Side Story①:第二章後 ‐ 史上最強の不法侵入(パトロール) 学園小説relationship
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Act.1「史上最強の不法侵入(パトロール)」
梅雨入り間近の、湿り気を帯びた熱風が肌を撫でる5月下旬の金曜日。 立華大学付属高校の西門からほど近い、賑やかな市街地界隈。誘惑と喧騒が入り混じる街の片隅に佇む、真新しい2階建てコーポの階段を、小柄な少年が元気よく駆け上がっていた。
阿佐巳 悠平(あさみ ゆうへい)。 この春、関西から越してきたばかりの1年生。体育科ではない彼は、規律の厳しい寮ではなく、この「街中」での一人暮らしを余儀なくされていた。
「あつー……。帰ったら即、冷蔵庫のピックルやな」
自室のドアの前。夕陽を反射して眩しく光るドアノブに手をかけた瞬間、悠平のくっきりとした二重の瞳が点になった。
「あれ……? なんで開いてるんや……? まさか、空き巣か、それとも……先輩らっ!」
嫌な予感は的中した。悠平は勢いよくドアを跳ね上げた。

嫌な予感がする阿佐巳悠平
(悠平は登場しませんが
本編写真部の活動は本編第二章Act.1 へ)
「……うわ、最悪や」
8畳のフローリングルームの中央。悠平が愛用しているソファのクッションを無造作に床に放り出し、我が物顔でくつろぐ二人の姿。
「おかえり、悠平君! 冷蔵庫のピックル、冷えてて美味しかったよ。ありがと」 「お邪魔してますよ。悠平君、案外いい漫画持っていますね」
ソファに寝そべってカメラ雑誌をめくる綾香(あやか)と、棚から勝手に持ち出した漫画に没頭する堀田(ほりた)。二人は「だらけモード」全開で、帰宅した部屋の主に声をかけた。

水瀬綾香(左)と堀田正樹(右)
二人の所属する写真部の活動は
本編第二章Act.1へ
「先輩ら! 勝手に上がり込むのはやめてくださいって、いつも言ってるじゃないですか!」
靴を脱ぎ捨てて叫ぶ悠平を、綾香が天然のバリアで軽くいなす。
「いいじゃん、学校から近いんだから。一人暮らしでこんな広い部屋使うのは勿体ないよ。有効利用、有効利用)」 「そうですよ。資源の再配分です」
(……絶対、関谷(せきや)さんが水瀬(みなせ)さんを甘やかしすぎるから、こうやってこっちまで被害が及ぶんやっ!)
内心で激しく毒づく悠平。だが、校内でも恐れられているあの稔之(としゆき)に対し、直接抗議する勇気など、これっぽっちも湧いてこない。 ……せや! こうなったら西谷(にしたに)さんに頼んで、二人を説得してもらうしかない!
悠平が希望に顔を輝かせた、その瞬間。部屋の奥から、「ズズッ……」と、丁寧にお茶をすする音が響いた。
絶望に頬を引きつらせ、悠平がゆっくりと振り返る。 そこには、部屋の奥のテーブルで行儀よく正座し、玉露を嗜む西谷の姿があった。テーブルの上には、ご丁寧に急須と「玉露」の文字が入った茶筒まで用意されている。

奥のテーブルで
緑茶を嗜む写真部部長・西谷武久
(写真部の活躍は本編第二章Act.1へ)
西谷はゆっくりと湯呑みを下ろすと、その童顔に柔和な笑みを浮かべた。
「悠平君。今のご時世、鍵を郵便ポストに入れておくのは無用心だよ?」
穏やかな、しかし芯の通った声。 西谷がこうして悠平の部屋に現れるのには、単なる遊びではない理由があった。街中の治安を危惧した理事長から、写真部部長である彼に直接「一年生の悠平を悪の道へ逸れさせないよう、時々様子を見に行け」という特命が下っていたのだ。
本来、他人のプライベートにはむやみに立ち入らない西谷だったが、任された任務には冷徹なまでに忠実だった。
「は、はい……」
「街中の一人暮らしは危険が多いからね。理事長からも頼まれているんだ。これからも僕たちが時々、抜き打ちでパトロールに来ることにするよ。心配だからね。……いいね?」
柔らかな物腰。だが、その背後に漂う有無を言わせない気配。 悠平は、この穏やかな先輩こそが、理事長という盾を使い、合法的に自分の聖域を蹂躙し続ける最強の門番であることを確信した。
「わーい、パトロール決定! これからもちょくちょく来るね」 「たまにお土産(ピックル)の補充も持ってきますから」
追い打ちをかけるような綾香と堀田の歓喜の声。 悠平は、西谷の笑みをたたえた表情を盗み見ながら、これから卒業までの2年間、自分のプライバシーが学校公認で消滅したことを悟り、目の前が真っ暗になるのであった……。
(Side Story① 終わり)
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