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『迎え火の影』〜お盆特別版①〜

──あのね……お盆の初日だったんですよ……えぇ……
母の実家に帰った夜のことなんですけどね。

そこ、山あいの古い集落でね……
夜になると、もう真っ暗なんですよ。
街灯なんて、ポツンと1本あるかないか……
縁側から見えるのは、小さな庭と畑、それから……山の黒い影だけなんです。

その夜……盆提灯がね……ゆら〜……ゆら〜……って、オレンジ色の灯りを揺らしてる。
蚊取り線香のね、あの独特な……ちょっと甘くて焦げた匂いが、ふわっと鼻をくすぐるんです。
カラン……カラン……って、軒先の風鈴が……湿った夜風に揺れて……えぇ……

私、縁側に腰かけて……足をぶらぶらさせながら、のんびりしてたんですけどね……
……そのときなんですよ。

庭先の暗がりに……ふぅっ……と、光が浮かんだんです。
最初はね、「あぁ、ホタルかな……」って思ったんですけどね。
でも……違うんですよ……えぇ……
ホタルみたいに小さくない……もっと大きい……手のひらぐらいはある。
しかも、色が……緑でも黄色でもない……
赤と……オレンジが混ざったような……焚き火の火みたいな色なんですよ。

それがね……地面すれすれを、じわ……じわ……と……こっちに近づいてくるんです。
風なんて吹いてないのに……その火だけが……ふるえて揺れてるんですよ……えぇ……

よく見ると……その火の後ろに……黒い影が立ってるんです。
人影……着物のような……でもね、輪郭がぼやけてる。
顔なんか、はっきり見えない……

……それがね……一歩、また一歩と……こっちに寄ってくるたび……
盆提灯の火が……スーッ……と小さくなっていくんですよ……えぇ……

怖くなってね……「誰……?」って声、出しちゃったんです。
そしたら、その影……柱の陰に……スッ……って隠れたんです。

私……怖いもの見たさで……覗いちゃったんですよ。

……そこに……顔だけが……あったんです。
異様に白い……頬はこけて……目は真っ黒に沈んでる。
口がね……ゆっくり開いていくんですよ……
でも……声は出てない。
ただ、口の形がね……「おいで」って言ってるように見えたんです……えぇ……

その瞬間、火が……ふっと消えて……顔も……闇に溶けました。
庭は何事もなかったみたいに静まり返って……
盆提灯だけが……カタカタ……って、揺れてましたよ……えぇ……

後で母に話したらね……
「……昔、この家の近くで火事があって……亡くなった人がいたんだよ」って……
それ以上は、何も言わなかったんです。

あれ……迎え火なんかじゃなかったのかもしれません……
“迎えに来た火”……だったのかもしれませんよ……えぇ……

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