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ヨル編第17章 町に連れていかれて

前回のお話

ヨル編第16章 嘘|リオ=スギマ

皆さんこんにちは!
前回また大きな別れを経験したヨルですが……


山を下る道のりの途中、ヨルの頭の中にはお頭の言葉が響いていた。
 ――「おめえは山賊には向いてねえ。動物すら仕留めるのに躊躇するんだ。人を襲ったり物を奪ったりなんてできねえ。おめえは普通になれる子だ」――

 それがいつ言われたのか、もう定かではない。
 けれどその言葉は、今になって胸の奥で重く、温かく残っていた。
 もしかしたら、お頭は最初から、いつか自分を山から降ろすつもりでいたのかもしれない。
 ――こんな日が来ることを、どこかで予感していたのだろうか。

 歩きながら、ヨルは何度も唇を噛んだ。
 警護団の人たちは悪くない。彼らはただ正しいことをしているだけだ。
 けれど、その「正しさ」が、またしても自分から家族を奪っていった。

 “どうして……どうして私から家族を奪うの……?”

 心の中で叫んでも、返ってくるのは風の音だけだった。
 怒りと憎しみが、再び胸の奥で燃え上がる。
 けれどそれは、かつての復讐の炎とは違っていた。
 誰かを憎みきることも、責めきることもできない。
 お頭たちの行いが悪であったことも、警護団の行動が正義であることも、どちらも分かってしまっていた。

 ――分かっているのに、赦せない。
 ――赦したいのに、心が追いつかない。

 その狭間でもがくヨルの心は、まるで鋭い棘の上を歩くように痛かった。
 胸の奥では、再び「家族を失った」痛みが、かつての記憶と重なり合っていく。
 それでも、涙は出なかった。
 ただ、遠くに霞む山の稜線を見つめながら、ヨルは小さく呟いた。

 「……どうして、こんなに苦しいの……?」

 町に着くと、ヨルは警護団の詰所へと案内された。
 木の机に向かい、厳めしい顔をした男が「事情を聞かせてほしい」と静かに切り出す。
 最初は、口を閉ざしたまま俯いていた。何を話せばいいのかも、何を信じていいのかもわからなかった。
 けれど、「君はあの山賊に攫われていたのか?」と問われた瞬間、思わず「違う」と口をついて出てしまった。

 そこからは、堰を切ったようにこれまでの出来事を話していた。
 家族が襲われ、ひとりで生きるしかなかったこと。
 山で倒れていたところを拾われ、食事を分けてもらい、洞窟で暮らしていたこと。
 誰も悪く言いたくなかった。ただ、ありのままを伝えたかった。

 話を聞き終えた男は、少しの沈黙のあとで言った。
 「……君が人を襲ったわけじゃないなら、きっと悪いようにはしない。ただな、あの山賊のことを“世話になった”なんて他の人に言わない方がいい。あの連中に傷つけられた人は多い。君まで誤解される」

 正しいことを言っているのは分かっていた。
 でも、胸の中で何かがざらついた。
 “恩人を悪人として口をつぐまなければならない”という現実が、どこか理不尽に感じられた。
 ――それでも、反論することはできなかった。

 長い沈黙のあと、男は深くため息をつき、柔らかい声で言った。
 「……じゃあ、そろそろ行こうか」
 「い、行くってどこに?」
 「俺の家だ。君は身寄りがないんだろう?しばらくの間、うちで預かることになった」

 あまりにも唐突な言葉に、ヨルはぽかんと口を開けた。
 捕まった人たちの仲間と見なされてもおかしくない自分を、保護してくれるという。
 それがどれほど有り難い申し出なのか、すぐには実感できなかった。
 お頭たちを捕まえた側の人間――その仲間の庇護を受けることに、心の奥では戸惑いがあった。

 けれど同時に、孤独に彷徨うよりは、誰かのそばにいたいという思いも確かにあった。
 信じていいのか、まだ分からない。
 それでも、あの洞窟を後にした時から、ヨルの新しい暮らしはもう始まっていた。

 こうして――山の静けさとはまるで違う、ざわめきの中で。
 ヨルは再び、小さな一歩を踏み出すことになった。


複雑な気持ちを抱えたまま、見知らぬ土地での新しい生活が始まります…

今回はここまでです。最後までお読みいただきありがとうございます。
それでは、今日も明日も皆さんにとって良い一日になりますように。

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