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第三章「夏の終わりに・・ 二人を繋ぐ漆黒の記憶」Act.1「風景の向こうに」 学園小説relationship

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Act.1「風景の向こうに」

校内施設の撮影から一月ほどが過ぎた、八月下旬。 午前十時の空には薄く雲が広がり、連日の猛暑に比べれば幾分か過ごしやすい朝だった。 場所は、かつて綾香と稔之が低木を修繕した「第一公園」。外周の木々の間からは、行く夏を惜しむように蝉が力なく鳴き、遊具のあたりでは子供たちが元気に駆け回っている。

その公園の中央、近代的なオブジェクトの前で、写真部の三人は撮影の準備を進めていた。 水瀬綾香、西谷武久、堀田正樹。立華大学付属高校写真部の面々である。

綾香は何度も設置場所を悩み、ようやく三脚を立ててカメラを据え付ける。引き続き、絞りの調整に入る綾香に、隣で様子を窺っていた西谷が穏やかに助言した。

「水瀬さん。あのオブジェクトを撮りたいんだよね? ……だったら、もっと絞りを開いたほうがいいんじゃないかな」

綾香が選んだのは広角レンズ、絞り数値はF16。手前から遠景まで全てにピントを合わせるパンフォーカスを狙う設定だ。風景写真には適しているが、近距離の被写体を際立たせる手法ではない。

「ううん。これでいいの」 「えっ? でも、これじゃ背景までくっきり写りすぎて……」 西谷は黒目がちな目を細め、カメラの設定と被写体を交互に見つめる。一体、彼女は何を撮ろうとしているのか。

「海みたいに撮りたいんだ」 「……は?」 思いも寄らない綾香の言葉に、西谷は一瞬呆気に取られた。 「ほら。あのオブジェクトを囲っている低い木が、波みたいに見えない? それで、真ん中のオブジェクトが島」

学園小説 relationship 佐藤真弓 第三章 決定ビジュアル アニメ調 100%再現 水瀬綾香(赤Tシャツ・紫の瞳) 西谷武久(黄色ポロシャツ・穏やかな表情) 撮影風景 公園 同一性の死守
第一公園での撮影。三脚を据える水瀬綾香と、
傍らで助言する西谷武久

綾香の視線を追って、西谷は改めて公園の風景を見つめ直す。どこにでもある、低木に囲まれた無機質なオブジェ。 「水瀬さん、自分だけの世界の話をしても人には伝わりませんよ」 少し離れたベンチに座っていた堀田が、苦笑混じりに口を挟んだ。いつものように睨み返されるかと思い身構える堀田だったが、意外にも綾香は力なく視線を落とした。 「……そうだよね。わけわかんないよね」

その様子を見て、西谷の頭の中に一つの予感が閃いた。 『自分だけの世界』。 この少女は写真を通して、自分自身の心の中にある幻想を、他人に形として見せようとしているのではないか。中学時代に撮った、あの幻想的な千光寺の桜のように。

西谷はアドバイスの方針を切り替えた。 「水瀬さん、自分が思うように撮ってみなよ。……ただ、これを使ってみて」 西谷はリュックからPL(偏光)フィルターを取り出し、綾香に手渡した。被写体の表面反射を抑え、色彩を強調する道具だ。

「心の中に思い浮かぶ光景を、そのまま写し取るような感覚で。実際の風景とのギャップを埋めるために、これで輪郭やコントラストを強調してみるといい」 「そっか。こんな便利なものがあったんだね。西谷君、さすがだよ!」 綾香は新しい玩具を与えられた子供のように顔を輝かせ、夢中でフィルターをレンズに取り付けた。

そんな彼女を見つめながら、西谷は心の中で自戒を込めて呟く。 (被写体の本質まで見抜く、鋭い洞察を持ち合わせた心。それが写真を撮るのに一番大切なもの。道具や技術はその次だ) それは自分自身で気づかなければ意味がない。この真理を掴み取った者だけが、物を創る「権利」を手にするのだから。


一時間後。 撮影を終えた三人は、公園北側の休憩施設にある野外卓で涼を取っていた。それぞれコンビニで買ってきたアイスキャンデーを手に、雑談に興じる。

「そういえば、あの樹って関谷君が直したんですよね」 ソーダ味のアイスを頬張りながら、堀田が尋ねた。 「うん。私が穴を掘っていたら、いきなり来たんだよ。関谷君って、すごく勘が良いと思わない?」 「うーん……たぶん関谷君、水瀬さんの家族に余程気を使ってるんですよ」 堀田の言葉に対し、綾香は深く考える様子もなく無邪気に笑った。 「ふむ。そんなに気を使わなくていいのに。関谷君も家族みたいなものなのになぁ」

「ところで、水瀬さんは風景写真が好きだよね。何かきっかけがあるの?」 それまで複雑な表情で二人の会話を聞き流していた西谷が、話題を変えた。 綾香は一瞬アイスを食べる手を止め、遠くを見つめる。 「小学生の頃、お父さんが自然公園の散策にハマっていてね。よく二人で出掛けたんだ」

公園の西側に広がる田んぼ。緑の稲穂が風に揺れ、上空を無数の赤とんぼが舞っている。 「小学生の頃、学校が面白くなくてね。いつも週末が来る頃には疲れきっていたんだよ」 口調こそ明るかったが、綾香の瞳から光が消え、能面のような無表情になったのを西谷は見逃さなかった。 「だけど、広い風景を見るたびに……風に触れるたびに、気持ちが変わっていったの。自分を取り巻く環境なんて、小さな世界の一部だって」

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赤とんぼが舞う田園風景。
過去の記憶を辿り、遠くを見つめる水瀬綾香

「……一番、印象に残っている場所はある?」 西谷は目に気遣いの色を浮かべながら、静かに問いを重ねた。 「高知県の、足摺岬かな。海の色と澄んだ空気は格別だった。……また行きたいなぁ」 思いを馳せる綾香に、堀田が「あそこって自殺の名所ですよね」と無神経に口を挟んだ。次の瞬間、堀田は頭にたんこぶを作り、床に転がることになった。

学園小説 relationship 佐藤真弓 決定ビジュアル アニメ調 水瀬綾香(怒り顔) 西谷武久(困り顔) 堀田正樹(眼鏡・たんこぶ・気絶) コミカル ギャグシーン 衝撃の緩急 同一性の死守
休憩所での一幕。失言した堀田正樹
怒りの一撃を加える水瀬綾香

「ぼ、僕も足摺岬は知っているよ。四国最南端の岬だね。南国の植物が生い茂って、見事な景観だって聞くよ」 西谷は気を取り出して頷いた。 「じゃあさ! 今度、部内旅行でみんなで行こうよ。美樹と律っちゃんも誘って」 綾香の提案に、西谷は穏やかに首を振った。 「いや……僕は一緒に行かないよ。足摺岬は、きっと別の誰かと行ったほうがいいと思うな」 「えっ?」

不思議そうに小首を傾げる綾香に、西谷は意味ありげな含み笑いを返した。

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