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知りたがり向けへの深掘り解説 夕暮れ前の反比例──『水辺のつつじ』ep.54|よもぎ


この回は、興味を持って読むと見えてくるものがかなり多いです。

表面上は、

「瑞樹とゆうかが再会して初詣に行く話」

ですが、本当のテーマはもっと別のところにあります。


この回のタイトルに注目

「夕暮れ前の反比例」

です。

反比例とは数学で習う、

一方が増えると、もう一方が減る関係

のこと。

例えば、

  • 速く走るほど到着時間は短くなる

  • 人数が増えるほど一人分の取り分は減る

などです。

では、この小説で何が反比例しているのでしょう?

実は、

理屈と感情

です。


瑞樹はずっと理屈で考えている

ゆうかから

今どこにいる?

とメッセージが来る。

普通なら

「会いたいんだな」

で終わる話です。

ところが瑞樹は違う。

推理を始めます。

相手の行動を分析する。

可能性を計算する。

論理を組み立てる。

まるで探偵です。

しかし読者にはわかります。

本当は、

会えてうれしいだけ

なのです。


頭がいい人ほど陥る罠

瑞樹は何でも説明したがります。

でも人間関係って、

説明できないことだらけです。

ゆうかは

「会いたかった」

だけ。

瑞樹は

「論理的に説明しよう」

としている。

だから二人の会話はずっと少しズレています。

このズレが面白い。


「推理」は本当に推理だったのか

瑞樹は得意げに

簡単な推理です

と言います。

でもすぐに自分で否定します。

希望的観測だ

と。

ここが重要です。

人はよく、

「自分は冷静に判断した」

と思っています。

でも実際は、

先に願望があって、

後から理屈をつけていることが多い。

瑞樹はそれに気づき始めています。

つまりこの回は、

自分の心を見抜く話

でもあるのです。


駅伝の看板が意味するもの

多くの読者はここを読み飛ばします。

でも実はこの回の中心です。

看板には

感動をありがとう

と書かれています。

ゆうかは素直に感動しています。

しかし瑞樹は考え込む。

なぜだろう。


瑞樹が引っかかったこと

彼はこう考えます。

もし優勝していたら?

看板は

おめでとう

だったのでは?

つまり

「ありがとう」

は結果に対して言っているのか?

それとも頑張った過程に言っているのか?

という疑問です。

これは人生にもつながります。


成功した人だけ褒めるのか問題

世の中は結果を重視します。

  • 勝った人は褒められる

  • 負けた人は忘れられる

でも本当に価値があるのは、

そこに至る努力や時間かもしれません。

駅伝の看板を見ながら、

瑞樹はそんなことを考えています。

高校生なら見落とすかもしれませんが、

大人になるほど刺さる場面です。


餅の会話が長い理由

実は餅の話にはほとんど意味がありません。

それなのに作者は長く書いています。

なぜか。

二人の関係を見せるためです。

仲の良い人同士は、

重要な話ばかりしません。

むしろ

  • 天気

  • 昨日見たテレビ

みたいな話をします。

つまり餅の話は、

二人が一緒にいること自体が楽しい

という証拠なのです。


ゆうかの「やいてる?」の意味

これはダジャレです。

焼き餅には二つ意味があります。

①焼いたお餅

②嫉妬

ゆうかは両方を重ねています。

つまり、

私に焼き餅焼いてる?

と少しからかっている。

でも恥ずかしいから、

本当のお餅の話へ逃げる。

ここには女の子らしい照れ隠しがあります。


スーツケースの意味

実は地味に重要です。

ゆうかは帰省から戻ってきたばかり。

だからスーツケースを引いている。

つまり、

この日いちばん会いたかった相手の一人が瑞樹だった可能性が高い。

家に帰る前に会いに来ているからです。

作者は直接書きません。

でも読者に想像させています。


「主導権を奪う」の意味

終盤で

スーツケースの持ち手の主導権を奪うことに成功していた

とあります。

簡単に言えば、

瑞樹が代わりに荷物を持った。

ただそれだけです。

でも恋愛小説では大きな意味があります。

今まで受け身だった瑞樹が、

初めて自然に相手を助けている。

少しだけ関係が前進した瞬間です。


最後の「見えない襷」

ここがこの回のゴール。

駅伝では襷を次の走者へ渡します。

でも二人は駅伝選手ではありません。

なのに作者は、

見えない襷をたなびかせながら

と書きました。

これは比喩です。

襷の正体は、

  • 信頼

  • 思い出

  • 約束

  • 好意

  • 一緒に過ごした時間

そういう目に見えないもの。

二人はまだ恋人とは言えません。

でもすでに同じチームになり始めている。

だから最後は、

夕暮れの中を並んで走る場面で終わるのです。


この回の本当のテーマ

知りたがり向けに一言で言うなら、

「人は好きな人の前では理屈より気持ちが先に動く」

という話です。

瑞樹はずっと頭で考えています。

でも最後には、

推理も理論も駅伝の哲学も全部置いて、

ただゆうかの後を追いかけて走ります。

タイトルの「反比例」とは、

理屈が増えるほど素直な気持ちが見えなくなり、

素直な気持ちが強くなるほど理屈が消えていく、

そんな瑞樹自身の心を表しているのかもしれません。

だからこの回は、

「再会の話」であると同時に、

理屈っぽい少年が少しだけ恋心に負ける話

でもあるのです。

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