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見失われた設計原理を問い直す―「10万人プロジェクト」はなぜ今、再び参照されるべきなのか―

今から3年前、2023年1月号『理学療法』の特集「わが国の理学療法のこれからを展望するⅠ」を手に取ったときの衝撃を、今でもはっきり覚えています。とくに藤原孝之先生の論考は深く心に残り、いま読み返してもその熱量が伝わってきます。

この特集には、「わが国の理学療法士養成に関する現状分析」「医療・福祉制度改革を通してみた日本理学療法士協会の課題と役割」「理学療法総合政策研究所に求められるもの」など、“理学療法士10万人プロジェクト”の報告書、というもの基づく内容が含まれていました。当時、この報告書の存在を知らなかった私は、ぜひ読んでみたいと強く思ったのです。そして今まさに、この報告書に立ち返ることが必要なのではないかと感じています。


1.統括調整室の設置が意味するもの

2026年5月、厚生労働省に「リハビリテーション統括調整室」が新設されました。この動きは、単なる組織改編にとどまらず、医療・介護・障害福祉・予防といった複数制度に分散してきたリハビリテーション機能を、国家レベルで再編・再配置しようとする意思の表れと捉えることができます。つまり今後は、どの機能をどこに配置し、どの専門職に担わせるのかという「選択と集中」が、より明確に進められていく可能性が高いと考えられます。

2.専門職に求められる「役割の明確化」

このような状況において、理学療法士という専門職には、「何を担うのか」という役割の明確化がこれまで以上に求められることになります。その文脈の中で、日本理学療法士協会が提示した「2040年ロードマップ」は、完成度の高い戦略文書として位置づけられています。社会構造の変化を見据え、医療から予防、施設から地域へと活動領域を拡張し、理学療法士の未来像を体系的に描いている点において、その意義は大きいと思われます。

3.2040年ロードマップの到達点と限界

しかし同時に、このロードマップだけでは十分に補えない視点が存在するのではないか、という疑問も生じます。すなわち、「どこに向かうか」は示されているが、「どのように選ばれるのか」という論理は必ずしも明確ではありません。どの領域に関与するのかという方向性は提示されているものの、その関与がどの程度の成果を生み出し、制度の中でどのような優先順位を与えられるのかという点については、十分に具体化されているとようではありません。

4.参照されない重要資料の存在

ここで想起されるのが、「理学療法10万人プロジェクト報告書」です。もっとも、この報告書は現在、容易に参照できる状態にはないようです。少なくとも筆者自身は現物を確認できておらず、その内容は『理学療法』(2023年1月号)に掲載された藤原氏の報告を通じて間接的に知るにとどまっています。その中で藤原氏は、「報告書の全ての内容はPDF化して当時委員長であった筆者が保管しているが、協会は歴史的資料として永久保存するべきである」と述べています。この記述は、当該資料が協会の公式な知的資産として十分に継承されていない可能性を示唆しています。

5.制度改革期における「行動の設計」

しかし、その位置づけは決して簡易なものではありません。むしろ制度改革期において、理学療法士がどのように政策形成に関与し、自らの役割を制度の中に位置づけていくのかという、「行動の設計」を体系的に示した点において、極めて重要な文書であったと考えられます。そこでは、エビデンスの構築、人材供給、教育体制、さらには職能の境界といった要素が、制度との関係性の中で整理されていました。

6.ロードマップとの構造的関係

この点に着目すると、2040年ロードマップ10万人プロジェクトの関係は単なる時系列的な前後関係ではなく、異なる機能を持つ二層構造として理解することができそうです。つまり前者が「未来の方向性」を示す羅針盤であるのに対し、後者は「制度に採用されるための設計原理」を提示するものであったのではないでしょうか。

7.現在進行する「選別」の局面

そして現在、リハビリテーション統括調整室の設置によって顕在化しているのは、まさにこの「採用されるかどうか」という問題です。限られた資源の中で、どの機能が社会的に有効であり、どの専門職がその担い手として適切であるのかが、政策的に選別される局面に入りつつあります。その際に求められるのは理念ではなく、「どの程度の効果を生み出すのか」「どのような形で再現可能なのか」という具体的かつ検証可能な根拠であるのは間違いないのではないでしょうか。

8.求められるのは理念ではなく根拠

この観点から見れば、10万人プロジェクトは単なる過去の記録ではありえません。それは、理学療法士が制度の中でどのように位置づけられるかを考えるための、極めて実践的な思考枠組みを内包していた可能性があるからです。にもかかわらず、その内容が十分に継承されていないとすれば、現在の戦略は「方向性」を持ちながらも、「選ばれるための構造」を欠いた状態にあるとも言えると思います。

9.過去ではなく「思考の再利用」

したがって今、必要なのは、この報告書を単なる歴史資料として扱うのではなく、その内在する論理を再評価することではないでしょうか。つまり、理学療法士がどのような根拠によって制度に採用され得るのか、どのようなアウトカムを提示すれば社会的に不可欠な存在として認識されるのかという問いに対し、過去にどのような思考がなされていたのかを改めて吟味する必要があるのではないでしょうか。

10.「選ばれる設計原理」としての再定位

結局のところ、2040年ロードマップが示す未来を実現できるかどうかは、「どこに向かうか」だけでなく、「その過程で選ばれ続けることができるか」にかかっていると思われます。そしてそのための手がかりは、未来の中にではなく、むしろ一度見失われた過去の中に残されているのかもしれないと思えます。

そう考えるとき、10万人プロジェクトはもはや過去の遺物ではない可能性を感じます。それは、現在進行している制度再編の中で、理学療法士がいかにして位置づけられるのかを考えるための、

「選ばれるための設計原理」そのもの

として、改めて参照されるべき段階に来ているのではないでしょうか。
もし、これを読んでいただいて、何かを知っていたり、関与していたり、何らかの情報があった際には、是非教えて頂きたいです。

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