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【毎週ショートショートnote】思い出相続税|ショートショート


タイトル:思い出相続税の散策者

この街では、思い出にも税金がかかる。

受け継いだ記憶。
大切にしている時間。
それらはすべて、「資産」として扱われる。

――思い出相続税

最初にその言葉を聞いたとき、
少しだけ息が詰まった。

「本日は、散策のご予定でよろしいでしょうか」

受付の人が、丁寧語で問いかけてくる。

私はうなずいた。

「はい、少しだけ見て回ろうと思って」

この街には、自分の思い出を確認できる場所がある。

歩いていくと、
景色の中に、自分の記憶が重なる。

笑った日。
迷った日。
何気ない帰り道。

どれも、きらきらしている。

「こちらは、申告対象となる思い出でございます」

案内の声が、やさしく響く。

それは、特に強く残っている記憶。

つまり、手放すか、
納めるかを選ばなければならないもの。

私は、ひとつの場面の前で立ち止まる。

小さな出来事。
でも、なぜか忘れられない瞬間。

「……これは」

口に出しかけて、やめる。

宝だと思った。

誰にも渡したくない。

「非課税にする方法はありますか」

思わず聞くと、
案内人は少しだけ微笑んだ。

「ございます」

その答えに、胸がわずかに軽くなる。

「ただし、その思い出を、これからも大切にし続けることが条件でございます」

私は、ゆっくりとうなずいた。

「それなら、できます」

思い出は、ただ持っているだけじゃない。

何度も思い返して、
少しずつ形を変えながら、
それでも残っていくもの。

散策を終えて、外に出る。

風がやさしく吹いている。

税金として手放さなかったものは、
少しだけ重くて、
でもそれ以上に、あたたかかった。

宝は、減らすものじゃない。

守り続けることで、
価値が増していくものなのかもしれない。



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