【風まかせ文芸部】錯覚|エッセイ
庭に出ると、朝の光がまだ柔らかくて、土の匂いがほんの少し甘く感じられる。ガーデニングなんて大それた趣味じゃないのに、私はそこにいると、世界が私を必要としているような錯覚にとらわれる。
たぶん、芽吹きの小さな力みたいなものが、私の存在を肯定してくれるからだ。
けれど、その錯覚はいつも長く続かない。雑草は容赦なく伸びるし、葉の一枚一枚には虫食いができる。現実は、私の幻想をエスカレートするように、少しずつ壁を作っていく。
でも不思議と、それでも嫌いになれない。
失敗しても、また明日もここに立っていたいと思わせる。
朝の作業を終えて部屋に戻ると、ぽっかり心に穴が空いたように感じる瞬間がある。まるで誰かが私の中心をひょいと持ち上げて持ち去ってしまったみたいな、あの静かな空洞。
そんな時、私は決まってドーナツを思い出す。
穴が空いてるのに “完成品” として許されている、あの丸い食べもの。
なんだか羨ましい。穴があるからこそ形として成立していて、それが魅力にもなっている。
人間はどうして、欠けていると自分を責めてしまうんだろう。
どうして“完璧じゃないといけない”なんて思ってしまうんだろう。
ガーデニングの土の匂いと、ドーナツの甘い香り。
両方を思い出しながら、私は薄い空気を吸い込んだ。
もしかしたら、穴がある“私”でも、ちゃんと今日を生きてていいのかもしれない。
欠けているからこそ、光が差し込む場所ができるのかもしれない。
そう思うと少しだけ、胸の奥があたたかくなった。
静かに、でも確かに。
誰にも分からないくらいの速度で、ほんの少しだけ私は救われていく。
了

*下記企画に参加させて頂きました*
☆次の作品はこちらです↓↓↓
前回の作品はこちらです↓↓↓
最後までお読み下さり、ありがとうございます😊
いいなと思ったら応援しよう!
読んで下さりありがとうございます!励みになります!