ヨル編第19章 弓との再会
前回のお話
皆さんこんにちは!
今回はとても大切な出会いのお話です♪
町での暮らしにも少しずつ慣れはじめた頃――
オジサンに連れられて、ヨルは町のあちこちへ挨拶回りをしていた。
その道の途中で立ち寄ったのが、町外れの小さな道場だった。
木の香りと弓の弦の音が漂うその場所に、ヨルの足はぴたりと止まった。
中では数人の男女が弓を構え、真剣な眼差しで的を狙っている。
矢が放たれるたびに、張り詰めた空気が一瞬だけ震え、
その静けさの中に、ヨルの胸は妙に高鳴っていた。
「やっぱり弓が好きなんだな」
隣でオジサンが苦笑まじりに呟く。
けれどヨルは答えなかった。
その姿に、彼女自身も気づかないほどの集中が宿っていた。

ふと、稽古していた一人の青年がヨルに気づいた。
「君、弓に興味があるのかい?」
突然声をかけられ、ヨルはびくりと肩を震わせた。
「わ、わああ……! ……う、うん」
妙な返事に青年が笑い、道場の空気が少し柔らいだ。
その青年こそ、後にヨルの“師匠”となる人物だった。
もっと話をしたい気持ちはあったが、その日はまだ挨拶回りの途中。
短い言葉を交わしただけで、道場を後にした。
ただ、別れ際に彼が言った一言がヨルの心に残った。
「興味があったら、また来るといい」
その言葉を胸に、数日後の自由時間。
ヨルはひとり、あの道場へ足を運んだ。
けれど、いざ門の前に立つと緊張で足がすくんだ。
声をかけることも出来ず、結局建物の影からこっそり中を覗くことに。
その日、稽古していたのは弓ではなく、剣や体術のようだった。
どうやらこの道場は、武術全般を教える場所らしい。
もしかすると、町を守る兵士の訓練所でもあったのかもしれない。

夢中で見入っているうちに、案の定、すぐに見つかってしまった。
「おや、また来てくれたんだね」
声をかけたのは、あの日の青年だった。
「そんな所にいないで、もっと近くで見学したらどうだい?」
優しく笑うその姿に、ヨルは再び胸を高鳴らせた。
――こうして、ヨルと師匠との縁が静かに始まったのだった。
「君はたしか……」
「ヨルっていうの」
「そうか。僕はこの道場主の息子だ。改めてよろしく」
そう名乗られたはずなのに、どうしてもその名前だけは思い出せない。
きっと“師匠”と呼ぶようになってからは、名前で呼ぶ必要がなくなっていたのだろう。
――あるいは、間違えたくない気持ちが、無意識のうちに記憶の扉を閉ざしているのかもしれない。
「君は武術が好きなのか?」
「ぶじゅつ……?」
その言葉の意味がよく分からなくて、ヨルは首をかしげた。
彼女にとって弓とは、“戦うための道具”ではなく、“憧れの象徴”だったからだ。
「この前も真剣な目で稽古を見ていたし、今日も来てくれたから、てっきり武術に興味があるのかと思ったよ」
「武術というのはよく分からないけど……弓矢は好き」
「そうなんだ。どうして?」
「お父さんや……お世話になった人が弓を使っていて、その姿が、とてもかっこよかったから……」

そう口にした瞬間、ヨルの表情がふっと曇った。
思い出したのだ――遠い日の父の背中、兄の笑顔、そして、もういない“家族”の姿を。
彼女の俯いた肩を見て、青年は小さく呟いた。
「……お父さん、か」
その声には、どこか優しい憐れみが滲んでいた。
どうやら彼は、ヨルの家族が山賊に殺されたと勘違いしているらしい。
無理もない。町では山賊の一味が捕らえられたことが大きな話題になっていて、
“攫われていた少女”としてヨルのことを知る人も多かったからだ。
「賊に襲われた」という部分だけは、確かに真実だ。
けれど、その“賊”彼らでは無くて、例の山賊の一味は彼女にとって“家族”であったことを、
この町で知る者はオジサンを除いて誰ひとりとしていなかった。
弓への憧れが再燃して……!
今回はここまでです。最後までお読みいただきありがとうございます。
それでは、今日も明日も皆さんにとって良い一日になりますように♪
