【雨、ジム、そして月まで3キロ】
「今日は、行かない。」
そう決めて、ボクシンググローブを置いた。
先週から昨日まで、仕事という名の荒波に揉まれ続けてきたんだ。流石の俺も、今は静寂を求めている。
窓の外は、生憎の雨。
だが、それがいい。この湿り気が、かえって俺を部屋の奥深くへと誘う。
「ジムをサボった」のではない。
俺は今日、「肉体の鍛錬」よりも「精神の巡礼」を選んだのだ。
今月の2冊目。指名したのは、積読の山で静かにその時を待っていた『月まで3キロ』。

かつての俺は、自分のことを「活字アレルギーの読書嫌い」だと思い込んでいた。
だが、それは脳が仕掛けた巧妙なトラップだったのかもしれない。「苦手だ」という呪文を唱えることで、無意識に言葉を弾き飛ばしていたんだ。
だから今日、俺は脳に極上の嘘をつく。
「趣味? 読書の他に何があるってんだ?」
「俺は、文字を愛し、物語に飢えている男だ。」
世の中には月に100冊を平らげる猛者もいるらしいが、そんなのは別世界の住人だ。
俺は俺のペースで、この1ページに魂を沈める。
雨音をBGMに、俺の「読書狂」としての初日が、今、静かに幕を上げる。
