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【風まかせ文芸部】瞳|エッセイ



フェンス越しに覗いた空は、
思ったよりずっと広かった。

誰かを待つみたいに伸びた鉄の格子が、
私の視界を切り取って、
世界を四角い額縁みたいに見せる。
なのに、そこをすり抜けるように
空はいつも自由だった。

その日、ポストに一枚だけ置手紙が入っていた。
白い紙はやけに軽くて、
胸の奥は逆にずしんと重くなった。

「ごめん、じゃなくて、ありがとう」

そんな言葉の使い方、
ずるいよ、って思った。
優しさで包んだ刃物みたいで、
触ったら確実に切れるやつ。

家を出て、その足でふらりと公園に向かった。
夜はまだ早いのに、
空は澄んでいて、星の配置がやけにはっきりしていた。
私はベンチに座り込んで、
スマホを握ったまま動けなかった。

昔、誰かと天体観測した時のことを思い出した。
星座をなぞる指先に、
名前を知らない感情が宿っていた頃。
あのとき見上げた空と、
今日の空は同じなのに、
私のだけが違う色をしている。

置手紙に書かれた「ありがとう」は、
きっと別れの言葉なんかじゃない。
終わりに見せかけた始まりで、
背中を押すための最後の合図。

なら、私の瞳は前を向くしかないんだろう。
フェンスに切り取られた空の向こうに、
まだ知らない光があるはずだから。

私はゆっくり息を吸って、
紙をたたみ、ポケットにしまった。

星は少しにじんで見えたけれど、
それでも、ちゃんと瞬いていた。



ありがとう…か


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