【mJOHNSNOW】理学療法士の私が論文抄読会に登壇するまで―学び、出会い、少しの恩返し
🔶「専門家と学ぶ!メソッド重視の論文抄読会」
「こちらに登壇していただけませんか?」
お世話になっている、オンラインスクールのmJOHNSNOW。

運営の方に、最初にお誘いをいただいたのは、昨年、転職したばかりの頃でした。
まだ新しい仕事に慣れるだけで精いっぱい。通勤時間も元々の職場が15分だったのに、今は1時間半。5時起き生活のため、帰っても早々に寝るだけ。
登壇準備まで両立できるとは思えない。そのときはお断りしました。
二度目のお誘いは、ちょうど年度が変わった頃。
「こちらに登壇していただけませんか?(2回目)」
センター内の人事異動などで職場が慌ただしく、私自身にも年度替わりのタイミングで大きな仕事が入りました。7月7日、七夕の日に、大きなプレゼンを控えていたのです。
今は、その準備を最優先にしなければならない。
「申し訳ございません。7月7日に大きな仕事があるため、お受けできません」
そして迎えた、7月7日。
今日の昼が終われば、ようやく一段落する。
そう思いながら朝、仕事へ向かおうとしたところ、ダイレクトメッセージが届きました。
「こちらに登壇していただけませんか?(3回目)」
あまりに、「ちょうどよい」タイミングでした。
以前のやり取りは、たしか別の運営の方と交わしたはずです。それでも「7月7日が終われば」という話がきちんと共有され、この日に連絡をくださった?
運営の皆さんの情報伝達の素晴らしさに、少し驚きました。
思い返せば、私はいつも、情報をもらってばかりです。疫学の大学院は修了したものの、そこで学んだことを広く還元できているかと聞かれると、あまり自信はありません。
それでも今なら、少しくらいは返せるものがあるかもしれない。
そう思い、三度目にして、ようやく引き受けることにしたのです。
✒️筆者紹介
理学療法士/修士(リハビリテーション学・公衆衛生学)
回復期リハビリ病院では病棟主任・教育主任を歴任。脳卒中後の機能回復と栄養管理の臨床・研究に携わる。
リハビリテーション医学の科学的根拠を追求すべく、大学院にてリハビリテーション学の修士号を取得。さらに、臨床研究・疫学・統計解析の実力を体系的に習得するため、公衆衛生学修士(MPH)を取得し、医療データの分析にも軸足を置く。
医療リアルワールドデータ活用人材プロジェクト 東京大学履修コースで、医療の現場から得られる大規模データを用いた実証研究に取り組む。 臨床と疫学をつなぐ視点から、介入効果の可視化と医療政策への応用を目指している。
現在は、臨床現場を離れ、医療研究開発センターのスタディーマネージャーとして新たな挑戦を始める。
🔶「専門家」として話す怖さ
ただ、すぐに気持ちが固まったわけではありません。
そもそも「専門家と学ぶ!」というタイトルが、私には少し仰々しく感じられました。
これまで、比較的大きな会場で講演した経験はあります。それでも、オンラインで一人、長い時間話すのは初めてです。過去のアーカイブを見ると、ほかの講師の方々は皆さん話が上手い。自分に同じことができるとは、とても思えませんでした。
疫学の大学院を出たからといって、自分を「専門家」と言い切れるほどの自信もない。
けれど、まあ、失敗しても命を取られるわけではないかと。
mJOHNSNOW内は、安心して失敗できる空気もあります。
フェローの皆さんは、みな誠実で、仮に私が変なことを言っても、きっと後から優しく修正してくださる。
そう思えたことが、最後のひと押しになりました。
7月7日。大きな仕事を一つ終えた、その日のうちに。
一息つく間もなく、次の予定が入りました。
🔶23人目として、どの論文を選ぶか
最初に取りかかったのは、論文選びです。
私が23人目の登壇者。毎月の積み重ねで、すでに22本もの論文が、研究手法に焦点を当てて紹介されていました。あらためて考えると、これは本当にすごい蓄積です。
一方で、これまでコメディカルの登壇者は、あまり多くありませんでした。
私の出発点は理学療法士です。最近は大規模データの解析にも力を入れていますが、大規模データは、思い立ったその日に解析できるものではありません。そもそも手元にデータがないことが多く、データを扱うまでにも、さまざまな手続きや「お作法」があります。
せっかく自分が話すのであれば、理学療法やコメディカルの研究に引き寄せて考えられ、聞いた人が自分の研究に持ち帰りやすい論文にしたい。
そう考えて選んだのが、この論文になります。
Gotta catch'em all! Pokémon GO and physical activity among young adults: difference in differences study
Pokémon GOと若者の身体活動を扱った論文にしました。

2016年の論文なので、決して新しくはありません。ただ、2026年はPokémon GOの10周年。ちょうどテレビでも10周年のCMが流れていました。
古いけれど、今だからこそ少しキャッチーで、入り口として面白い。
あと、メソッド重視ということで、まだ過去22回で Difference In Differences: DID分析は紹介されていませんでした。
そして、
Pokémon GOは、人の行動を変えたのか
この論文を選んだ一番の理由は、扱っている問いがとても素朴で、同時にコメディカルの研究へ広げやすいからです。
これは、ある出来事や曝露をきっかけに、人の行動は変わるのかという問いに変換しやすく
Pokémon GOはゲームですが、見方を変えれば、活動量を増やし、運動の継続や外出を促す仕組みでもあります。
これは、健康アプリ、運動プログラム、健康教室、外出支援など、リハビリテーション領域のさまざまな介入に置き換えて考えられます。
この研究で捉えた行動変容は「歩数」でした。しかし、身体活動量、社会参加、体重、服薬行動など、ほかのアウトカムにも置き換えられます。
人の行動の変化を、どうデータとして捉え、どう研究に落とし込むのか。
その考え方を学ぶうえで、リハビリテーションに関わる人にも参考になる論文だと感じました。
🔶この論文から持ち帰ってほしかった4つのこと
解説では、主に次の4点を取り上げました。
コホートの単純比較から一歩進むこと
パネルデータを活用すること
オンライン調査の利点と偏りを理解すること
DID分析によって分析の幅を広げること
1.始めた人と始めなかった人を、ただ比べるだけでよいのか
本研究は、オンラインで収集したデータを用いたコホート研究です。
Pokémon GOを始めた群と始めなかった群を単純に比べても、その差をそのままPokémon GOの効果とはいえません。
両群では、もともとの健康意識、体力、生活環境、外出への関心などが違っているかもしれないからです。
では、その違いをどのように考えればよいのか。
この論文は、単純比較から一歩進むための、一つの考え方を示してくれます。
2.医療現場には、すでにパネルデータがある
もう一つのポイントは、同じ人を繰り返し測定する「パネルデータ」の活用です。
医療現場では、定期評価などを通じて、同じ患者さんのデータを何度も測定しています。つまり私たちは、日常的にパネルデータに触れています。
それらを適切に活用できれば、「効果があったか」だけでなく、「いつ変化したのか」「その変化はどれくらい続いたのか」まで検討できるかもしれません。
3.集めやすいデータほど、偏りを考える
オンライン調査は、短時間で多くのデータを集められる、とても便利な方法です。
ただし、集めやすいデータほど、誰が調査に参加したのか、誰が途中で離れたのか、そこにどのような偏りが入り得るのかを、丁寧に整理する必要があります。
「たくさん集まった」ことと、「偏りの少ないデータが集まった」ことは、同じではありません。
便利さに目を奪われすぎないために、この点についても時間をかけて触れました。
4.東京と大阪、去年と今年は、本当に比べられないのか
DID分析を知ると、研究の問いの立て方が少し広がります。
たとえば、東京と大阪。あるいは、去年と今年。
そのままでは比べにくいデータでも、一定の条件がそろえば、介入や出来事の効果を推定できる可能性があります。
その鍵となるのが、「平行トレンド」と「共通ショック」です。
もちろん、DID分析を使えば何でも比較できるわけではありません。だからこそ、分析手法の名前を覚えるだけでなく、どのような仮定の上に成り立っているのかを理解する必要があります。
また、本文中にも、多くの正確性や結果の妥当性を高める工夫がなされています。
このあたりは、実際のデータを見ながら、スクール内の動画で詳しく解説しています。
動画で紹介した参考文献一覧
DIDの基礎~回帰式のパート
クラスター・ロバスト標準誤差のパート
オンライン調査の注意点のパート
平行トレンドの仮定と、その確認方法のパート
そして、引き受けたからこそ生まれた、思いがけない出会いもありました。
🔶画面の向こうにいた「あの人」
今回、私の登壇に合わせて司会をしてくださった方がいます。
紹介を受けた時、お名前にはまったく見覚えがなく、どんな方なのだろうと思いながら、コミュニティー内で公開されているプロフィール(公開範囲は任意)を拝見しました。
そこに書かれていた内容を読んで、驚きました。
私は、ちょうどコロナ禍の頃、理学療法士として働きながら公衆衛生大学院へ進学しました。
当時、私の周りには、コメディカルから公衆衛生の道へ進んだ人がほとんどいませんでした。授業についていけるのか。この選択でよかったのか。わからないことがあっても、誰に聞けばよいのか。
不安は、かなりありました。
そんな時期にSNSで見つけたのが、同じくコメディカルから公衆衛生大学院へ進み、ちょうど私が受けていたものと重なる内容について発信している方でした。
勝手に親近感を覚え、フォローさせてもらっていました。
その方は、YouTubeにも勉強会の動画をアップされていました。顔は映っていなかったので、どんなお顔の方なのかも知りません。
ただ、その動画を、私はめちゃくちゃ見ていました。
プロフィールを読み進めるうちに、「もしかして、あの動画の方では?」と気づきました。
コロナ禍の頃、一方的に画面越しで教えてもらっていた方が、数年後、私の登壇の司会をしてくださっている。しかも、同じオンラインスクールに入会されていたことさえ、このタイミングで初めて知りました。
そんなことがあるのかと、本当にびっくりしました。
6年越しにお礼を言うことができました。
そして、公衆衛生大学院へ進んだばかりで不安だった私と、今度は人前で疫学について話す今の私が、思いがけない形でつながったような感覚がありました。
🔶次は、神戸のオフ会
今月末には、オンラインスクールのオフ会があります。
今回は初めての関西開催で、場所は神戸です。東京まで出向くのは難しくても、神戸なら自宅からそれほど遠くありません。

せっかくの機会なので、思い切って参加することにしました。
講義中にいくつか質問をくださった方も、オフ会に参加されるそうです。今度は画面越しではなく、解析の話などで直接盛り上がれそうな気がしています。
8月末が、今から楽しみです。
……とはいえ、私は基本的にコミュ障です。
いろいろな方と話したくてオフ会へ行くのに、大人数の立食形式になると、自分から話しかけることがなかなかできません。
その点、今回の登壇で少し顔を覚えてもらい、自分が何者なのかも多少は知ってもらえたはずです。
これで、誰かのほうから話しかけてもらいやすくなったのではないか。
そんな邪推もしています。
🔶引き受けたから、返せたもの
思い切って登壇を引き受けたことで、最近は疫学から遠ざかっていたのですが、久しぶりにしっかり学び直すことができました。
そして、これまでこのコミュニティーから受け取ってきたものを、ほんの少しだけ返せたかなと思います。
さらに、以前から一方的に学ばせてもらっていた方との思いがけない出会いや、これから直接話してみたい人たちとのつながりまで生まれました。
mJOHNSNOWには、公開されている動画を観ながら、自分のペースで学んでいる方も多いと思います。私自身も、最初はその一人でした。
ただ、今回登壇する側になってみて、mJOHNSNOWは「動画を観て勉強する場所」だけではないのだと、あらためて感じました。
オンライン、オフラインを問わず、さまざまなイベントが用意されています。そこで新しい知識に触れ、普段なら出会えなかった人とつながり、ときには自分が人前で話す機会までいただける。
学ぶだけでもよい。誰かの話を聞くだけでもよい。質問してもよいし、自分の経験を持ち寄ってもよい。そして、少し勇気が出たときには、登壇する側にも回れる。
一つのコミュニティーの中に、これほど多様な関わり方が用意されているのは、本当にすごいことだと思います。
今の自分の余裕や関心に合わせて距離を選べるのに、一歩踏み出せば、思いがけない人や経験につながっていく。その懐の深さが、mJOHNSNOWの大きな魅力です。
私にとって今回は、学び直しの機会であると同時に、「人前で長く話す」という新しい経験をもらう機会でもありました。
学びを受け取るだけだった場所で、今度は自分が誰かに何かを渡す側になれた。そう思えたことが、今回一番嬉しかったことかもしれません。
今回は、このような経験をさせていただき、ありがとうございました。

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