【はじめての方へ】 離職率60%の特養を4年間で「日本一の職場」に変えた二代目社長の話 【第1話 親の七光りが入社するってよ!】
「介護も知らん親の七光りが来るらしい」
社会福祉法人の職員の間に、こんな噂が流れた。
「理事長の息子が来るらしい」
そして、すぐにこう続いた。
「どうせ親の七光りだろ」
「介護も知らないくせに」
正直、無理もない。
当時の施設は、完全に崩壊寸前だった。
・離職率60%
・職員の退職が止まらない
・100床の特養なのに満床にならない
18億円をかけて建てた特別養護老人ホーム。
しかし運営は赤字続きだった。
そんな組織に、
介護経験ゼロの僕が入ることになった。
社会福祉法人超源会
社会福祉法人超源会は、2014年に岐阜県で設立された。
理事長は高坂蝶八郎。
僕の父である。
特別養護老人ホームを開設したのは2016年4月。
施設長と事務長には、介護業界のベテランを招聘した。
さらに採用にも力を入れた。
外部コンサルタントに約2000万円を投じ、
新卒70名を採用。
盤石な体制でスタートした。
…はずだった。
混乱期
しかし現実は違った。
施設長と事務長によるパワハラ。
それが原因で、職員の退職が相次いだ。
人がいない。
100床の特養なのに、満床にならない。
18億円をかけて作った施設は、
赤字経営に陥っていた。
どうする、蝶八郎。。。
ここで転機が訪れる
2018年、パワハラ施設長と事務長が辞め犬塚施設長のもと新体制をスタート。
彼は非常に優しく、常に他人の意見に耳を傾ける。
が、決断力に欠ける人物であった。
理事長である蝶八郎と二人三脚で歩んできたが、決めるのはいつも蝶八郎の方であった。
「法人を変えたい!」と熱く語っていた男だったのに、施設長のポストに就くや、自分のことが最優先の男になってしまった。
いや、そもそも、そういう男であったのだろう。
だが、蝶八郎は見抜けなかったのである。
施設長は職員が不足しているにも関わらず全ての休みを消化し、常に有給を使用していた。
また、休日には連絡も取れず、成果が上がっていないにも関わらず、常に最高評価Sの賞与を受け取っていた。
この状況を許し、改善しなかったのは理事長の蝶八郎である。
やはり蝶八郎は人材育成が下手だったのである。
(だから、株式会社ウォーターメロンも倒産したのであるが)
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そんな施設長のもと、まともな組織になるわけがない。
上司が動かないから、部下たちはいつも仕事に追われる日々。
忙しいが達成感がない。
出口の見えない不安
現場職員からは、
「法人として何がしたいのかわからない」
「ビジョンが見えないから不安」
「いつも言っていることがバラバラ」
「言っても無駄」
そんな不平不満が多い職場であった。
蝶八郎は、このままでは法人が社会的役割を果たせない!
求める救世主
白羽の矢を息子、涼介に立てるのである。
そのとき涼介は株式会社ユージア調剤薬局部門のナンバー2まで登り詰めていた。
東京で単身赴任をして3年目の時である。
そして『利益最大化プロジェクト』の最重要施策リーダーを任されたところであった。
『利益最大化プロジェクト』の最重要施策とは何か?
全国展開している薬局グループの業務標準化と人員配置の最適化をするプロジェクトである。
そのタイミングで父から打診があったのだ。
「どうだ元気か?」
「うん、どうした?」
「そろそろ帰って来る気はないか?」
「帰るもなにも、薬局売って無くなってるやん」
「・・・社会福祉法人やらない?」
でたよ!またか!
また同じことしてるよ!
ウォーターメロンの時と同じ!!
何も成長してない。。。
「実は大きなプロジェクトを任されたとこなんだよ。
大きい組織でやっとここまで登り詰めたんだ。やりたいんだよね、このプロジェクト」
「わかった。涼介がそう言うなら仕方ない。とりあえず一年待つわ。
とりあえず一年やってみたらいい。
ただそのプロジェクトが本当にお前がやりたいと思っている『従業員を大切にすること』に繋がっているかどうかだな。」
俺が『従業員を大切にしたい』って、なんで知ってんだ?
「今から社会福祉法人で人を大事にする経営をやっていく。また来年声かけるわ、頑張ってな」
そう言って、父は電話を切った。
『利益最大化プロジェクト』の概要を説明しよう。
社長の肝入り施策。
「地方で困っているグループ企業に本社で採用した薬剤師を回してあげたい」
「人員が潤っている店舗と厳しい店舗との差をなくしてあげたい」
その結果、無駄な人件費をカットし、効果額として2億円を出してほしい。
やはり社長も、『従業員を大切にしたい』と考えているんだ。
と、涼介は感じた。
地方出身グループ会社の涼介は、この考えにすごく共感した。
また、自分がそのプロジェクトをやれることにものすごく誇りを持てたのである。
株式会社ユージアは、総グループ従業員数約2,500人、その中でたった一人しかできないプロジェクトリーダーである。
施策内容もみんなが待ち望んでいた、本社とグループの協力体制が構築できるものである。
薬剤師問題が原因で倒産した自分の薬局グループ(株式会社ウォーターメロン)には願っていた施策である。
施策を進めるにあたり、まず初めにやったことは現場分析。
①全グループの薬局を調査し、年間の処方箋枚数を抽出。(過去3年分)
②季節性、時間帯ごとの処方箋枚数推移。
③処方箋内容『粉・一包化・錠剤のみ・軟膏ミックス・外用薬のみ・などなど
※薬剤師なら想像つくよね?』を抽出し、時間帯ごとの必要な薬剤師人数と医療事務人数の配置を決めるのである。
(ストップウォッチを持って一日中1つ1つの行程を計測し記録の繰り返し。)
仮説と検証を繰り返す事、6ヶ月。
『標準』を決めた。
1時間ごとの薬剤師と医療事務の人員配置を決定し、そして、その人員配置でテスト運用を実施。
テストする前から「出来ない」「やれない」の不平不満ばかり。
「50代の薬剤師と20代のピチピチ薬剤師は動きが違うから、同じ一人でカウントして欲しくない!!」
「標準通りに処方箋が来ない場合どうするんだよ!」
その都度、涼介は全グループに説明に回るのである。
せめて、まずやってみてから文句言ってくれないかな。
標準化のデータ作り上げるまでにどんだけ苦労して作ったことか。
朝7時から夜中の2時までとかしょっちゅうだったし。
終電逃して帰れない日も多々あったし。
土日も休みだけど家でずっとこの仕事してたんだけど。
エクセル資料なんか、あんなに苦手だった統計とか回帰分析とか使って、分析して、分析して、の繰り返し。
52回もエクセル資料を作り直したんだ!!
現場は、こっちの苦労なんか知ったことない、と言わんばかりの罵詈雑言が常に聞こえてきた。
従業員を大切にできない!?
そのような状況が続き、涼介の心は壊れかけていた。
さらに、追い打ちをかけるような事件が起こったのである。
この施策、最重要施策のため、進捗を毎月社長に直接報告するのである。
施策開始は穏やかだった社長は、月日が経つにつれ進捗が芳しくないとイラだっていた。
10回目の社長報告の時に事件は起きた。
「効果額2億円、達成できるんだよね??」
「結局さ、人がいないって厳しいって言ってるけど、その店舗もさ、現実それで回ってるわけでしょ?
だったら別に余剰人員を足りない店舗に回さず、コストカットすればいいだけじゃん。
そしたらもっと効果額出るよね?それでやって。」
「・・・・・・・・・・・(何言ってる?従業員を大切にしないってこと?結局金かよ)」
僕は言葉が出なかった。
ただただ、同席していた部長に無言で訴えかけた。
(部長、反論してくれ!!)
その想いは、むなしく散った。
「社長、その通りです。さすがです!いいアイデアありがとうございます!」
そして社長報告会は終了した。
と、同時に、涼介の心が完全に壊れた。
また従業員を守ることが出来なかった。。。
結局、金か。。。
この会社にいても結局ダメだ。
組織が腐ってやがる。
この会社にいても自分がダメになる。
あれ?どっかで従業員を大切にするって聞いたなぁ・・・。
そうだ、親父だ!
あれから社会福祉法人どうなったんだろう?
涼介は父に電話をした。
「どう?調子は?」
「犬塚くんではだめだ。もう、自分が理事長兼施設長でやろうと思っている。」
めちゃくちゃ困っている様子だった。
「じゃあ、俺やろうか?
ただ、今のプロジェクトあるから、引継ぎかねて今期一杯やるよ。
来年からそっちに行くわ。」
介護も知らない親の七光りが入るってよ
そうして、株式会社ユージアを2020年3月に退職し、5月に社会福祉法人超源会に副理事長として入社するのである。
理事長の息子が入社する噂は一瞬で広まった。
たが、決して好意的ではなかった。
「介護も知らん、親の七光りが入るってよ」
「結局、何もできないでしょ。いいよね、ボンボンは」
次回より、どん底の社会福祉法人を日本一へ導いた取り組みを書いていきます。
どうぞ、ご期待ください。
