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最終章「幸せは貴方の心の中に」Act.2-2「見たい真実は走馬灯へ!」 学園小説relationship

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Act.2-2「見たい真実は走馬灯へ!」

足摺岬の黄昏時より14時間後、午前7時過ぎ。

綾香たちが住む市内中心部に位置する総合病院のヘリポートに、風を裂くような轟音とともに、空の彼方からドクターヘリが舞い降りた。 早朝から緊急手術検討会が行われた会議室からは、十人近い医師が緊張に顔を強張らせながら手術室へと向かっていく。

ナースセンターの空気が、一瞬にしてざわめきに染まる中。

「綾香!」 待合室で沈痛な面持ちで娘を待っていた綾香の両親、弘明と晶子が娘の姿を見るなり駆け寄った。

「お父さん、お母さん」 人目を憚らず両親に泣きながら抱きつく綾香。

亮哉は病院に着くなり集中治療室に運ばれ、間もなく緊急手術が始まるとの報が入った。 しかし、執刀医をはじめ、医療チームのほぼ全員の険しい表情が、亮哉の状態が極めて重篤であることを物語っていた。 手術は午前9時より開始され、6時間近くに及ぶ凄絶な闘いとなった。

午後3時。

学校を早退し、蒼ざめた表情の西谷が、目に憔悴の色を浮かべて手術待合室に入り、綾香の横に立ち尽くした。

(……彩賀、そんな……)

思い返せば去年の文化祭直後、亮哉がT市へ綾香を誘う話を聞いた時から、不吉な予感はしていたのだ。

(……許してくれ、彩賀……)

違和感を感じつつも、一歩引いて静観した自分の判断が、結果として親友の命を脅かすことになった。西谷はその「立ち入らないという決断」を、今は激しく悔いた。

鞄を足元に落とし、両手で顔を覆う西谷の姿に、綾香はかける言葉が見つからなかった。

学園小説 relationship 佐藤真弓 決定ビジュアル アニメ調 100%再現 西谷武久(童顔・緑の瞳・学校の制服) 病院の待合室 ベンチ 顔を覆って泣く姿 同一性の死守
病院の手術待合室。親友の彩賀亮哉の危機に直面し、
自らの判断を悔いて涙を流す西谷武久

手術室からは異様なほど静かな、けれども圧迫感を伴う空気が伝わってくる。 綾香もまた、正気を保つことが精一杯だった。

どす黒い静けさを保っていた手術室から、小さく悲鳴のような物音が聞こえた。

「!!」 絶望に突き動かされた綾香と西谷は、思わず手術室の入口を見た。同時に重い扉が開く。

看護師が綾香を見た。「いつもお見舞いに来ている子ね。……中に入ってくれる?」

その妙に落ち着いた優しさに、綾香の背筋は凍った。背中に一気に冷や汗が流れる。 促されて手術着に着替えた綾香が見たのは、無機質な多数の管が身体を貫き、人工呼吸器に繋がれた亮哉の姿だった。 バイタルモニターが一定の間隔で刻む電子音だけが、彼の命を辛うじてこの世に繋ぎ止めていた。

「……最後に、手だけ握ってあげて」

穏やかに伝える看護師の声が、綾香には容赦のない「最後の審判」の宣告のように響いた。 それでも今は、この手を繋ぐしかない。綾香は自分の中にある僅かな可能性を信じて、亮哉の手を握った。

昨日の夕焼けの中、優しく、けれど力強く自分を包み込んだその手は、今は蝋人形のように固く、冷たかった。


綾香が亮哉の手を握った、その同じ時。

亮哉は自らの視界の中で、闇に沈んだはずの夕陽が、再び自分を照らしているのに気づいた。

「……?」

不思議に思い、辺りを見渡す。そこは先ほどの足摺岬ではない。 亮哉がかつて綾香と初めて並んで歩いた、T市の土手、あの川沿いの道だった。

茜色に染め上げられた街並み。水面はその光を受けて、まるで夕暮れの空をそのまま閉じ込めたかのように、深く、鮮やかな朱に染まっていた。 しかし、亮哉の冷静な感覚は、これが現実ではなく、自らの脳が見せる「走馬灯(エンドロール)」であることに気づいていた。

(水瀬さんとの思い出の場所が、僕の最期の場所か……)

自分が最後に求めていたのが綾香であったことを、亮哉は魂の震えとともに悟った。 (せめて、最後に水瀬さんのあの日の姿が見たい)

亮哉は足摺岬で、自らの魂の震えがすべて伝わるように綾香の手を握った、あの感覚を呼び起こした。

「!!!」 手術室の中が静かな絶望に満ちていく中、綾香は微かに自分の指を求めて動く、亮哉の指先の感触を捉えた。

(彩賀君が、呼んでる!!!)

亮哉の最期の魂を握りしめるかの如く、綾香は亮哉の手を強く掴んだ。

「……!?」 瞬間、周囲の景色が消し飛び、綾香の意識は亮哉の精神世界へと吸い込まれていった。

人の気配を感じ取った亮哉は、後ろを振り向いた。走馬灯の夕陽の中に、綾香がいた。

学園小説 relationship 佐藤真弓 決定ビジュアル アニメ調 100%再現 彩賀亮哉(センターパート・眼鏡なし・鳶色の瞳・白パジャマ) 水瀬綾香(紫の瞳・ストレートヘア・制服) 夕陽 川沿いの土手 精神世界 同一性の死守
亮哉の精神世界(走馬灯)。
夕陽に染まる川沿いで、
再び巡り合った彩賀亮哉水瀬綾香

此処は? 綾香の視界に周囲の景色が再現されていく。川沿いに沿って十メートルほどの位置に亮哉の姿を見つけ、綾香は駆け寄った。

「彩賀君!」 「一緒に帰ろう! みんなのところへ!」

綾香も本能で悟っていた。ここが亮哉の意識下であり、長くは留まれないことを。

「私も気づかなかった大切な思い出を呼び起こしてくれて……本当にありがとう。でも、彩賀君がいなきゃ意味がないよ! だから戻ろう!」

亮哉の胸元近くまで飛び込んだ綾香は、さらに続けた。 「これからも一緒に、色んな景色を見ようよ!」

綾香の瞳は、あの時と同じ、深紅の宝石のように輝いていた。

亮哉は思い出した。自分が一番望んでいた光景。夕陽が放つ強烈な光芒を正面から受けた、綾香の美しさに惹かれた瞬間のことを。 もう二度と彼女に触れることができないのなら、あの時達せなかった……陽に透けた朱い糸のような綾香の髪に触れようと、亮哉は手を伸ばした。

綾香もまた、あの時咄嗟に避けてしまった亮哉の手に気づいた。 今度は逃げずに受け止めよう。亮哉を、必ず連れて帰るのだ。

「水瀬さん……!」

かつての記憶と違い、綾香は自分を凛と見つめ、手を伸ばしてくる。彼女は強く、自分と共に生きることを望んでいるのだ。 今、全身を染めている夕暮れではなく、胸の中に昼間の強い光が入り込んでいくのを感じた。

僕の肉体は今、滅ぶかもしれない。 しかし、彼女は時間も空間も超えて、自らの魂の中に居る。 ならばと亮哉は、足摺岬で飲み込んだ溢れる気持ちを叫んだ。

(足摺岬での葛藤――彼女を縛りたくないという迷いを、今は捨て去る。この瞬間に応えなければ、二度と「明日」は来ない)

「俺も、君が好きだ!!」

亮哉は知性も清涼さもかなぐり捨て、一人の少年となって叫んだ。想いを伝えた達成感に目が眩む。堰を越えて言葉が溢れ出た。

「水瀬さん、俺と一緒に東京に行こう! 君とずっと、同じ世界を見たい!」

綾香は初めて見せた亮哉の剥き出しの感情を受け、紅い涙を滲ませながら、亮哉の手を掴んで引き寄せようとした。

その瞬間、山合いから冷たい突風が吹き上げた。 風は綾香の髪を舞い上げ、露わになったうなじに、あの夜の内出血の痕が浮かび上がる。

突然、辺りが闇に落ちた。亮哉の表情が、いつもの冷静なものへと戻っていく。 暗闇の中に目を凝らすと、夜の帳の向こうに、聞き慣れた声の息遣いが聞こえた。

「!!」 亮哉の目に、常夜灯のわずかな光の中で激しく揺れる綾香と稔之の姿が映り込んだ。

視線の先では、綾香が稔之の首に腕をまわし、熱を帯びた息遣いを彼と重ねていた。

その光景を、亮哉は驚きも怒りもなく、ただ静かに俯瞰していた。 まるで、自らが選んだ選択の果てを、遠くから見届けるように。 綾香をその腕に抱いたままの稔之と、亮哉の視線が、ふと交差した。

「彩賀、この現実を受け止められるのか? 俺に抱かれる綾香も、真実なんだぜ」

稔之の声は揺るぎなく、亮哉の逃げ場を奪うように問いを突きつけた。

「受け止める。これもまた、水瀬さんの初恋の成就であるのなら。関谷、俺は彼女のすべてを肯定する」

亮哉の表情から少年の影が消え、確かな覚悟だけが残った。亮哉は自ら選んだ現実を正面から受け入れ、再び綾香の方へ手を伸ばした。

(僕は水瀬さんと共に生きる)

一方、綾香の意識は、深淵なる稔之との記憶――あの高千穂の夜へと滑り込んでいた。

脳裏に蘇るのは、月明かりが静かに差し込む宿の一室。 目の前に座る稔之の、吸い込まれるほどに真っ直ぐで、ひたむきな「少年の瞳」。 13年間、共に笑い、プリンを分け合い、家族のように育んできた歳月が、その瞳のぶつかり合いの中で一つに結実していく。

あの夜、二人の視線が逃げ場のない距離で重なったとき、それは綾香にとって「初恋の完成」だった。

稔之の手のひらから流れ込んでくる熱量は、それが単なる情欲ではなく、人生のすべてを賭けた愛であったことを物語っていた。

綾香は自らの魂の震えとともに確信する。自分は、この少年を心から、真剣に愛していたのだと。だからこそ、あの日プールの水面に映った痛みは、命を削るほどに鋭利だった。それほどまでに、稔之は彼女の人生そのものだった。

(稔之……。あの夜の熱は、今も私の中に生きている)

手術室では、悲鳴に近い緊迫感が漂っていた。バイタルモニターの音が、今にも途切れようとしている。

(……彩賀。僕は、こんな結末は辛すぎる……)

西谷の目に、大粒の涙が溢れる。親友を失うことの恐怖、文化祭のあの日に彼を呼んだことへの後悔の渦が彼を苛んでいた。

手を伸ばした亮哉は、夕陽が一段と暗くなるのを感じた。 自分に残された時間の僅かさを悟った死への恐怖か、手のひらから汗が滲みだす。

「水瀬さん……!」

暗闇の中で、亮哉と稔之の姿が一瞬重なり、消えていく。

未来を切り開く高みか、過去を積み上げた温かな継続か。

いよいよ命の火が消えゆく間際、亮哉は最後の一滴の力を振り絞り、叫んだ。

「水瀬さん、お願いだ! 俺と一緒に生きてくれ!」

綾香は、稔之と築き上げた、幼い日の笑い声、そして地元で育んだすべての記憶を振り返り、静かに息を吸った。

そして、迷いを断ち切るように、亮哉の差し出した手を両手で強く包み込むと、自らの胸元へと引き寄せた。

前につんのめった亮哉と視線がぶつかる。その瞳には、決意と未来への微かな震えが宿っていた。

何ものも、命を賭して自分の心を救った亮哉の献身には、敵わなかったのだ。

「大切な思い出も、今ある此処も、全部私の中に置いていく。その重さを抱えたまま、私はあなたと一緒に生きる。――行こう、彩賀君!」

学園小説 relationship 佐藤真弓 決定ビジュアル アニメ調 100%再現 彩賀亮哉(センターパート・眼鏡なし・鳶色の瞳) 水瀬綾香(紫の瞳・ストレートヘア) 重なる手 精神世界 強い光 生還の瞬間 同一性の死守
彩賀亮哉の手を強く握り締め、
共に生きることを
決意する水瀬綾香

その決意が空間を貫いた瞬間、闇は朝焼けのような柔らかな光へと塗り替えられた。



手術室に響く、冷たく規則的な機械音。 それがふとした瞬間、力強いリズムへと変わった。

6時間に及ぶ死闘。 執刀医が極度の緊張から解放され、血走った眼をしばたかせながら、小さく、けれど確かなガッツポーズを決めた。

彩賀亮哉、生還の瞬間だった。

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