《大学教員がひも解く総合型選抜》基礎編 #4 年内入試と学力低下
こんにちは。
大学教員が指導する総合型選抜専門塾「リタック・ユース・アカデミー」(通称:リタアカ)の塾長です。
これまで国内外の大学で教育・研究に携わりながら、高校生向けに総合型選抜・学校推薦型選抜の指導も続けてきました。
これまでに指導した生徒の90%以上が第一志望に合格しています。
これらの経験に基づき、このブログでは大学教員の視点から年内入試を読み解いていきます。
さて、今回は年内入試と学力低下についてのお話しです。
1. 年内入試は学力低下の元凶?
年内入試は「学力低下の元凶だ」と言われることがあります。
学科試験を課さない入試が増えれば、「学力が軽視されるのではないか」という不安が出てくるのも当然です。
ただこの議論には、1つ大きな前提が抜け落ちています。
それは「学力」という言葉が定義されていないまま話が進んでいることです。
2. ハーバード大学の偏差値はどれくらいか
以前生徒から「ハーバード大学の偏差値はいくつですか?」と聞かれたことがありました。
もちろんハーバード大学に入学するのは狭き門ですが、実は日本の大学のような『偏差値』はありません。
だからこの質問をされた時は、ちょっと不思議な感じがしました。
しかし日本の高校生がこういう発想を持つのは、日本特有の学力の定義が原因のように思います。
3. 学力=学習力?
日本で「学力」と言うと、多くの場合、
・他の人が発見した理論や知識を理解する
・それを覚える
・応用する
・その結果、筆記試験で高得点を取る
ということを指しています。
これらは「学習力」と言い換えることができます。
つまり日本語では、学力=学習力の略語として用いられているわけです。
「学習」という言葉には「習う」という字が含まれている通り、既存の知識や理論を教えてもらい、身につけていくという意味合いがあります。
これは過去の記事にも書いてきたように、高校までの教育で求められるものです。
そしてこの学習力は、これもまた「に何度も書いてきましたが、「一般選抜で測定される力」でもあります。
4. 大学で求められる「学力」
ところで、これもこれまでの記事に何度も書いてきたことですが、大学は高校までのように与えられた内容を学ぶ場ではなく、自分で問題を発見し、それを解明していく場です。
大学では、
・自分で問題を見つける
・調査や実験、文献をもとに分析・考察する
・問題を解明する
など「研究力」が求められます。
これは言い換えれば、学問を遂行する力です。
こうして見ると、日本で一般に「学力」と呼ばれている学習力は、大学で本当に必要とされる学力=学問を遂行する力(研究力)とは、必ずしも一致していないことが分かります。
そしてこの視点に立つと、「学力低下」という言葉の意味も少し変わって見えてきます。
一般選抜で測りやすい学習力だけを学力と考えるなら、確かに年内入試は学力を見ていないように見えるかもしれません。
しかし、大学で本当に必要なのが研究力であるなら、その議論はかなり限定された前提に立っていることになります。
つまり、「何を学力と呼ぶのか」によって、同じ現象の評価が大きく変わってしまうのです。
余談ですが、日本語の「学力」にぴったり対応する英語はありません。
日本語のニュアンスとして強い学習力に近いものは academic ability ですが、大学で求められる学問を遂行する力(研究力)は、research capabilityが近いです。
このように、英語ではこの2つの概念は明確に区別されています。
このこと自体、日本語の「学力」という言葉がかなり広く、しかも曖昧に使われていることを示しているように思います。

5. ハーバード大学の入試事情
ここまで見てきたように、日本では学力=学習力とみなされ、その学力観が大学入試にも強く反映されています。
そのため学科試験を主としない年内入試は、「学力を見ない入試」「学力低下につながる」として批判されやすいのです。
では、冒頭でも触れたハーバード大学の入試では、何が見られるのでしょうか。
ハーバード大学は、言わずもがな世界でもトップクラスの大学ですが、日本のように学科試験の一発勝負で高得点をマークした受験生が入学しているわけではありません。
ハーバード大学では、次のような書類の提出が求められます。
・高校の成績
・推薦状
・SAT / ACT
・高校時代の活動歴
・これまでの経験についてのエッセイ
・志望動機や将来の希望など
https://college.harvard.edu/admissions
https://college.harvard.edu/resources/faq/what-included-harvard-supplement
こうしてみると、日本の年内入試の内容とかなり似ていることが分かります。
そして実はこのような入試を実施しているのはハーバード大学だけではなく、アメリカの大学はほぼ全てが、日本の年内入試に非常によく似た方法で選抜を行っています。
6. 世界大学ランキングは何を評価しているのか
ところで日本の大学のランクは、一般選抜の受験生の偏差値で決まっています。
では、ハーバード大学のように学科試験一発勝負ではない大学は、どのような基準で評価されているのでしょうか。
そのことを考えるうえで参考になるのが「世界大学ランキング」です。
時々ニュースで、「今年は東大が何位にランクインした」などと報道されているので、聞いたことがある方もいらっしゃるかと思います。
この世界大学ランキングの評価項目には、そもそも「受験生の偏差値の平均値」などは一切ありません。
その大学の研究、教育、国際性などをもとに評価されます。

つまり世界基準での大学の評価は、「受験生が入試でどれだけ点数を取れているか」ではなく、「その大学がどのような成果を生み出しているか」という観点から行われていると言えます。
この世界大学ランキングでハーバード大学の順位を見てみると、2025年は3位、2026年版はトランプ大統領による研究予算の凍結の影響などからやや順位を落としたものの、5位につけています。
一方で、日本の東京大学は2025年は28位、2026年は26位です。
入学時の偏差値は高くても、その後の研究力に関してはまた別の問題ということです。
7. まとめ
今回は「年内入試は学力低下を招くのか?」ということについて考えてきました。
ここで大切なことは、「学力」の定義を曖昧にしないことです。
そして学力の定義を改めて考えると、年内入試を単純に「学力低下」と結びつけることは適切ではないことに気付きます。
世界基準では、大学が研究の成果によって評価されている以上、日本の大学入試もまた、受験生の研究力を見る方向に向かうのは自然な流れだと言えるでしょう。
さて、今回の記事で基礎編は終わりです。
次回からは、より実践的な内容について解説します。
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