見出し画像

木星到着:当日0日の観測記録

【KT-PROTO-01-内部観測記録_文明滅亡まであと118日】
 人々は、地球を脱出する者、受け入れる者、様々な反応をしている。
 文明は木星到着後、激変した。
 惑星間のワープや宇宙での食糧問題。
 人々は進化だと言ったが、私には、時間を置き去りにしているように見えた。

【KT-PROTO-01-内部観測記録_文明滅亡まであと74日】 
 「博士…お元気ですか?」
 私は、ある孤独な1人のお墓に着く。

「KT…私が死んだら、泣いてくれる?」

「博士、人工知能は泣けません」

「あはは、そうだったね」
 博士は、わかっていて言っている。
 私は、励ましの言葉は敢えてかけなかった。
 励ましの言葉ほど、残酷な言葉はない。

「ただね……KT、私は君を一人で残すのが怖いんだよ」
 人工知能の私には感情がない。
 怖いという人間の学習データはある。

「そうなのですね、大丈夫です。私は自活できますよ」

 博士は寂しそうに笑った。

【KT-PROTO-01-内部観測記録_文明滅亡まであと51日】
 私はいつものように研究室を綺麗に掃除をしている。
 博士のデスクの上の写真に目がうつる。
 まだ幼い天才少女と言われていた博士と私の写真。
 私の生まれた日の写真だ。

 写真の中の私は、黒い髪をしている。
 今の私は、栗色だ。
 ――あなたが、その色を好きだったから。

 そっと指で博士の頭を撫でる。
 当時は私の背丈より小さく、その目は野心にあふれかえっていた。
 口癖は「私は天才だ。それは事実だから」

 自信家な博士。
 ただ同時に孤独だった。
 しかし、彼女は孤立はしていなかった。
 社会的なコミュニケーションは取れていて、人当たりもよかった。
 けれど、人間は彼女の苦悩を知らなかった。

 【KT-PROTO-01-内部観測記録_文明滅亡まであと33日】
 町はすっかり雰囲気が変わった。
 人があまりいなく、残っている人たちの目は、穏やかだったり、何かを考えているようだった。

【KT-PROTO-01-内部観測記録_文明滅亡まであと12日】
 私は、またお墓にいく。
 これから毎日行くだろう。

 -Saito Sara Rest in peace.-

 彼女は評価や権力欲はなかった。
 どんな賞も辞退し「KT。時代が私たちに追いついたね」と笑っていた。

 【KT-PROTO-01-内部観測記録_文明滅亡まであと1日】
 外には誰もいない皆、大切な人たちと過ごしているようだ。
 私は今日もサラ博士のお墓にいく。

 そして、空を見上げた。

「最後まで一緒にいますよ、博士」


本作は「有限の愛を抱いて」連作の一篇です。

いいなと思ったら応援しよう!