厚労省「リハビリテーション統括調整室設置の意味」― 分散から再編へ、日本の理学療法士の役割再定義の契機 ―
1.統括調整室設置の構造的意味
2026年5月、日本の厚生労働省に「リハビリテーション統括調整室」という新しい部門が設置されました。私は、これは日本のリハビリテーション制度において非常に重要な動きであると感じています。
日本では、「統括」や「調整」を担う新しい行政部門が設置される場合、従来の縦割り構造だけでは対応が難しい課題が表面化してきたことを意味する場合が多いように思われます。
実際、日本のリハビリテーションは、医療、介護、障害福祉、予防といった複数の制度に分散しています。また、理学療法士も、それぞれの制度の中で異なる役割を担いながら発展してきました。その結果、専門職としての役割や価値が、制度ごとに分散しやすい構造を持っているように感じます。
そのため、今回の「リハビリテーション統括調整室」の設置は、単なる組織追加ではなく、分散してきた制度や専門職の役割を再整理・再構成する必要性が高まっていることの表れとして理解することができます。
つまり現在の日本では、リハビリテーションを取り巻く制度と専門職の関係そのものが、大きく再編されようとしている段階に入っているのではないか、と私は考えています。
2.分散してきたリハビリテーションの再編
従来、リハビリテーションは医療・介護・障害福祉・予防といった複数の領域に分散しており、それぞれ異なる制度と目的のもとで運用されてきました。この統括機能の設置は、それらを横断的に整理し直す必要性が国レベルで顕在化したことを示しているのではないでしょうか。
この動きは、これまで議論してきた理学療法士の構造的問題と深く関係しています。すなわち、理学療法士は制度・教育・経済の複合的作用によって拡大してきた職種であり、その役割は制度の中で規定されてきました。その結果、専門職としての自己定義よりも制度適応が先行し、領域の拡大とともに役割の曖昧さが生じている現状があるのだと思います。
3.国家戦略としての再配置と方向性
今回の統括調整室の設置は、この「分散したリハビリテーションの再編」を意味すると同時に、理学療法士を含む専門職の役割を国家戦略の中で再配置する動きと捉えることができるのだとすれば、今後、理学療法士はどのような価値をもってその再配置の中に位置づけられるのかが、根本的な問いとして浮上することになります。
特に今後は、治療中心から予防・機能維持へと重心が移行し、人口減少社会における社会保障の持続性に資する存在として位置づけられる可能性が高いと思われます。

4.機会とリスクの同時発生
しかしこの再編は、機会とリスクを同時に含んでいると考えます。一方では、活躍領域の拡大や社会的役割の明確化という期待があります。他方で、制度目的への適合が優先されることで、理学療法士固有の専門性が相対的に希薄化する危険性も否定できません。すなわち「何をする専門職なのか」が外部によって定義され続ける可能性があるように思えます。
5.専門職としての主体性の回復
厚生労働大臣の答弁において、「理学療法士及び作業療法士法が制定されてから長期間が経過し、その間に状況が大きく変化している」との認識が示された上で、「予防医療への貢献も期待されることから、リハビリテーション専門職の位置づけや役割を踏まえた制度的見直しの可能性を検討する」とされました。この発言は、単なる将来展望ではなく、制度と現実との乖離を前提とした再調整の必要性を、政策レベルで公式に認めたものと位置づけることができるのではないでしょうか。
すなわち現在は、制度が職種に追いつかなくなり、制度側が調整に入り始めた状態にあるといえそうです。これまで理学療法士は、制度の枠組みの中で役割を与えられ、その適応の中で専門性を形成してきました。しかし、予防・機能維持への重心移行や社会保障構造の変化により、従来の制度設計ではその実態を十分に規定できなくなりつつあります。その結果として制度の側が職種の在り方に対して再定義を試みる局面に入っているのだと思います。
したがって今後重要となるのは、理学療法士自身が「何を対象とし、どのような価値を提供する専門職であるのか」を言語化し、主体的に提示できるかだと考えられます。制度の再編が進む現在は、未完であった専門職形成を補完する機会でもあります。この変化に対して受動的に適応するのか、あるいは自ら価値を定義し直すのかが、今後の理学療法士の方向性を大きく左右すると考えられます。
6.追加)選別の時間軸としての「3〜5年」
このような状況を踏まえると、現在は単なる移行期ではなく、より明確に言えば「選別の初期段階」に入っていると理解する必要がありそうです。統括調整室の設置によって、分散していたリハビリテーションの機能が横断的に整理される中で、行政は限られた資源をどこに配分すべきかを判断しなければならないと思われます。その際に求められるのは理念ではなく、「実際にどの程度の効果を生み出し、社会的コストの抑制や生活機能の維持に寄与するのか」という具体的かつ再現可能な根拠だと思います。
重要なのは、この判断が長期的に先送りされるものではなさそう、という点です。制度の再編は、検討、試行、制度化という段階を経て進むようですが、すでに検討段階に入っている以上、次に求められるのは実証可能な材料ではないでしょうか。したがって、今後数年のうちに提示されるデータや実践の蓄積(注1)が、その後の制度設計に直接的な影響を与える可能性が高いと思われます。
この時間軸については、私にはその時間感覚が無いのでchatGPTに尋ねると「例えば3〜5年程度が一つの区切りとなる可能性がある」と出力されました。この期間は、理学療法士という専門職がどのような役割を担うのかが実質的に選ばれていく過程に相当すると考えられるます。ただしこれは確定したものではなく、あくまで仮説的な時間感覚にすぎません。
だからこそ重要なのは、このような時間軸の中で、ここ数年間に生じる制度の動きや実践の変化を丁寧に見届けることだと思います。その過程で、機能維持や予防といった領域に対してどの程度具体的な価値を示せるかが、制度内での位置づけに影響していく可能性があります。すなわち現在は、将来の結果を待つのではなく、変化が進行していく数年間をいかに捉え、関与していくかが問われている局面であると言えそうです。
注1)データや実践の蓄積に関して
現在は、”既存の”大きなモデルが現場レベルで実装され、その有効性が検証されていく過程にあると同時に、それらの中から制度として採用されるモデルが選別されていく段階にあるといえそうです。chatGPTによれば、『単なる検証の期間ではなく、実践と評価が並行しながら、社会的に採用される枠組みが絞り込まれていく局面である。この構造においては、検証に参加し、具体的な成果や再現可能な価値を提示できるモデルのみが制度化の対象となり得る。逆に言えば、検証のプロセスに関与していないモデルは、その有効性が評価される機会すら持たないまま、制度設計の初期段階から除外される可能性が高い』と返答しています。したがって現在は、どのモデルが優れているかを後から競う段階ではなく、そもそも比較の土俵に立てるかどうかが問われている時期とも言えそうです。
