見出し画像

【アマノ文筆クラブ】おしこんだりもしたけれど、私は能天気です|ショートショート

タイトル:おしこんだりもしたけれど、私は能天気です

私の文庫本には、世界が挟まっている。

栞のかわりに、砕いた香辛料。
シナモン、カルダモン、黒胡椒。

ページをめくるたび、くしゃみが出そうになる。
でもそれがいい。
くしゃみの一歩手前って、現実と夢の境目みたいだから。

この本は、ただのファンタジー小説だった。
剣も魔法も出てこない。
代わりに出てくるのは「超越」という概念だけ。

ある日、どうしても越えられない日常を
私はその本の中に押しこんだ。

理不尽とか、ため息とか、
言い返せなかった一言とか。

ぐい、と。
背表紙が少し軋んだ。

夜。
香辛料の匂いがふわりと部屋に満ちた。

ページが勝手にめくれる。

そして書き足されていた。

“あなたはすでに超越している”

え?

私はただ、押しこんだだけだよ。
逃げただけ。
現実を文庫本に預けただけ。

でも本は、静かに膨らんでいた。
まるでパンみたいに。

朝になると、
押しこんだはずの重たい感情は
粉になっていた。

テーブルの上に、きらきらと。

私はそれを指ですくって、
スープにひとつまみ落とす。

ちょっとだけ刺激的で、
ちょっとだけ大人の味。

おしこんだりもしたけれど、
私は能天気です。

だって世界は、
ページの向こうから、
いつでも香りつきで帰ってくるから。

香辛料


*下記企画に参加させて頂きました*


☆次の作品はこちらです↓↓↓

前回の作品はこちらです↓↓↓


最後までお読みくださり、ありがとうございます😊すず

いいなと思ったら応援しよう!

鈴蘭 読んで下さりありがとうございます!励みになります!