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揺れる心

朝が来たはずなのに、
私の中だけ、夜が終わっていなかった。

カーテンの隙間から光が差し込んでいる。
ちゃんと、朝は来ている。
世界は、何も変わらず回っている。

それなのに——

胸の奥だけが、
重たい水の底に沈んだまま、浮かび上がってこない。



目を開ける。
天井は昨日と同じ色をしている。

でも、身体が動かない。

動かない、というより。
動こうとするたびに、見えない重りが四肢に巻きつく。

起きなきゃ。
起きなきゃいけない。

そう思うほど、
身体は布団の奥へ、奥へと沈んでいく。

まるで心と身体のあいだに、
細い断絶が走ってしまったみたいに。



何もしていないのに、疲れている。

誰にも責められていないのに、
ずっと責められている気がする。

頭の中で、
見えない声が何度も繰り返す。

「まだ、できてない」
「もっとやらなきゃ」
「なんで、こんなことも…」

静かな部屋なのに、
私の内側だけ、責める言葉で満員電車みたいに混み合っている。

逃げ場が、ない。



スマホを開いて、閉じる。
何もする気が起きない。

好きだったものに、手が伸びない。

楽しかった記憶だけが、
ガラス越しの景色みたいに遠い。

「前は、あんなに笑ってたのに」

その事実が、
今の自分を、さらに小さく削っていく。



でも。

本当に、ずっと闇の中だったかというと、
——そうでも、なかった。

ある日。

湯のみを両手で包んだとき、
じんわりと、指先に熱が戻ってきた。

その瞬間、
ほんの一瞬だけ。

「あ…あったかい」

そう思えた。

たった、それだけ。

たった、それだけなのに、
胸の奥の氷に、細いひびが入った気がした。



鬱の中にいると、
回復は、劇的な出来事としては現れない。

雷みたいに、突然元気になる日なんて来ない。

代わりに来るのは、
ほとんど見逃してしまいそうな、小さな変化。
• 少しだけ眠れた夜
• 少しだけ食べられた朝
• 少しだけ外の空気を吸えた瞬間

それは、とても弱い光だ。

でも。

暗闇の中では、
その「弱さ」こそが、確かな灯りになる。



私も、何度も思った。

もう、戻れないんじゃないか。
このままずっと、ここなんじゃないか。

——って。

(あなたも、もしかしたら今、そう思っているかもしれない)

でもね。

心は、壊れた機械みたいに
ある日突然「完全復旧」したりはしない。

代わりに。

凍った湖が、春に向かって
少しずつ、少しずつ、ゆるむみたいに。

本当に、気づかないくらいの速度で、
内側からほどけていく。



もし今、あなたの心が揺れているなら。

無理に立ち直ろうとしなくていい。
元気になろうと、急がなくていい。

今日できた「ほんの少し」を、
どうか、見逃さないでほしい。

起きられた。
呼吸できた。
ここまで、読めた。

それはもう、
暗闇の中で、ちゃんと灯りを拾っている証拠だから。



気づかないうちに。

本当に、気づかないうちに。

あなたの足元には、
もう、うっすらと朝の輪郭が伸び始めている。

完全な光じゃなくていい。

まぶしい希望じゃなくていい。

まずは、
「少しだけ、息がしやすい」

その感覚が戻ってきたら。

——そこが、回復の入口だから。



最後まで、ここまで来たあなたへ。

心は、揺れていい。
揺れるのは、まだ折れていない証だから。

そして。

どんなに長い夜にも、
朝は、ちゃんと順番を守ってやってくる。

ゆっくりでいい。
本当に、ゆっくりでいい。

あなたの心に、
やわらかい光が差し込みますように。 🌅

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