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『棚経の夜』〜お盆特別版②〜

──お盆の中日だったんですよ……えぇ……
親戚が集まってね、お寺の住職さんが棚経をあげに来る夜でした。

その家……昔からの造りで、長い廊下がね、奥までスーッと続いてるんです。
板張りの廊下は古くて、歩くとミシ……ミシ……って鳴る。
窓からは、夜の湿った空気が入り込んできて……ほら、夏の夜って独特な匂いがあるでしょう……えぇ……ちょっと土の匂いが混じったような。

私はね、住職の読経を遠くに聞きながら、その廊下の端っこに腰を下ろして涼んでたんです。
提灯の光が届かない……廊下の奥は真っ暗で……自分のいる場所だけ、仄かに蝋燭の明かりが照らしてました。

……と、そのとき。

ペタ……ペタ……って、裸足の足音がしたんです。
最初は、親戚の子どもが遊びに来たのかな、って思ったんですよ。
でもね……その足音……音が近づいてくるのに、姿が見えない。

廊下の奥、障子の向こうがぼんやり明るくなって……そこに……濡れた髪の女が立ってるんです。
着物はね……ぐっしょりと水を吸って、裾からポタ……ポタ……って床にしずくが落ちてる。
その水の跡が……足音と同じリズムで、こっちに向かって伸びてくるんですよ……えぇ……

顔がね……上がった瞬間、にやぁ……って笑ったんです。
その笑顔が、まるで……獲物を見つけた時みたいで……

その瞬間、仏間の蝋燭が一斉に揺れて、読経の声がピタッ……と止まりました。
「……そこから、見てはいけない」
背後から声がして、振り返ったら……住職が立っていたんです。

もう一度前を見たら……誰もいない。
廊下の床は乾いていて……さっきまでの水の跡も消えてました。

後で住職に尋ねたら、
「……たまにね……棚経についてくる方がいるんですよ。成仏できなくて……まだ家を探してる人が」
そう言われて……背中がゾッとしましたよ……えぇ……



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