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【Re:write】第23話 秘密の通路と、甘い罠

―絶望を、書き換えろ。


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アリアの指先が、ローブの縫い目を一度だけなぞった。

「よし、決まりだね! こっちにおいで。私の『ウサギの穴』に案内してあげよう!」
エラーラが跳ねるように歩き出す。
カイが続く。

アリアの視線が、二人の背中で一度だけ止まる。
(…楽しそう)
一瞬、指先がローブの裾を掴む。
二人の言葉の往復に、どうしても追いつけない。
ローブの縫い目を摘んだ指先に、うっすら跡が残った。
何も言わず、裾の皺を伸ばしてから、静かに後を追った。
 
工房の床。ラグマットの下。
石造りの階段が、地下の闇へと口を開けている。
「ここが、図書館の禁書庫まで続く秘密の通路さ。まあ、ちょっとした防犯装置(しかけ)があるけどね」
エラーラが悪戯っぽくウインクする。
躊躇なく、闇に身を沈めた。
「……防犯装置、ねえ。嫌な予感がするぜ」
ドレイクが戦鎚を握り直す。
 
湿った螺旋階段。
突き当たりは、分厚い鉄扉だった。
中央にレリーフ。
歯車が組み合わさった、奇妙な顔。
「第一関門、『賢者の扉』だよ」
エラーラが振り返る。
「この扉は、正しい『問い』を投げかけないと開かない。さあ、君の知性を見せておくれ、カイ・ミシマ」
 
カイはレリーフに触れた。
指先で歯車の噛み合わせを追う。
「解は導き出された。『万物の根源は、数字である』」

シーン。

扉は沈黙している。
「……不正解、みたいだね」
エラーラがクスクスと笑う。
「違う……。ならば、錬金術の四大元素論か? 『答えは、汝の内にある』!」

シーン。

カイの眉間に皺が寄る。
無慈悲な沈黙。
 
「……こんにちは?」
ミミの声。
アリアの足元から、レリーフを見上げている。
ゴゴゴゴゴ……!
重低音。鉄扉が、ゆっくりと開き始めた。

「「「…………」」」
カイ、ドレイク、エラーラ。思考停止。

「きっと、この扉を作った方は、誰かにそう言ってほしかったのですね」
アリアが微笑む。
 
次の通路。石畳の廊下。
「ここも何かあんのか?」
ドレイクが一歩踏み出す。
ウィィィン……ガシッ!
「うおっ!?」
壁から飛び出した機械アームが、ドレイクを捕縛した。宙吊り。
ジジジジジ……!
アーム先端の羽が振動を始める。脇腹へ。
「んっ……くっ……ふ、ふはははは! や、やめ……やめろぉ、このっ……ぐひひひひ!」
鋼の肉体が悶絶する。
「第二関門、『笑いの拷問機』さ!」
エラーラが胸を張る。
「床のタイルを踏むと作動する。解除するには、正しい順序で壁のレンガを押さないといけないんだが……その順番を、忘れちまった!」

「おいぃぃぃぃ!」
 
カイが動く。
床の模様。壁のレンガ。パターン照合。
特定のレンガを押し込む。
アームが停止する。
ドレイクが落下した。
「……そこの眼鏡……てめえ、後で覚えてやがれ……」
 
最後の扉。
小さな木製。
隙間から漏れるのは、完全な闇と、カビの匂い。

「……ここからは、静かに。アルベールの連中がうろついているはずだからね」
エラーラの声が緊張を帯びる。

「……チッ。真っ暗で何も見えやしねえ。どうする、小僧」
「松明は使えない」
カイは闇を睨む。
「エラーラ。俺は、この世界の法則を逸脱した記録を探している。心当たりは?」
エラーラが目を丸くした。
「……ははぁ。なるほどね。君の知性の源は、そっち方面かい」
ニヤリと笑う。
「それなら、一つしかないね。『禁書庫』だよ。第十三区画。歴代の王が隠してきた、呪われた書物が眠る場所さ」
「案内しろ」
 
闇の中。
鉄格子の前。厳重な封印。
「ここが禁書庫。でも、どうやって入るんだい? この錠はピッキング不可能……」
カチリ。
カイの指先が離れると同時に、開錠音が響いた。
「……嘘だろ」
 
足音。
書庫の奥から。

「例の『遺物』の解析は進んでいるか?」
「はっ。ですが、何度やっても、被験者が精神崩壊を……」
一行は書架の影に滑り込む。

足音が迫る。

アリアがカイの袖を掴む。震え。
カイはエラーラを見た。声は出さない。視線で問う。
(どれだ)
エラーラが思考を巡らせる。
(一番奥。最下段。黒い革表紙。『名もなき神々の書』)
カイが頷く。
 
影から腕を伸ばす。
古文書を一冊、抜き取る。
錠を閉める。
足音が通り過ぎていく。気づかない。
 
カイの手の中。
ずっしりと重い、黒い革の本。
カビと埃。
そして、微かな鉄錆のような臭い。
書架の影。

闇。
静寂。

その奥底で、何かが胎動を始めた気配だけが、冷たく漂っていた。


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2025/12/31改稿


第十七話:秘密の通路と、甘い罠 お読みいただきありがとうございます。
エラーラの仕掛けた、どこかコミカルで、しかし厄介なトラップの数々。
ですが、その先に待っていたのは、アルベール公の暗い影でした。
ついに、禁断の知識へと手が届きます。


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