ヨル編第18章 町暮らしの始まり
前回のお話
皆さんこんにちは!
前回で山暮らしに終わりを告げて、今回からは町の暮らしが始まります…
山賊たちが捕えられてから数日。
ヨルは、警護団の男――みんなが“オジサン”と呼ぶ人物――の家に身を寄せることになった。
彼の住まいは、町のはずれにあるごく普通の木造家屋だった。
戸口にはしっかりとした扉があり、調理道具や寝床も整っている。
洞窟暮らしが当たり前だったヨルにとって、それはまるで別世界のように感じられた。
「ここでしばらくのんびりしていくといい」
オジサンはそう言って、簡素な食事を差し出した。
だがヨルの胸の中には、感謝よりもぽっかりとした喪失感のほうが大きかった。
あの人たちは、どうなったのだろう。
もう二度と会えないのだろうか――。

山賊たちは、罪に問われることになった。
とはいえ、法がまだ整いきっていないこの時代だ。
“処刑”というより、“報復”のような形で裁かれたかもしれない。
ヨルはそれを確かめることも、知ることも許されなかった。
ただ、心のどこかで薄々わかっていた。
――あの人たちは、もうこの世にいないのだと。
そんな現実を前に、ヨルの心は再び閉ざされていった。
町の人々に囲まれても、彼女の警戒は解けない。
大勢の人間の中にいるというだけで、胸がざわついた。
笑い声が聞こえるたび、どこか遠い世界の音のように感じた。
オジサンは、そんなヨルを気遣ってくれていた。
「無理に馴染まなくていい。ゆっくりでいいんだ」
その言葉に少しだけ心が救われたものの、
夜になると、山で過ごした日々の記憶が胸を締めつけた。
町の人々も、ヨルの事情をそれとなく理解していた。
「山賊に攫われた可哀想な子」――そう見てくれる者もいれば、
「本当は仲間だったんじゃないか」と陰口を叩く者もいた。
ヨル自身、そのどちらの見方も否定しきれなかった。
実際、あの人たちは彼女の“家族”でもあり、“山賊”でもあったのだから。
それでも、オジサンの家は不思議と温かかった。
湯気の立つ鍋、夜に灯る小さな灯り、
そして“今日も無事に一日が終わった”という穏やかな空気。
それらが、ほんの少しずつ、ヨルの心の隙間を埋めていった。
オジサンは、ヨルが町に馴染めるよう、さりげなく気を配ってくれていた。
暮らし始めて間もないある日、彼はヨルを連れて町の広場へ出かけた。
そこには、顔なじみの商人や職人、子どもたちが集まっている。

「この子はヨルだ。しばらくうちで世話になる」
そう言って、彼は穏やかな笑みを浮かべた。
ヨルは緊張しながらも頭を下げ、短い挨拶をした。
それだけでざわめいていた空気が少し柔らいだ。
その日を境に、ヨルは町の暮らしに少しずつ関わるようになった。
最初は家の掃除や食事の手伝い、洗濯などの家事。
ときにはオジサンと一緒に町を回り、困っている人がいれば荷物を運んだり、道を教えたりした。
ほんの小さなことでも、誰かの役に立てるのがうれしかった。
最初のうちは失敗も多かった。皿を割り、水をこぼし、針に糸を通せず苦戦した。
けれど、そのたびにオジサンは怒ることなく笑って言った。
「焦るな。人の暮らしはゆっくり覚えていけばいい」
その言葉に背中を押されながら、ヨルは少しずつ成長していった。
洞窟での暮らしで培った忍耐と手際の良さもあって、
やがて町の人々の間でも「あの子はよく働く」と評判になった。
人々の中には、まだヨルの過去を訝しむ者もいた。
けれど、彼女が真面目に働き、笑顔を返す姿を見るうちに、
少しずつ“余所者”という印象は薄れていった。
オジサンの穏やかな人柄も、それを後押ししていた。
彼の言葉には不思議と人の心を和ませる力があり、
ヨルもその影響を受けて、少しずつ人との距離を縮めていった。

オジサンのお陰で少しずつ新しい環境にも慣れていきます…
今回はここまでです。最後までお読みいただきありがとうございます。
それでは、今日も明日も皆さんにとって良い一日になりますように♪
