【ファンタジー小説】『今日も魔女の住む森で』第一話 紫の霧のペンダントとグミのソファー
【あらすじ】
紫の霧に守られた魔女の森。
そこには、魔女の魔法で命を吹き込まれた四匹のちょっぴりおまぬけで仲良しなぬいぐるみたちが暮らしています。
ある夏の夜、魔女の森を激しい山火事が襲います。
大切な森を守るため、すべての魔力を使い果たして倒れてしまう魔女。
大好きな魔女を救うため、ぬいぐるみたちは結界を維持する「紫の霧のペンダント」を手に、初めて人間の街へと旅立つ決意をします。
しかし、人間の街は楽しいことばかりではありませんでした。
大騒動に巻き込まれ、離ればなれになってしまう仲間たち。
ペンダントの魔力が届かなくなれば、彼らは命を失い、ただの「物」に戻ってしまいます。
絶体絶命のピンチの中、はたして彼らは魔女を救い、再びみんなで元の幸せな暮らしを取り戻すことができるのでしょうか?
第一話 紫の霧のペンダントとグミのソファー
ここは魔女の住む森。
魔女に命を吹き込まれたぬいぐるみたちの住む森。
森のはずれには紫の霧が立ち込めて魔法の世界と外界を隔てています。
紫の霧を越えてしまうと、生きたぬいぐるみたちはもとのぬいぐるみに戻ってしまいます。
それは魔女も同じでした。
紫の霧を越えてしまうと、魔法の使えない普通の人間に戻ってしまう。
だから魔女はいつも魔力の源である『紫の霧』を閉じ込めたペンダントを身に着けているのでした。
それがあれば森を出ても魔女は魔法を使えますし、魔法の力が消えることはないのでした。
そんな不思議な森の奥深くで暮らすのは、四匹の仲良しなぬいぐるみたち。
魔女の家で美味しそうな匂いを漂わせているのは、料理が上手なヒグマとシロクマ。
少し離れた所には、発明家のウサギと、賢くてやさしいフクロウもいます。
住んでいる場所は少し違っても、四匹はいつも一緒に遊んでいました。
森での暮らしはとても穏やかで楽しいものでした。
豪華な料理を用意してお誕生会をしたり、おやつを食べながらテレビを観たり。
魔女の図書館には読み切れないほどのおもしろそうな本だってあります。
しかし、四匹にとって一番の楽しみは魔女の大切な「紫の霧のペンダント」を盗むことでした。
まだ成功したことはありません。
でも、いつかペンダントを手に入れて森の紫の霧を越えて人間の街へ行くことが四匹の夢でした。
テレビや本で見る人間の世界がキラキラして楽しそうで、幸せそうで。
木の上から遠くの街を眺めているだけで自然と笑みがこぼれて、心が満たされるのでした。
ある日のこと。
ウサギの家で昼食会を行うことになりました。
ヒグマとシロクマは腕によりをかけて得意の料理とデザートを作りました。
お肉トロトロのビーフシチュー。
採れたてキノコの野菜ゴロゴロスープ。
ふんわりモチモチのパンケーキ。
どれも鼻がくすぐられるようないい匂いで本当に美味しそう。
ぬいぐるみたちはもう食べられないというほどお腹いっぱいになると、ソファーに座っておしゃべりを楽しみました。
「そういえば」
ウサギがテレビのリモコンを操作しながら話を始めました。
「街の遊園地に世界最速ジェットコースターが完成したっていう特番がやってたから見逃し配信で一緒に見ようよ」
テレビには、街の遊園地に世界最速ジェットコースターが完成したことを伝える特集番組が映し出されています。
ぬいぐるみたちは目を輝かせてテレビを食い入るように見つめています。
「絶対に乗りたいよ!」
ウサギの言葉にみんな「うん、うん」と声を出して頷きます。
「今晩、『紫の霧のペンダント』を盗みに行くよ」と、
もうウサギはやる気満々です。
しかし、魔女と一緒に住んでいるヒグマとシロクマは顔を見合わせます。
「実は今日の朝、僕たち食器を洗わずに遊んでたら怒られちゃって、そのあと洗濯するのを忘れて怒られちゃって」
と、ヒグマ。
「だから今日は魔女の機嫌が悪いからやめた方がいいと思うよ」
と、シロクマ。
それを聞いてもウサギは自信満々です。
「怖かったら寝たふりをしていてくれればいいから。僕とフクロウで頑張ってみる」
フクロウは「しょうがないな」という感じで、
「いいよ」
と答えました。
そして、その日の夜。
ベッドの中で楽しくお話をしていたヒグマとシロクマは、誰かが窓を叩く音に気付くと掛け布団をすっぽり頭までかぶって寝たふりを始めました。
少しするとウサギとフクロウが屋根裏に入ってきました。
ぬきあし、さしあし。
ゆっくり、しずかに。
ヒグマとシロクマはちょこっと布団をめくって様子を見てみます。
ウサギは侵入してくるとき新しい発明品を準備してきます。
しかし、いつもその発明品のせいですぐに魔女に見つかってしまうのでした。
なぜなら、ちょっぴりおまぬけな発明品ばかりだからです。
今日はウサギが丸いアンテナのついた大きなリュックを背負っていました。
フクロウがこっそりとクマたちの耳元まで来て言いました。
「今日は動くものを検知すると爆音が鳴るリュックを持ってきたんだ。
スイッチを入れたらすぐに後ろにいる僕に反応して爆音が鳴るから耳を塞いでてね」
ヒグマとシロクマは真剣に頷き、いつもウサギに付き合ってあげているフクロウのやさしさに感動するのでした。
ヒグマとシロクマは布団の中で両手でしっかりと耳を塞ぎ、そのときを静かに待ちました。
すると突然、「ファン!ファン!」という爆音サイレンと、
魔女の「ギャァー!」という金切り声がクマたちのいる屋根裏まで響きました。
ビックリしたヒグマとシロクマは階段を駆け下りて魔女の部屋へ飛び込みました。
ウサギとフクロウが魔女に怒られて、部屋の隅でブルブル震えて小さくなっています。
「今日は機嫌が悪いから許さないんだからね」
魔女はウサギとフクロウの首根っこを掴んでひょいと持ち上げると、ヒグマに二匹を渡しながら、「魔女のスープと一緒に煮込んじゃって」と言いました。
キッチンで四匹は困ってしまいました。
まさか本当にウサギとフクロウを煮込んでしまうわけにもいかないし、そもそも明日の朝に森へ食材を取りに行く予定だったので魔女のスープを作ることもできません。
「これってなんだろう?」
食材を探していたシロクマが、冷凍庫の奥から大きなタッパーを持ってきてテーブルに置きました。
白い霜で覆われたタッパーの蓋には黒いマジックでこう書かれています。
『緊急用魔女のスープ』
ヒグマは首をかしげました。
「いつからあったんだろう?全然気がつかなかったね」
シロクマにも思い当たるところはありませんでした。
付いている霜の感じからずいぶん古いものだとわかります。
しばらくタッパーをひっくり返したり、コンコンと叩いてみたりしてから、
「今って緊急だよね」
と、ヒグマ。
「魔女のスープだね」
と、シロクマ。
「これ使っちゃえば?」
と、ウサギ。
「夜の山は暗くてケガや野生動物に遭遇する危険がいっぱいだけど、家にあるものを使えば完全に安全だしね」
と、フクロウ。
ヒグマが霜でピッタリとくっついたタッパーの蓋を「バキッ」と力を込めて開けると、何とも言えないいい匂いが一瞬でぬいぐるみたちを包みました。
いつもヒグマとシロクマが作る魔女のスープと少し色が違いますが、入っている食材はいつもクマたちが作っている魔女のスープと全く同じです。
ただ、匂いだけが明らかに違います。
甘くてどこか懐かしくて嗅いでいると幸せに満たされるように感じました。
それは、ぬいぐるみたちが「生まれるよりもずっと前」から知っているような、不思議で温かい匂いでした。
ウサギはすぐにその匂いに魅了されて、自分からダッチオーブンに入って煮込まれる準備をするほどです。
お風呂ほどの温度に温めてあげると、ウサギとフクロウは本当に気持ちよさそうです。
「はぁ~、このまま帰りたいな。本当にいい匂い」
すっかりリラックスしているウサギとフクロウを二匹のクマたちはにっこりしながら眺めます。
突然ウサギが「いいこと思いついた!」と言ってダッチオーブンから出ると、ヒグマに頼んで中のスープにゼラチンを入れて冷やし固め、ふかふかのグミのソファーを作りました。
さらに屋根裏からおもちゃのタイヤを四本持ってきて、ちょちょいとダッチオーブンにつけてカートにしてしまいました。
「グミにして匂いそのまま、タイヤをつけてこのまま帰れる」
ウサギは満足そうな声でそう言うと、再びダッチオーブンの中に入りヒグマとシロクマに、
「押して」とお願いしました。
ヒグマとシロクマは家具にぶつけないように慎重に玄関まで運ぶと、「よし!いくよ」とダッチオーブンカートを押し、自分たちは蓋にしがみついて坂道を転がって行きます。
ウサギはフクロウの隣で嬉しそうにふかふかのソファーを撫でて、(帰ったらエンジンとハンドルと、あれもつけて、これもつけて……。)とニヤニヤするのでした。
そして四匹は魔女に怒られたことなど忘れて、そのまま森の中をゆっくりと走っていきました。
次の日の朝。
魔女が「そういえば、ウサギとフクロウはどうした?」と聞いてくるので、ヒグマが「ツキノワグマに食べられちゃった」となんとなくごまかすと、魔女は大慌てでクマ撃退スプレーと大きなハサミを持って出かけようとするので、シロクマが必死に止めました。
そんなハチャメチャだけど楽しく幸せな日々が続くと誰もが思っていました。

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