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第5回(全10回)/「キャー」と走り回った100日

連載「100日で、会社が売れた」#5

これは、2025年秋から100日間、幻冬舎の編集者でビジネスインフルエンサーの箕輪厚介さんと、マレーシア在住の起業家・恵島良太郎さんが挑んだ「1億円M&A」プロジェクトに、私がスタッフとして横から参加し、見ていたことを書いている連載です。

ある夜のこと。

法人設立の確認書類、出資契約のフォーマット、メール配信とLP作成ができるオートメーションツールの管理画面、お問い合わせフォームの設置画面、Webページの修正画面——これらが、ぜんぶ同時に開いていました。

「キャー、何でもかんでも触ってる。」

そう思いました。100日のあいだに、たぶん100回くらい思いました。

ただ、これは「大変だった」という話ではないんです。むしろ、めっちゃ楽しかったんです。

未知のものを形にしていく仕事が、私はもともと、大好きなので。


私が今回のプロジェクトでやっていたことを、書き出してみると、こうなります。

法人設立まわりの書類整え、出資契約の準備、プレゼン資料を議論に合わせてアップデートし続けること、お問い合わせフォームの設置、面談への動線づくり、メール配信の設計、SNS発信の組み立て、Webページの制作、そして「1億円プロジェクト」の企画元である株式会社ROFL・倉田社長との進捗共有と連携。

並べてみると、わりとバラバラです。

ただ、これまで仕事で触ってきたものの引き出しが、それぞれ役に立ちました。20代のころに化粧品通販会社のECやマーケティング部門で過ごし、その後のキャリアの合間に、スタートアップで広報PRの立ち上げや企画まわりのサポート、メルマガやステップメールの設計といったことを、ちょいちょいやってきました。コロナ前に独立してからは、オンラインイベントの主催や、WordPressでのWebサイト制作・納品を、自分のサービスとしてクライアントワークで回してきました。

つまり、20代から今に至るまでに、ちょっとずつ手を伸ばしてきた仕事の引き出しが、今回のプロジェクトでは、いっせいに開く形になりました。

マーケティングの基本の原則みたいなものは、20代の頃に体に入れたものが、ベースとして今もあると思っています。それでも、AIが入ってきた今は、その上にどう仕事を組み直していくかを、日々考えています。まだ機能や仕組みが整っていない事業の、その手前の手前のところを手伝う仕事を、これからもやっていきたいと思っています。


池田さんがビジュアルデザインを動かしてくれていたのは、7月か8月、比較的早い段階からでした。

その頃、サービスはまだ「SNSのスコア力測定」というB2C向けのコンセプトで進んでいました。池田さんが上げてきてくれた最初のデザインを、ミーティングで開いた瞬間。

恵島さんと、拓海さんと、私のテンションが、ものすごく上がりました。

「これいいですね」「めっちゃいい」「ちゃんとサービスっぽい」——画面の中に、自分たちが作っているものが、ちゃんと立ち上がって見えた瞬間でした。それまでバラバラに動いていた作業が、ひとつの「サービス」という顔を持った——そんな夜でした。

ところが、です。

YouTubeで業界のキーパーソンたちにフィードバックをもらううちに、私たちはサービスのコンセプトを大きく切り替えました。

B2Cのコンセプトとは、個人がSNS上での自分のスコア力を測るツール。どれくらい影響力があるか、数値で可視化する、というものでした。B2Bに転換後のコンセプトは、企業の営業担当者や採用担当者が、決裁者・特定スキルを持つ人材・特定の関心層などを、SNSデータとAIを使ってリスト化し、一人ひとりに最適化されたアプローチ文面まで自動生成する、というものです。届ける相手が変われば、サービスの設計から、UIのデザインまで、全部変わります。

ターゲットが変われば、デザインも変わります。

BtoBに転換後のサービス(Social Reach) PC TOP画面デザイン(変更後)
当初BtoC向けサービス予定だった頃のPC TOP画面イメージ(変更前)


当初のサービスイメージ。この後、ターゲットも目的も大幅に変更することになる。

池田さんには、相当の負担をかけました。せっかく上がっていた最初のデザインを、ぜんぶ組み直してもらうことになったからです。

——池田さん、本当にありがとうございました。

あの夜、私たち3人のテンションを一気に押し上げてくれたあのデザインのことを、私はこれからも忘れません。あの画面があったから、私たちは「ちゃんとしたサービスを作っているんだ」と信じて、ここまで走ってこられました。


12月に入った頃。

櫻井さんが、メンバーに加わってくださいました。

櫻井さんは恵島さんよりも年上の方で、過去に恵島さんと一緒に仕事をされたことがありました。「恵島さんとは、こういうふうに進めるとスムーズですよ」と、私にもときどき教えてくださる距離感の方で、これだけでも私はずいぶん救われました。

櫻井さんが入ってくださった頃、サービスはちょうど形になって、個人面談が次々と入り始めた時期でした。

お客様からのご要望を聞き、感想をサービスにフィードバックし、書類のやり取りをして、また次の面談に臨む——その一番大変な時期に、櫻井さんが営業活動を引き受けてくださいました。それまで私が手が回らずに困っていたところに、櫻井さんが加わってくださったので、私は本当に、本当に助かりました。

数値シミュレーションも、当初は私が手探りで進めていました。櫻井さんが入って営業まわりをガッツリ見てくださるようになって、私はすごくホッとしましたし、肩の力が抜けました。

ゼロからイチで顧客を呼び込むパワーは、やはり恵島さんがいちばん持っています。櫻井さんは、その先——オンラインも含めた営業活動の中で、お客様一人ひとりに丁寧に向き合い、適切に対応していく部分が、本当に強い方でした。

私は、両方を見ながら、自分の手元のことに集中できるようになりました。


それでも、走りながら、私はずっと自分にイライラしていました。

もっと事前に、しっかり準備しまくりたかった。

LPだって、Webページだって、面談の準備資料だって、メールの動線だって、本当はもっと極めたかったんです。一つひとつを、もっと丁寧に、もっと重めに、ちゃんと作り込みたかった。「届けるための一つひとつ」を、もっと精度を上げて、ぜんぶ整えてから出したかった。

でも、現実には、必要なものを、必要なタイミングに、ギリギリで間に合わせるのがやっとでした。「今日すぐ発表しよう」という急展開の中で、申し込みが入ってきて、後手に回って——もう少し先回りしておけば、と、何度も思いました。

逆算して、もっと早くから準備していれば、もっと良いクオリティで臨めたんじゃないか。

反省点は、山のようにあります。

ただ、このプロジェクトは、ターゲットがB2CからB2Bに切り替わるという、大きな転換を経て進みました。ビジネスのコアな部分や、誰に届けるかという定義そのものが動く中では、どれだけ早くから準備しても、結局はその場で組み直さなければならない場面が、必ず出てきます。

——あ、これ、トライアスロンと同じだな、と思いました。


私は、趣味でトライアスロンをやっています。

一番長い距離だと、スイム3.8キロ、バイク180キロ、ラン42.195キロ、というやつです。本来はもっとストイックに向き合うべきスポーツなので、こんなことを書くと真剣にやっている方には怒られそうなのですが、私は、その年その年の仕事のペースに合わせて、楽しく完走して、終わったあとの美味しいビールをゴールに据える——そんな付き合い方をしています。

歳を重ねても続けていけるように、ライフワークとして、健康でいたい。

そんなスタンスで、ゆっくり続けています。

それでも、このスポーツの面白さは、よくわかってきました。

種目が多くて、装備も多い。ウェットスーツ、バイク、シューズ、ヘルメット、補給食。準備にかかる時間は、本番の何倍も長い。それだけ準備を尽くしても、本番では想定外のことが必ず起こります。海が荒れる。雨でレースの種目がカットされる。予定していた便が動かない。荷物が届かない。当日になって、計画は何度も組み直されます。

それでも、その場で「今ある条件の中でのベスト」を選び続けて、ゴールまで運んでいく。

「準備を尽くしたうえで、現場で対応していく」——この比率が、トライアスロンは他のスポーツよりも、たぶん大きい。

100日のプロジェクトも、同じ性質のものだったんだと思います。準備を尽くしても、現場で組み直すことがたくさんあった。私の反省は本当の反省でもあるけれど、ある程度は、こういう仕事の宿命でもあるんだ、と今は思っています。


恵島さんのことも、書いておきます。

正直に書きます。100日のあいだ、恵島さんに対して、ムカっとした瞬間が、私には何度かありました。

「えっ、今それを振ってくるんですか?」と思ったことも、ありました。私が手元のことでいっぱいいっぱいで、自分の前提や進め方に余裕がなかったせいです。それは、わかっています。

でも、少し離れて冷静になって振り返ると、恵島さんは全部わかったうえで、次の一手を打っていたんです。「レイコさんはこういう意図で聞いてくれているんですよね」と、こちらの状況や感情を汲み取って受けてくださる。私が大人げなく感情的になってしまった場面でも、恵島さんは、淡々と対応してくださいました。

自分の未熟さを、反省しています。そして、恵島さんの「大人力」に、心から感謝しています。

——おかげで、ちゃんとゴールまでたどり着けました。本当に、良かったです。


AIで働き方は、すでに変わってきています。

私たちがこのプロジェクトを走っていた2025年の秋から冬と、これを書いている今では、たった数ヶ月しか経っていません。それでも、AIツールはさらに進化していて、もっと使いやすく、もっと主要なものになりつつあります。今日時点で、自分がどのポジションで、どう仕事をしていくか——私自身、日々考えています。

答えは、たぶんひとつです。

使えるものは使って、アップデートし続けて、適応していくしかない。適応する力そのものを、追いつきながら、柔軟に組み直していくしかない。

この100日で、私はそれを、体で学びました。


次回は、その変化のスピードの中で、画面の向こうから次々と現れた、業界のキーパーソンたちの話を書きます。


第1話から読んでくださっている方、ありがとうございます。
途中から来てくださった方は、よければ最初から読んでいただけると、人物や背景が繋がってきます。バックナンバーはマガジンにまとめています。

👉 連載「100日で、会社が売れた」(マガジン)


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