見出し画像

娘からのプレゼント

今は独り立ちして遠方にいる次女が、家族の温泉旅行を予約したと伝えてきた。会社の福利厚生手当もあるし、去年のボーナスを皆に還元するのだと言って。
お父さんのために、宿泊者だけが利用できる図書館兼書店のような施設のある宿を選んだ、というのがたまらなく嬉しい報告だった。

去年、沖縄旅行を企画し、レンタカーを運転して「美ら海水族館」に連れて行ってくれたときも、娘たちが逞しくなったと、しみじみ感じたものだったが、今回はまたその感慨もひとしおに感じる。

伊与原新『月まで三キロ』に書かれていた、こんな話を思い出した。

太古の月、人類が登場するずっと前の月は、くるくると自転していたという。地球から眺めると、月は色々な表面を見せていたはずだ。ちょうど、子どもたちが小さい頃、笑ったり、泣いたり、怒ったりと表情をくるくると変えながら見せていたように。

ところが、地球の及ぼす潮汐力のために、月の自転にブレーキがかかる。このブレーキは月の自転周期が公転周期と一致するまでかかり続けて、ついに月はピタリと同じ側面だけを地球に向けるようになる。この現象を「潮汐ロック」というのだそうだ。

親と子が互いに引き合って絆を強めると同時に、子は親の知らない側面を持つようになることに、よく似ていると思って、この話を読んだのを思い出す。そうやって、子は親の知らないうちに逞しくなり、親が手助けできないような悩みを、抱いていくのだろうとも思う。

さて、月の潮汐力の影響は「潮汐ロック」にとどまらない。月も地球に潮汐力を及ぼしていて、地球の自転にブレーキをかけている。その反作用で月の公転が加速され、その公転軌道が大きくなっていく。つまり、月は地球から少しずつ離れていくのだ。

愉快な連想ではないのだが、娘たちも自然の摂理に従って、親から少しづつ離れていく。昔くるくると様々な表情を見せている子どもたちも、やがて表情を落ち着かせるようになり、その同じ摂理で親から遠ざかっていくのだ。

娘のプレゼントを今は心からありがたく受け取りたいと思う。そして、彼女たちの成長が、やがて遠く旅立つことにつながるとしても、それは今の絆があればこそなのだと、自分に言い聞かせている。

いいなと思ったら応援しよう!