山の暮らしの物語35 初めてのお駄賃
< このシリーズは
戦後、ある山村に実在した一家をモデルとして、創作したものです >
木の芽も少しふくらんで、日差しがまぶしい。
あちこちから小鳥の声が聞こえる。
一家は、椎茸栽培の林をめざして急な山道を登っていた。
父さんが背負ったカゴの中で、文ちゃんは初めての景色に、はしゃいでいる。 母さんとゆきちゃんは、後ろでおしゃべりに夢中だ。
30分ほどで尾根に着くと、道はなだらかになり、涼しい風が吹いてきた。
母さんは、そばに寄って文ちゃんをあやしている。
尾根の先には、窪地があって
3年前に菌植えをした榾木(ほだぎ)に、椎茸がたくさん出ていた。

その横に、今年の植付け用の丸太が積んである。
冬の間に父さんが、切りそろえたものだ。
今は、ゆきちゃんも春休みなので
家中そろって、椎茸の菌植え作業にやって来た。
木陰にむしろを敷いて文ちゃんを下ろし
一休みした三人は、作業にかかった。
父さんが、ハンマーで丸太に深さ5cm程の穴を幾つも開けてゆく。
くり抜いた幹の部分は捨てて、皮の部分をカゴに集めておく。
母さんとゆきちゃんは
父さんが開けた丸太の穴に、キュッと、指先ほどの大きさの菌を入れ、木槌で軽く叩く。

最後に木の皮を乗せてたたいてフタをする。
キュッ トントン … この繰り返しだ。
木洩れ陽がさす林の中は心地よくて、なかなか楽しい作業だ。
それに、ゆきちゃんは、初めてお駄賃をもらえる事になっているので
うれしくて仕方がない。1日30円の約束だった。
菌植えがすむと、出ている椎茸を収穫して
西の空が赤くなる頃に、一家は山を降りた。
そんな日が続いて、椎茸菌の植えつけは終わった。
次の日の朝、父さんはゆきちゃんの頭を撫でながら
「よう がんばった。
1日30円やったの。3日間お手伝いしたから、90円やな」
「うん!」
「よし、10円おまけしとこか」
父さんは、にこにこして、10円玉を10枚並べた。
「これで 100円やで。よう覚えとけよ」
「ヒャクエン… キャラメル 買える?」
「おう いくつも買えるぞ」
もうすぐ新学期が始まり、ゆきちゃんは二年生になる。
( 学校の帰りに 同級生の美穂ちゃんとこのお店で
キャラメルを買おう、文ちゃんにも分けてあげよう )
ゆきちゃんは、赤いドロップの空き缶に10円玉を大事にしまった。
自分で働いてもらった、初めてのお駄賃である。
ちょっと 大人になった気がした。
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