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3年n組、今日の授業は連絡網です。

※このおはなしは、”大人が童心にかえりつつ、本気で自由に遊ぶ取り組み『乃音小学校』シリーズ”のひとつです。
※わたしのほうでの参加受け付けは締め切っています。他のクラスに入ってもらったり、仲の良いメンバーで新しいクラスや分校をつくるのは大歓迎です。


▼こちらを読まないとなんのはなしかわからないものになっています。



その日、今年はじめての蝶を見た──。


ロッカーの中には、ランドセルがふたつだけ。
がらんとした教室で、lionくんとわたしは、学級新聞の編集作業をしていた。
机の上にちらちらと揺れる日の光が眩しい。赤いカーディガンを脱いで、椅子の背もたれにかけた。


これまで彼ひとりで作り上げてきたという学級新聞は、すっかり手慣れた様子で、ボリュームたっぷり。
わたしが書いたものも合わせると一枚には収まりそうになかった。




「みんなの集めてZINEにしたらどうかな」

休み時間、思わずそうこぼしたあと、はっとして口を押さえる。
こういうアイディアをはなしたって……。
きっと、迷惑なだけだろう。


ところが、思っていた反応とちがった。

「題字書こうか」
「占いコーナーつくりたい!」
「ポケモン絵しりとりを……」

次々に肯定の声が上がる。

クラスのみんなが手をあげてくれて、自然と文章が集まっていった。


みゅみゅが短歌を披露してくれる。
題字は字が得意なひかりちゃん。
ディエムくんのおすすめ曲紹介コーナーもある。

これまでと同じでモノクロなのに。みんなからの”寄稿”が集まれば集まるほど色がついていく感じがあって、わくわくした。


集まってきたものを、ああでもない、こうでもないと並べ替えたりレイアウトを考えたり。
こうして放課後にlionくんとする編集会議がたのしい。


前の学校でも新聞係をしていた。
でも。

「凛花ちゃん作文得意なんだからひとりでできるよね?」
「そのほうがきっと早いよ」

同じ係の子たちは、そういうと連れ立って帰ってしまったのだった。

「こういう企画をやってみないか」というアイディアを出したのが、いけなかったのかもしれない。


実際、そういうストレスにさらされながらやるよりは、ひとりでやるほうがずっと楽だった。
早く終わった。


こんなふうにひとりじゃなく、みんなでつくりあげていく。思っていたより大変だ。でも、楽しかった。

だれかのアイディアから、また新しいひらめきが生まれる。
そこからまた面白くなる。連鎖していく。

同じ時間を過ごしている感じもたのしい。


窓の外を蝶がひらり。横切った。

「今年初めて見た蝶の色が明るい色だったら、良い年になるらしいですよ」

lionくんがいう。レモンイエローの、蝶。




ここでは誰も否定しない。
やりたいことを、それぞれが自由にやる。
今はむりって思ったらやらなくてもいい。
興味があったらまたつながる。
そんな、ゆるい感じが心地よくて。

ああ、こんな日々がずっと続けばいいな。




そう思っていた。




それなのに……。






小西先生が長い休みをとった。
「スペインのアリカンテ通り🔎」へ旅行したいというのだ。

「駄菓子菓子、5月にはもどってくるから」

そう言われたけれど、嫌な予感がした。




そしてそれは当たった。




先生の不在のあいだ。
新学期に。代わりにやってきたのは、



──皆月みなづき先生だった。



(どうしてここに……)


教頭先生が、皆月先生を紹介する。

あの真っ黒な目を見てしまったわたしは硬直した。
先生はわたしを見とめると、赤いくちびるを三日月型に歪めた。



わたしの事情は、だれも、知らない。
クラスのみんなは興味津々といった感じで先生を眺めるばかり。


「凛花さん、ちょっと」

4時間目の授業が終わったところで、先生が言った。
動けずにいると、先生は眉根を寄せた。

目をぎゅっとつむって立ち上がる。
すると、そっと手が添えられた。


「……わたしも一緒に行こうか?」

みゅみゅが言った。心配そうに瞳が揺れていて。
胸のなかに温かいものが広がっていく。

なんとかへにゃりと笑みのかたちを作り、首を振る。大丈夫。もうあのころのわたしじゃない。

わたしは立ち上がった。
そうして先生の目をまっすぐに見て言った。




なんのはなしですか?



皆月先生は、目を見開いた。
困惑した様子で、口をぱくぱくとしている。金魚みたいに。

わたしが彼女をまっすぐ見たのは、きっと、はじめてだった。


「いいから、早くなさい」

「ここでは言えないはなしですか? できないことですか?」

「凛花さん」

「たとえば、わたしを、音楽室に閉じ込めたり」

「……っ、凛花さん!!!!!」


先生がヒステリックに高い声をあげた。
ざわめきが広がる。


こわい。皆月先生が、ヒールをカツカツと鳴らしながら歩いてくる。目をさんかくに吊り上げて。肩を怒らせて。尖った爪が自分のほうに近づいてきて。

ごくりと息を飲む。


周りのみんなが、目配せして、壁になるように立ち上がってくれた。
マイトンくんが教室の後ろから走り出ていく。



「……だ、だまりません」

「あなたね……」

「わたしを、閉じ込めて。そうして、ずっと、ずっとひとりで、作文を……」



喉が熱くなった。
視界もまっしろに曇って。


最後まで言えなかった。


すのうちゃんが走ってくる。
先生からわたしを隠すように抱きしめてくれた。



マイトンくんと教頭先生が駆け込んできた。
皆月先生の顔に、一瞬焦りが浮かんだ。それから柔和なかおをつくり、すっかり良い人のふうを装った。

「凛花さん、前の学校でいじめられていたんです。だから、なにかフラッシュバックするものがあったのでしょう……。すみません。私がきっかけになってしまったようで」



ちがう。うそだ。
ちがうのに。



翌朝学校につくと、教室の後ろに貼られた、クラスのキャッチコピーがなくなっていた。

日に焼けた跡だけが残る壁を見て、わたしは、しゃがみこんでしまった。



皆月先生は自由な表現を禁じた。

絵はかならず正しい配色で。なるべく写実的に。

文字はとめ・はね・はらいを徹底的にすること。崩すなんてもってのほか。

文章はなによりも正しい語法が優先される。面白い、感動する、あるいは役に立つ内容であること。くだらないことは許さない。

AIの使用も徹底禁止。


「先生が前にいた学校でね、絵本コンテストの文章で賞をとった子がいたのよ。でも彼女、文章をすべてAIに書かせていたから失格になったわ」

先生は、爪をいじりながら興味ないふうに言った。
ああ、真菜香のことか。だから先生はここに来たのだ。納得した。

いろんな新聞に載っていた「生徒を何度も受賞に導いた指導力」というキャッチフレーズが、脳裏によみがえった。
先生はただ、褒められ続けたいだけなのだ。だれかに構ってほしいだけなんだ。


「AIは書く以外にもいろんなことができますよ。これからは、うまく付き合っていくべき時代です」

レジェンドくんがそう抗議する。

「一律禁止です。AIはだめ。はなしはこれで終わり」

先生は面倒そうに一蹴し、手をパンと大きく打った。




作りかけの学級新聞、いや、ZINEは、ごみ箱に捨てられていた。
みんなで作ったのに。
これからたのしいことをたくさんしようと思っていたのに。

なんで、このタイミングで──。



帰るころには、すっかり日が暮れていた。

山の上は昼間よりぐっと冷え込んでいる。
もうすっかり暖かくなったと思って油断していたわたしは、マフラーも持ってきていなくて、下から吹き上げてくる冷たい風が直接喉を刺し、咳き込んだ。


薄闇のなかに、ぼんやりと「R」の文字が浮かび上がる。

あれは、ランドセル? 背面に大きな刺繍がされている。ああ、蓄光されているのだろう。



「アルロンくん……」

声をかけようとした、そのときだった。

彼は木の根につまずいた。ごろごろと坂道を転がっていき、枯れ葉が舞い上がる。
反射的に駆け出していた。


アルロンくんは、大きな木にぶつかって止まったらしかった。

「怪我は?」

慌てて確認するものの、どこからも血は出ていない。
かすり傷もない。

留め具をつけ忘れていたのだろうか。あたり一面に、ランドセルの中身がばらばら散らばっているだけだった。

とりあえず、落ちたプリントや教科書を拾っていく。


「これ……」

泥まみれの、自主勉強ノート。

表紙にはポケモンの絵が描かれている。
「No.3」と書かれたそれは、最後のページまで、美しい字で埋められていた。

(使い切ったノート、なんで持ってきてるんだろう)



計算や漢字の復習だけじゃない。
最後のページには、アルロンくんの自作小説が書かれていた。


赤字でこんなことが書かれていた。

「R、これなんのはなしですか?笑 でも、好きです。めちゃくちゃいいです」

小西先生の字だ。



「ねえ、アルロンくん。いっしょに戦わない?」

わたしはじゅわりと滲み出す涙を、手の甲で乱暴にごしごしこすりながら訊いた。

次の日、アルロンくんから男子へ。
わたしから女子へ。

手紙をこっそりと回した。





3年n組のみんなへ。
新聞係の凛花です。きょうはみんなに招待状をつくりました。戦いへの招待状です。表現の自由を勝ち取る戦いです。

戦いといっても、物騒なことはしません。楽しむんです。面白いことをするんです。小西先生がいない今、わたしたちでなんとかするしかありません。

学校には女帝がいるので、はなしあいができません。クラスのグループLINEをつくりました。もし、いっしょにやりたいよって人がいたら入ってください。おうちの人に相談してね。

みんなで考えませんか。
どうしたら、おもしろくなるのかを。
たくさん考えて、動けるものは体当たりで動いて。そうして変えませんか。


わたしはまだ、転校してきて日が浅いです。
みんなのこともまだ知らないことばかりで、これから仲良くなれると思ってました。だから、まずみんなのことを教えてほしい。



メモ。連絡網のつかいかた


連絡網を使いたい人は、凛花のXまでDMをしてね。
皆月先生が入れないように、n組のメンバーだけが入れる定員になってるよ。ひみつの言葉もあるからね。


使うのはいつものLINEで大丈夫。

なまえとアイコンは自分で決められます。



この画面は「トーク」画面っていうよ。

リアルタイムでおしゃべりするときに向いてる。

まずお願いしたいのは、3つ確認してもらうこと。
トーク画面上の[三]マークを押してね。

「ノート」を選ぶよ。

「トーク」画面だと、はなしたことが流れちゃう。
「ノート」は、大事なことをまとめる場所なの。

とりあえずわたしは3つ作ったよ。
これを見て、できるものはやってみてほしいんだ。


①「このLINEのつかいかた」

最初に読んでね! やってみてたまに更新するかも。

大事なことをまとめたよ



②「プロフィール帳の回収場所」

前に渡したプロフィール帳。
みんなで見られるようにしたよ!



③「学生証」

ふきだしマークをタップして。


こんなふうにコメント欄に投稿してね!


ノートは自由に作っていいよ。
思いついたことをはなしたり、
時間を決めて集まる場所にしたりしよう。

でも、コメントしても通知が来ないから気をつけてね。
知らせたいときは「トーク」画面にスタンプを押して。



ようこそn組の"巣"へ!




(4,500字)




CAST


lionくん/lionさん

ひかりちゃん/ひかりさん

みゅみゅ/亜麻布みゆさん

小西先生/コニシ木の子さん

レジェくん/レジェンドさん

すのうちゃん/本田すのうさん

マイトンくん/マイトンさん

ディエムくん/C.ディエムさん

R/アルロンさん



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三條 凛花 最後までお読みいただき、ありがとうございます♡