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「まだ途中の朝マック」

よもぎさんに捧ぐ



「すみません」

後ろから声がした。

振り向くと若い店員。

胸に「研修中」のバッジ。

「少し確認いいですか」

レジの列に並んでいた。

カゴの中には

牛乳。

ネギ。

豆腐。

「その商品……まだお会計されてませんよね」

「今からレジだけど」

店員は言いにくそうに言う。

「防犯カメラで、その……」

万引き。

(ああ)

夕方の光が自動ドアから流れ込み、

床に長く伸びている。

そのとき。

ズッ……

ズッ……

サンダルの音。

パーカーのフードをかぶった女が

少し離れた棚の前で立ち止まった。

こちらを見ている。

……気のせいか。

「少しこちらへ」

店員が言った。

そのとき。

ズッ……

ズッ……

サンダルの音が近づく。

ぼさぼさの髪。

ビーチサンダル。

カゴにはポテトチップスと缶コーヒー。

目が合う。

「……木島?」

三秒。

女が顔を上げる。

「お」

近づいてきて言う。

「久しぶりぶり左衛門」

思わず笑う。

「何それ」

「進化系」

木島は店員を見る。

「どうした」

店員が説明する。

「この方が商品を――」

木島はカゴを見る。

ネギ。

豆腐。

牛乳。

「レジ並んでただけでしょ」

「いえ、防犯カメラで……」

「見てたけど」

店員が止まる。

「ずっとネギ見てた」

「見てない」

沈黙。

店員は小さく頭を下げた。

「失礼しました」

会計を済ませて店を出る。

外は夕方だった。

袋を持ち直す。

そのとき。

木島がポケットから小さな紙を丸めて捨てた。

ちらりと見る。

牛乳

ネギ

豆腐

瑞樹

「久しぶり」

木島が缶コーヒーを開ける。

「二十年くらい?」

「たぶん」

風が少し吹く。

「腹減った」

「マック?」

木島が指をさす。

黄色い看板。

店に入る。

ポテトの匂い。

「ナゲット」

「アップルパイ」

席に座る。

箱が開く。

湯気。

「覚えてる?」

「何」

「プール」

木島が笑う。

「朝五時」

「水着」

「干物」

「高級干物」

少し沈黙。

「二十年ってさ」

「長い」

ナゲットをつまむ。

「なんかさ」

「ん」

「全部やった気がする」

木島はナゲットを食べる。

「でも」

「でも?」

「なんもわかんない」

沈黙。

窓の外を

サクラが一枚流れていく。

木島が言う。

「当たり前」

顔を上げる。

木島が言う。

「まだ途中」

笑う。

「途中か」

立ち上がる。

「競争」

「負けた方が奢り」

外へ出る。

夕方の道路。

「よーい」

「待て」

「スタート!」

二人は走り出す。

サンダルが

ぱたぱた鳴る。

頭に浮かぶ。

朝五時。

プール。

群青の空。

サクラ。

濡れた髪。

「マック行こ」

あの朝も、

こうやって走った。

サクラが一枚、風に流れる。

二人は走る。

まるで、

午前五時のサクラと朝マックへ

向かうみたいに。

そして。

二十メートル走ったところで、

木島が言った。

「待って」

「何」

「サンダル脱げた」

振り向くと、

片足でぴょんぴょん跳ねていた。

二十年前と、

まったく同じだった。

少しして。

瑞樹が言う。

「さっきさ」

「ん?」

「助けた?」

木島は首をかしげた。

「別に」

ポテトを一本くわえる。

「ただの通りすがり」

風が吹いた。

サクラがもう一枚、流れた。

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