分けにしている。
「いらっしゃい。今日はどんな夜が欲しい?」
私は少し考える。
眠れない夜。
泣いてもいい夜。
誰かに会える夜。
「合格する夜、ください」
今日はオーディションだった。
結果はまだ出ていないけれど、
胸の中で何かが震えている。
ドラゴンは、くすりと笑う。
「夜は売れるけど、未来は売れない」
そう言って、
小瓶をひとつ差し出した。
中には、三日月の鍵。
淡く光っている。
「これは?」
「閉じ込めた不安を開ける鍵。
逆に、余計な声を閉じる鍵にもなる」
ドラゴンは少し目を細める。
「名前を忘れた代わりに、
匂いだけは覚えてるんだ。
本当に欲しい夜は、甘い匂いがする」
私は鍵を握る。
胸の奥のざわめきが、
少しだけ静まる。
屋台を振り返ると、
ドラゴンはもういない。
甘い匂いだけが残っている。
ポケットの中で、
三日月の鍵がかすかに鳴る。
合否はまだ分からない。
でも今夜は、
ちゃんと眠れそうだ。
夜は、買わなくても、
自分で灯せるのかもしれないから。
おしまい

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