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山の暮らしの物語31 父さん炭を焼く 1/2


<  このシリーズは
  戦後、ある山村に実在した一家をモデルとして、創作したものです >


炭焼き窯を作る


谷川をはさんだ向かいの山から、煙が立ちのぼっている。
父さんが炭焼きをしているのだ。

始まりは、三ヶ月ほど前だった。

秋の始めから、父さんはひと月以上かけて土をこね
向かいの山に、小さな炭焼き窯を作った。

そうしておいて
寒くなる頃には、山からクヌギやカシの木を切り出して来て
切り揃えた丸太を、斧で割って積み上げた。

「父ちゃん これが炭になるん?」
「そうや、うろうろすなよ。危ないぞ」

ゆきちゃんは近くの丸太に腰かけて眺める事にした。
父さんが振り下ろす斧で、丸太が音を立てて割れるのが面白い。
香ばしい木の匂いがする。

こうして、何日もかけて炭焼き用の木材が出来上がった。

ずいぶん寒くなった頃、ゆきちゃんが学校から帰ると
父さんが 四つん這いになって窯の奥に潜り込んでいる。

「父ちゃん 何してるの?」

窯から出てきた父さんは、汗びっしょりだ。

炭焼き窯に、炭にする木材を詰め込んでいたのだった。
木材が縦にびっしり並び、上には松の小枝をかぶせてある。

「おう お帰り。明日は火入れるぞ」

「え〜 ほんと? 見た〜い」

「学校も休みやろ、朝からやろか」
「うん!」


あくる日の朝は、よく晴れて風もなくいい天気だった。

父さんとゆきちゃんは、いつものように
家の下の小さな谷川にかかった丸木橋を渡って
向かいの山の急な斜面を登り、炭焼き小屋に向かった。

谷の向こうに見える家の庭先では、弟をおんぶした母さんが
洗濯ものを干している。

「お〜い」と呼べば 声が届きそうだ。

ゆきちゃんは、張り切って手を振った。


火入れ _ 炎と煙 


炭焼き窯の前に立った父さんは
「さあ… やろか」と、一息入れると
「脇へ のいとけよ」とゆきちゃんを遠ざけた。


1日目 予備乾燥


窯の入り口の小枝に火をつけ、その上に太い枝を乗せる。
炎はパチパチと音を立てて、大きく燃え上がり
壁をなめるように窯の奥に入っていく。

 
( わぁ〜 すごいな。 お風呂を沸かすのとは、全然違う )
ゆきちゃんは、わくわくしている。

窯の中で燃えているのは
炭材 (炭になる木材) の上にかぶせてある松の小枝だ。
窯の後の煙突は空き缶で塞いであるが
その下の排気口から、褐色の煙が噴き出してきた。



窯の中の小枝が十分燃えあがると、父さんは入り口をふさぎにかかった。
煙がもうもうとたちこめる中で
窯の入り口にレンガを積み上げ、練った赤土で塗り固めていく。

焚き口で炎と煙が渦巻いているので
ゴホン ゴホンと 咳き込みながら
首の手ぬぐいで汗をふき、父さんは格闘していた。

熱い!
煙の匂いが目に染みる!

「父ちゃん…」
ゆきちゃんは、ちょっと怖くなって後ろに下がった。

やがて、窯の入り口は、赤土で塗り固められた。
床付近に、レンガひとつ分の通風口と
上の方に、30cm四方くらいの焚口があって
そこだけ、赤い炎がチロチロと見えている。

窯の中では、閉じ込められた炎が燃えさかっているのだ。
炭材は、その熱にあぶられて水蒸気を噴き出し、少しづつ乾燥してゆく。


汗びっしょりの父さんは、水筒の水を飲んで一息ついた。

「どや? えらいもんやろ」
「うん、おっかな〜い!」
「火はありがたいけんど 恐ろしもんや」
「うん」
ゆきちゃんは、心の底からうなづいた。

だが、父さんの仕事はここからが本番だ。
これからしばらく、昼も夜も火を燃やす。
つきっきりで窯の様子をみるので、夜もゆっくり寝ていられないのだ。

続く


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