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冬の真夜中に食べるストロベリーアイス

「あたしね、こういうのやってみたかったの。夜中にいきなり『今から行ってもいい?』ってメールして、女子会するの」

先輩は満足げにそう言うと、長い黒髪をかき上げた。それは吐く息が白くなりはじめたころの出来事。

先輩は21で、わたしは19歳だった。
実のところ、先輩とは特に仲が良いわけじゃなかった。かなりタイプが違った。地味なわたしと、猫目が印象的な美人の先輩は、中身も真逆だった。

わたしは先輩といっしょにいると、きつめの物言いの端々に、萎縮してしまうことがあった。逆に先輩のほうも、わたしのおどおどした態度に苛立ちを覚えている感じがあった。
そんなわけで、わたしたちは知り合ってから一年近くなるというのに、これまで、2人で会うことはなかったのだ。

あの肌寒い夜は、先輩とわたしの距離が、もっとも縮まった、最初で最後の日だったのだと思う。

手みやげはハーゲンダッツのストロベリー味がふたつ。そうして先輩は冒頭の台詞をこぼした。
ああ、こういうのってなんかスマートだなあと感心した。


13.5畳と学生にしては広めだったわたしの家には、いろいろな人が泊まりに来た。

日焼けした純情なギャルだったり、芯の強い色白なお嬢様だったり、センスの良いサブカル好きな眼鏡女子だったり……。いっしょに料理を作ることもあれば、もてなすこともあった。作ってもらうこともあった。

だいたい夕方に家に来て、次の日の夕方に帰っていく。
そんな友人が多い中で、先輩の滞在時間は最短記録だった。泊まっていくわけでもなく、深夜に1時間くらい話をして、自転車に乗って帰っていったのだ。

その夜、何を話したのかは全然覚えていない。先輩の話を、ただ頷きながら聞いていたはずなのに。びっくりするくらい、ほんとうに何も。
選ばれた二人女子会の場が、なぜわたしのところだったのかもわからない。

いま考えると、就活で疲れていたのかななんて思ったりもする。滞在が短かったのは、わたしといるのがつまらなかったからかなとも思ったけれど、本当のところはわからない。


その後、先輩とは一度も会っていない。地元に帰ったと風の噂で聞いた。今どうしているかも、もちろん知らない。

でも、あの真夜中のシーンは、わたしのなかの「特別な思い出フォルダ」に今も収まっている。


* * * * *


いやな記憶は言葉にしなくてもずっと残る。
だから、日常に溶けてしまった小さなきらめきを掬いあげていきたいと思っている。


* * * * *







後書き

長くなりがちなので”1000文字縛りのプチエッセイ”を書いてみようと思い立った。本文はぴったり1000字にできた。気持ちいい。文字数を微調整して文章を磨いていく作業が好きだ。

最近、夜の過ごし方について考えることが多い。
これまでは子どもの添い寝が当たり前だったけれど、それが少しずつ変わってきたからだと思う。

いまの自分と対極な存在として、呼び出されたらどこでも飛んで行けて、深夜でも来ていいよと言えた19歳の冬が思い浮かんだのだった。
自由で、けれども寂しかったあの頃。どんなときでも”完ぺきな時間”というものはないのかもしれない。

だからこそ、一瞬一瞬を切り取って、アルバムみたいなエッセイを書いてみたいと思ったのだった。

寒い日にハーゲンダッツのいちご味を食べたくなるのは、きっと、先輩のせいだ。



追伸、
あなたの思い出に残っている”友だちと過ごした夜”を教えてもらえたらうれしいです。


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三條 凛花 最後までお読みいただき、ありがとうございます♡