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ヨル編第13章 命を射るという事

前回のお話

皆さんこんにちは!
今回は1つ大きな教訓を学ぶことになります…。


 復讐の話をした夜のことは、そのまま有耶無耶になった。結局、力をつけるにも時間がかかるし、敵の顔すらわからない。何より、仇を討てたとしても――その先の自分がどうなるのか、考えたくなかった。
(……もし討てたら、もう生きてる意味なんてないかもしれない)
 思わず口にしたその言葉に、男たちの顔が一斉に険しくなった。「相打ちになっても構わないなんて、二度とそんなこと言うな!」とお頭が怒鳴り、他の者たちも次々と諭す。
 山賊のくせに、言うことは妙にまっとうだ。ヨルは唇を尖らせながらも、内心では少しだけ温かいものが広がっていくのを感じていた。(ほんと、みんなずるい……)

 それでも、気持ちは消えなかった。
 せめて強くなりたい。いつかのために。そう思ったヨルは、弓を扱う男――弓の兄さんに弟子入りを願い出た。けれど、お頭は即座に首を振る。「もし仇を討つために弓を学ぶつもりなら、教えさせるわけにはいかねえ」
「なんでよ!」
「せっかく拾った命だ。わざわざ散らすことはねえだろ。もうちっと自分のことを大事にしろ」
 不服だったが、怒るというより心配してくれているのが伝わってきて、余計に何も言い返せなかった。気づけば、彼らの言葉にはどこか“家族”のような温度がある。

 翌日、弓の兄さんと一緒に外へ出ることになった。禁止令が出ていたはずなのに、なぜか「ついてこい」と言われたのだ。どうやら完全に諦めきれなかったヨルを見かねて、少しだけ教えてくれることにしたらしい。
 森の奥、風が通る音だけが響く中で、兄さんは静かに弓を構えた。気配を殺し、指先の力を研ぎ澄ませ、矢を放つ。
 ――シュッ。
 放たれた矢が獲物の身体を貫いた瞬間、ヨルの心臓が跳ねた。倒れる音。血の匂い。目の前で命が終わる、その現実。

 兄さんは振り向かずに言った。
「これが命を絶つということだ。俺たちは生きるために、これをやっている。……ヨル、お前が弓を学びたいって言うなら、その意味をよく考えろ」

 その言葉は静かに胸に落ちた。
 復讐のため――そう思っていたはずなのに、実際に命が失われる瞬間を見たら、胸の奥がひどくざわついた。
(これが……命を奪うってこと……)
 ヨルはその日、初めて“強くなる”という言葉の重さを知った。

 弓の兄さんの一挙一動を見ていると、ヨルはふと気づいた。これまで自分が「弓」というものをどれだけ表面的にしか見てこなかったか、そしてお父さんが弓を構えていたときにどんな気持ちでいたのかを、深く考えたことがなかったのだと。

 「お嬢のお父さんも弓を使っていたのか?」と兄さんがぽつりと訊ねると、ヨルは小さく頷いた。「うん……弓を構えるお父さんはとってもかっこよくて、あの姿は忘れられないんだ」と、思い出は胸の奥であたたかく痛んだ。

 あの矢が飛ぶ瞬間、兄さんの動きは凛としていて、確かに──美しかった。だが、その美しさの裏には、命と向き合う覚悟が存在することも、ヨルは初めて理解した。獲物が倒れるその瞬間を目の当たりにした時、胸の奥が凍りつくような感覚が走った。血の匂い、絶えゆく息遣い、そして確かな終焉。これが「命を絶つ」ということなのだと、文字通り体で知る。

 兄さんは淡々と説明した。「これが命を終わらせるってことだ。俺達は生きるためにやっている。弓を習いたいなら、その重さも分からなきゃいけない」と。そして、狩猟とは別の意味で、弓の扱いが倫理と責任を伴うことを諭した。

 ヨルの心に、かつてないほどの葛藤が湧き上がる。怒りや憎しみは消えていない。家族を奪った者たちを前にして、(この手でやり返したい)という思いは鮮烈だ。だが同時に、目の前で命が終わる様を目撃したことで、単純だった「復讐」の像がほろりと崩れていった。もし自分が誰かを――たとえ仇であっても――この手で終わらせたら、その重みをどう背負えばいいのだろう。

 夕餉の時、獲物の解体を手伝いながらヨルは考えた。皮を剥ぎ、肉を切り分ける手が震える。作業は生計の一部だが、同時に修羅場であり、教育の場でもある。兄さんは無言で手を添え、段取りを教えた。それは「やり方」というよりも、「命を尊ぶ所作」を身につけさせるための所作だった。

 その夜、ヨルは自分が抱いていた単純な復讐観がいかに浅かったかを自覚する。復讐は確かに怒りの出口になりうるが、同時に新たな連鎖を生む。ここで仇を討てればすべてが片付くかもしれないという甘い幻想は、目の前で命の終わりを見たことで色褪せていった。結局、物理的な力だけで成し遂げる復讐が、現実的に達成可能かと問えば──多分違う。

 (復讐したい。だけど、どうやって? 私がその代償に耐えられるの?)
 問いは重く、答えは見えなかった。しかし、その重さを知ったこと自体が、ヨルにとっては大きな一歩だった。復讐を抱いたまま、少しずつ生きる術を学んでいく――それが今の彼女の選んだ道のように思えた。


これが復讐心に向き合う大きなきっかけとなった出来事です…!

今回はここまでです。最後までお読みいただき有り難うございます。
それでは、今日も明日も皆さんにとって良い1日になりますように。

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